【研究の背景・目的】
先般、輸入穀物価格が高騰し、道内の畜産農家の経営は危機的な状況に陥ったことは記憶に新しく、輸入穀類の代替となる国産濃厚飼料資源確保の重要性がクローズアップされました。現在、わが国には年間1200万トンのトウモロコシ穀実が濃厚飼料源として輸入されていますが、国土の狭いわが国ではこれらをすべて自給することは不可能です。自給可能な他の濃厚飼料候補としては、農産副産物等であるエコフィードや飼料米があげられますが、その供給量には限界があり、低コストで安定供給が可能な国産濃厚飼料資源の開発が求められています。そこで、トウモロコシの穀実のみならず、芯や穂皮を含む雌穂全体(イアコーン)をを利用して、濃厚飼料とする技術開発を行うこととしました。ところで、畜産農家のもつ飼料用圃場の面積には限界があり、また、労働力の面からもさらなる飼料の作付けには限りがあります。一方、北海道の大規模畑作農家では、地力の低下に対応した緑肥栽培や新たな換金作物栽培を目指す動きがあります。これらに対応するためにも、耕畜連携によるイアコーンサイレージの生産利用技術の開発が求められています。
【研究の内容と実施体制】
本研究は、(独)農研機構・北海道農業研究センターをはじめ、(独)家畜改良センター十勝牧場、北海道(道立畜産試験場、十勝農業試験場)、(大)帯広畜産大学、ホクレン農業協同組合連合会、および農業機械メーカーの(株)IHIスターの6機関と種苗メーカーである(株)パイオニアハイブレッドジャパンが協力連携して推進します。
以下の4つの中課題から構成されています。
- イアコーン利用向け飼料用トウモロコシの低コスト安定生産技術の開発
- イアコーンサイレージの大規模収穫調製技術の開発(イアコーン収穫専用アタッチメント(スナッパヘッド)を利用した大規模収穫の体系化および細断型ロールベーラ利用による流通向け高品質サイレージの安定調製貯蔵技術の開発)
- イアコーンサイレージの乳肉用牛への効率的給与技術の開発
- イアコーンサイレージ生産・利用が農家経営に及ぼす経済効果の検証
【達成目標および期待される成果】
本研究は、TDN1kgあたり約55円でイアコーンサイレージを生産する技術開発を行うことを目標としています。将来、本技術が普及し、仮に、2万haにイアコーンサイレージが導入された場合、輸入穀類20万トンを代替でき、イアコーンサイレージ利用農家では、濃厚飼料自給率を現行の10%から30%程度に引き上げることが可能となります。さらに、国産飼料は食の安全・安心に結びつくほか、地域資源の有効活用による地域経済の活性化と雇用機会の創出も期待できます。

【用語の解説】
「サイレージ」(Silage)
牧草などを水分15%以下まで乾燥させるのではなく、空気を遮断して密封貯蔵することによって、乳酸菌の力で発酵させた飼料。いわば、草の「漬け物」。なお、わが国では、トウモロコシはホールクロップ(茎、葉、実全てという意味)サイレージとして利用するのが一般的である。ホールクロップサイレージは、濃厚飼料と粗飼料の中間的な飼料である。
「エコフィード」(Eco-feed)
今まで未利用であった食品製造副産物や余剰食品などの食料残さを原料として加工処理されたリサイクル飼料のこと。
「スナッパヘッド」(Snapper Head)
飼料用トウモロコシの雌穂のみをもぎ取り(Snap=ポキンと折ること)、収穫できる専用のアタッチメント(コーンヘッダ)のこと。スナッパヘッドには、自走式フォーレージハーベスタに装着できるタイプとコンバインに装着できるタイプがある。今回の研究では、自走式フォーレージハーベスタに装着できるタイプを使用する。