品種開発の背景・経緯
サイレージ用トウモロコシは、牛用飼料として広く栽培されている飼料作物で、日本全体の50%強にあたる約48,300ha(平成24年度)が北海道で栽培されています。栄養収量が高く、価格が高止まり傾向にある輸入濃厚飼料の削減にもつながることから、栽培の拡大が期待されています。しかし、近年、すす紋病、赤かび病、根腐病などの病害の発生が増加しており、これらの病害に対して強い抵抗性を示す品種が必要となっています。また、生育初期の低温や日照不足による生育遅延もしばしば起こっていることから、初期生育が良好な品種が望まれます。そこで、北海道のサイレージ用トウモロコシの主要な産地である道央北部、十勝中部および北見・網走内陸部に適し、主要病害のすす紋病に抵抗性が高く、初期生育が良好なサイレージ用トウモロコシ品種を育成しました。
品種開発の内容・意義
「きよら」は、農研機構北海道農業研究センターおよび北海道立総合研究機構が共同育成した親系統「Ho112」と「Ho100」との組合せによる一代雑種(F1)品種です。すす紋病抵抗性や耐冷性などを目標に育成してきた系統を平成16年に交配し、北海道立総合研究機構十勝農業試験場において候補系統を選抜しました。候補系統のなかから、収量、耐病性、耐冷性および栽培適地の成績が良好であった系統(北交70号)を「きよら」と名付け、平成23年3月に品種登録出願をし、平成26年2月に品種登録されました(第23012号)。
- すす紋病抵抗性は“極強”です(図1)。
- 初期生育は早晩性が同じ市販品種の「ブリザック」に比べて優れ、耐冷性は“強~やや強”に分類され寒冷な地域向け品種並の耐冷性を示します(表1)。
- 北海道での熟期は“中生の早”(相対熟度3)90日相当)で(表2)、北海道の道央北部、十勝中部および北見・網走内陸部のうち温度条件の良い地域(相対熟度90日相当の品種が作付け可能な地域)での栽培に適しています(図2)。
- 乾物総重、乾雌(し)穂(すい)重割合4)、TDN収量5)(栄養収量)および耐倒伏性は「ブリザック」と同程度です(表2)。
- 北海道の優良品種に指定されています。種子は、日本草地畜産種子協会から飼料作物を扱う種苗会社各社を通じて平成26年5月頃から入手可能です。
生産上の留意点
- 栽植密度は、アール当たり800~850本程度としてください。密植による増収はあまり期待できません。
- 施肥管理等は、一般のトウモロコシの栽培基準に準じて行ってください。
品種の名前の由来
病害に強く低温条件でも綺麗な葉が伸びることから、かげりのない美しさを意味する “清らか”にちなんで「きよら」と命名しました。
今後の予定・期待
「きよら」は、収量がこれまでの品種と同等程度で、すす紋病抵抗性が強く、耐冷性にも優れているため、サイレージ用トウモロコシの安定生産と作付け拡大に大きく寄与することが期待されます。
用語の解説
1)すす紋病
冷涼地における代表的なトウモロコシの病害です。冷涼多湿条件で発生が増加し、大発生すると圃場全体が枯れ上がるほどの被害が出ます。
2)サイレージ用トウモロコシ
牛の飼料用として栽培されているトウモロコシのうち、子実だけでなく地上部全体を刈り取って利用するものを言います。収穫後はサイロなどに詰めて乳酸発酵させることにより、長期保存ができます。栄養価が高いため輸入濃厚飼料の利用を減らせることから、生産費の削減や飼料自給率向上のうえで生産拡大が期待されています。
3)相対熟度
トウモロコシの早晩性の指標で、数字が小さいほど早生であることを示します。
4)乾雌(し)穂(すい)重割合
トウモロコシの地上部全体の乾物重のなかで、雌穂(実の部分)の乾物重の割合。この値が高いものは、栄養価の高い雌穂の割合が高いため、トウモロコシ全体の栄養価も高くなります。
5)TDN収量(TDN = Total Digestible Nutrients)
飼料の消化・吸収できる栄養素の総量をTDNと呼び、TDN収量は土地当たりのTDNの生産量を示します。品種の飼料としての能力を判定する指標の一つです。飼料のTDN含量と乾物総重を掛け合わせて算出します。

表1「きよら」の耐冷性(2007~2010年)1)
特性 |
きよら |
ブリザック |
ぱぴりか2) |
初期生育評点3) |
7.0
|
6.7 |
7.5 |
初期草丈(cm) |
57 |
51 |
57 |
初期葉数 |
6.7 |
6.8 |
6.8 |
耐冷性判定 |
やや強~強 |
中~やや強 |
強 |
1)北海道立総合研究機構十勝農業試験場(2007年)および北海道立総合研究機構畜産試験場(2008年~2010年)における特性検定試験の成績
2)耐冷性強の比較品種(早生の早・根釧地域向き品種)
3)1:極不良~9:極良の評点
表2.「きよら」の適地における特性概要1)
|
きよら |
ブリザック |
絹糸抽出期(月日) |
8.3 |
8.3 |
発芽期(月日) |
5.29 |
5.30 |
初期生育(1~9)2) |
7.6 |
6.6 |
稈長(cm) |
251 |
262 |
着雌穂高(cm) |
110 |
109 |
倒伏個体率(%)3) |
1.7 |
1.7 |
収穫時熟度 |
糊熟後~黄熟初期 |
糊熟後~黄熟初期 |
乾物率(%) |
29.0 |
27.6 |
乾物総重(kg/a) |
176.6(99) |
179.0(100) |
乾雌穂重割合(%) |
51.8 |
51.4 |
TDN含量(%) |
68.7 |
68.9 |
TDN収量(kg/a)4) |
121.5(98) |
123.5(100) |
1) 2007~2010年の6場所、延べ16試験の平均
2) 1:極不良~9:極良の評点
3) 倒伏と折損の合計.発生がみられた試験の平均
4) 各試験における茎葉および雌穂収量と育成地における各消化性分画含量に基づき、次式により算出したTDN含量から TDN収量=乾物総重×TDN含量 として算出:
TDN含量(%)={0.86×(OCC+Oa)+0.5}+(0.574×Ob-8.6) +(0.996×EE-0.8)×1.25
ただし、OCC:細胞内容物質、Oa:高消化性繊維、Ob:低消化性繊維、EE:粗脂肪の各乾物中含量


