農研機構
広島大学
情報・システム研究機構
ポイント
カイコはシルク生産だけでなく、有用タンパク質生産にも利用できるようになり、新たな用途が拡大しています。カイコの産業利用を拡大するには1頭当たりのシルク生産量の増加が必要ですが、カイコ体内におけるシルクの合成メカニズムは十分に明らかになっていません。そのメカニズムを解明するため、農研機構、広島大学、情報・システム研究機構は共同で、カイコの絹糸腺1)での全遺伝子の発現量について詳細なデータを取得、解析し、得られたデータを公開しました。
本研究で得られたデータを活用して、ニーズに合ったカイコの品種育成の加速化や、有用タンパク質の生産性向上等、カイコの産業利用の拡大を目指します。
概要
近年、カイコの作るシルクは環境負荷の少ない天然繊維として再び注目を浴びています。また、2000年にカイコの遺伝子組換え技術が開発され、カイコが本来作らないタンパク質をシルクと一緒に生産させることが可能になったため、カイコは新たなタンパク質生産ツールとしても注目されています。さらなるカイコの産業利用の拡大を目指すには、カイコ1頭当たりのシルク生産量の増加が強く望まれています。その課題をクリアするためにはカイコ体内におけるシルクの合成メカニズムの理解が必要ですが、それらはまだ十分に明らかになっていません。
そのメカニズムを解明するため、農研機構、広島大学、情報・システム研究機構の共同研究グループは、シルクを作る組織である絹糸腺のどの部位で、どのような遺伝子が、いつ働くのかについて詳細に調査しました。具体的には、カイコ5齢幼虫2)の絹糸腺を24時間毎に取り出して、部位毎にカイコの全遺伝子(約17,000種類)の発現量を網羅的に解析しました(図1)。
絹糸腺を細かな部位に分け、経時的かつ網羅的に全ての遺伝子発現量を解析したデータはこれまでありませんでした。これらのデータは、全て公開しており、どなたでもダウンロードが可能です(URL: https://doi.org/10.6084/m9.figshare.c.6978654)。カイコを中心とした昆虫研究を行う皆さまにご活用いただけます。
今後、研究グループは本研究で得られたデータを活用して、シルクが作られるメカニズムの全容解明に取り組み、高品質なシルクをより多く作るカイコの品種育成や、カイコを用いた有用タンパク質の生産性向上を通して、養蚕業の発展や新規のバイオ産業創出への貢献を目指します。

関連情報
- 予算 :
- 農林水産省委託プロジェクト研究「昆虫(カイコ)テクノロジーを活用したグリーンバイオ産業の創出プロジェクト」22680575
- 共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「Bio-Digital Transformation(バイオDX)産学共創拠点」JPMJPF2010
- 科研費基盤B「シルクの構造・物性の多様性を担う分子基盤の解明」 21H03831
- 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 公募型共同研究:ROIS-DS-JOINT「カイコにおけるシルクタンパク質発現量調節に関わる新規遺伝子の同定のためのリファレンス遺伝子発現データセットの取得およびオーソログ推定」016RP2022, 024RP2023
センター長高山 茂伸
昆虫利用技術研究領域
主任研究員横井 翔
(基盤技術研究本部 農業情報研究センター兼任 (当時))
上級研究員上樂 明也
上級研究員坪田 拓也
研究領域長瀬筒 秀樹
主任研究員増岡 裕大
(生物機能利用研究部門 昆虫利用技術研究領域 兼 基盤技術研究本部 農業情報研究センター(当時))
教授坊農 秀雅
ライフサイエンス統合データベースセンター
特任助教(当時)小野 浩雅
特任助教千葉 啓和
遠藤 真咲