プレスリリース
豚の新たな受精卵培養用完全合成培地の開発

- 機能性ペプチド研究所から発売 -

情報公開日:2004年1月29日 (木曜日)

(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所
(株)機能性ペプチド研究所

要約

動物衛生研究所と機能性ペプチド研究所は、豚胚(受精卵)の体外培養用培地PZMを世界で初めて開発し、販売することとしました。この培地は、動物由来の試薬を用いない、化学的組成の明らかな完全合成培地です。この培地で培養した胚を代理母へ移植することにより、健康な子豚を生産することができます。

ねらい・特徴

  • 胚(受精卵)移植による家畜の生産では、移植の成功のカギを握る大切なポイントは移植する胚の品質です。品質の良い胚は胚移植の成功率を高めます。この品質を左右するのが胚の体外培養に用いる培地です。
  • 豚を用いた胚移植は、品種改良や優良家畜の増産、慢性疾病の清浄化に有効です。また、再生医療研究のためのクローン豚の作製にも応用されます。胚移植に用いられる胚は体外培養用の培地で培養され、体外受精した胚、体内(卵管内)で受精した後に体外に取り出した胚、あるいはクローン技術により作製された胚が移植に用いられています。
  • 体外培養した胚の用途を考えると、培地中に病原体や未知の病因の混入の危険性を防ぐことが大切です。このため動物由来の試薬を用いない、化学的組成の明らかな完全合成培地は、安全性の面からも安心して使用できます。
  • しかし、豚ではこれまで、受精卵培養用の化学的組成の明らかな培地は開発されていませんでした。そこで、私たちは、豚胚の体外培養に適した化学的組成の明らかな完全合成培地を新たに開発し、(株)機能性ペプチド研究所と共同で、製品化することに成功しました。

成果の内容・活用

  • 豚の卵管液の組成をもとに、世界で初めて豚胚(受精卵)の体外培養用培地PZMを開発しました。この培地を用いて、人工授精した後に体内から取り出して培養した胚あるいは体外生産した胚を、代理母の子宮に開腹手術により外科的に移植することにより、高率に子豚を生産できることを確認しました。また、体外生産した胚を、開腹手術が必要のない非外科的移植法により、世界で初めて子豚を得ることに成功しました。
  • この培地は、化学的組成の明らかな完全合成培地で、動物由来の試薬を含んでいないため、培地の製造段階で未知因子が混入する危険が低いほか、合成試薬のみ使用していますので、製造ロットごとの性能の違いを極めて低くすることができます。
  • 今回開発した「ブタ胚の体外培養用培地及び培養方法」は特許公開中で、PZMは、2月1日より、(株)機能性ペプチド研究所より発売開始予定です。(資料1)

資料1

商品名:PZM-5培地
発売元:(株)機能性ペプチド研究所
〒990-0823 山形市下条町4-3-32
Tel: 023-646-2525 Fax: 023-646-2526
写真 PZM-5培地


詳細情報

用語解説

胚の体外培養
胚(受精卵)を移植に適した段階まで一定期間培養して体外で発育させること。

体外受精
と場から持ち帰った卵巣から卵子を取り出して、受精できる段階まで培養し、前もって採取しておいた精子と、シャーレ内で受精させる方法。

外科的移植
開腹手術によって、卵管や子宮を露出させ、胚を卵管あるいは子宮内に注入する方法。全身麻酔や、手術をする施設・器材や熟練が必要。また、手術の後遺症(腹膜炎など)がある場合もある。

非外科的移植
開腹手術をすることなく、経膣的に胚を子宮内に注入する方法。簡単で経費があまりかからない方法として、実用化が期待されている。

資料

豚胚の培養の流れ

PZMで培養したブタ体外受精卵

PZMで培養した体外生産胚と移植後の産子