開発の背景と経緯
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近年、我が国のリンゴやナシの東アジア諸国への輸出が活発ですが、果実にハダニ類の付着が目立つ場合には検疫で不合格になることがあり、また、ハダニの付着は商品価値を著しく損なうので、貿易業者からはハダニ類の除去を強く求められています。
- これまでは、果実洗浄機がなかったため、果実1個ずつをエアガンによる手作業で処理していましたが、多くの時間がかかっています。そこで、農研
機構においては、ハダニ類除去作業の省力化のため、これまでに揺動噴射式果実洗浄機(図1)を開発しましたが、果実をひとつひとつ機械にセットする必要が
あり、産地からはより一層、高能率に除去作業を行うことができる果実洗浄機の開発が強く求められています。
- そこで、平成20年度から、連続的に洗浄ができるよう果実の上下2ヶ所のくぼみに同時に噴霧できる洗浄機の開発に着手しました。平成20年度に、新たな連続搬送式果実洗浄機を試作し、全国から集めたハダニが付着したリンゴを用いて性能試験を行いました。
- その結果を踏まえて、平成21年度は試作機を改良を行い、弘前市で現地試験を行いました。
連続搬送式果実洗浄機の概要
- 開発したのは、ターンテーブルの搬送トレイに果実を供給し、洗浄後に取り出す連続搬送式果実洗浄機です。果実上下2ヶ所のくぼみに同時に微細化した水滴を含んだ圧縮空気(空気圧0.8MPa程度)の旋回流を噴射してハダニ成虫類を除去します。ノズル位置は果実の高さに応じて4段階(85、95、105、115mm)に自動調整できます。搬送速度は、果実へのハダニ類の付着状態や作業人数に合わせて0.02~0.16m/s(0.1~0.9果/s)に調整できます(図2、図3、表1)。
- 連続搬送式果実洗浄機によりリンゴ果実表面に付着した休眠態ナミハダニ雌成虫を完全に除去した除去果数割合は、エアガンを用いた慣行作業を上まわり、揺動噴射式果実洗浄機と同等の95%と高くなっています(図4)。また、コナカイガラムシが付着したナシ果実に対する除去果数割合は、慣行作業や揺動噴射式果実洗浄機と同等の100%です。
- リンゴ「フジ」に対する供給から、取り出しまでを行う単位時間当たりの処理果数は、慣行の1人作業の2.7倍です。また、輸出用リンゴ「金星」における処理果数は揺動噴射式果実洗浄機と比較して、1人作業では約1.6倍、果実の供給と取り出しを別々の作業者が行う2人組作業で約3.7倍と、高い処理能力を持っています(図5)。
連続搬送式果実洗浄機の活用面と留意点
- 果実直径80~110mm、果実高さ80~110mmのリンゴ、ナシに使用できます。リンゴのハダニ成虫類、ナシのコナカイガラムシおよび果実のくぼみのゴミなどの除去に使用できます。水滴を含まない空気噴射だけの清浄処理も可能です。2010年度に市販化する予定です。
- リンゴの下側のくぼみにあるがく(萼)片に囲まれた空洞部分に生息しているハダニ成虫類は除去できません。また、ハダニの越冬卵については処理時間を3秒程度に長くする必要があります。
- 除去精度を高めるために、果実のくぼみがノズルへ正対するように搬送トレイへ供給する必要があります。
今後の予定・期待
今後、平成22年度の早期市販化に向けて技術提供を積極的に進めます。
用語の解説
リンゴに付着するハダニ
ナミハダニの休眠態雌成虫(体長約0.5mm、鮮やかなオレンジ色)かリンゴハダニの休眠卵(体長0.1mm、赤色)である場合が多いです。
揺動噴射式果実洗浄機
果実のくぼみの部分1か所にむけて、圧縮空気の高速気流と微細化した水滴の混合旋回流を吹き付けてハダニを除去します。リンゴを台座にセットすると近接スイッチによりエアシリンダで揺動するフレキシブルノズルから混合旋回流が自動噴霧します(農研機構平成18年度主要研究成果情報)。




