プレスリリース
(研究成果) 土壌の砕土率をリアルタイムで計測するシステムを開発

- 耕うん作業能率向上と出芽率改善効果に期待 -

情報公開日:2025年4月 4日 (金曜日)

ポイント

農研機構は、耕うん時の土壌の砕土率1)をリアルタイムで計測するシステムを開発しました。砕土率は作物の出芽率にも影響する重要な指標ですが、耕うん作業中の確認が困難でした。開発した砕土率計測システムにより、トラクタの運転席モニターで砕土率をリアルタイムで確認できるようになりました。耕うん状況に応じた作業速度の調整など、作業能率の向上と出芽率改善効果が期待できる技術です。

概要

近年、食料安全保障の観点から大豆、麦等の国内生産の重要性が高まっています。これらの作物の生産性向上のためには出芽率の向上が必要であり、出芽率には砕土率が影響するとされています。

砕土率とは、土壌中の土塊で長径が20mm未満の土塊が占める割合を重量ベースで表したものです。砕土率が低い、つまり、大きい土塊が多い状況だと、種子と土壌との密着が悪くなるため出芽率が下がり、収量にも影響します。従来、砕土率の計測は、人の手によりふるいを使って土塊を分離した後、重量を測る必要があり、農業現場で行われることはほとんどありませんでした。

農研機構では、これまでカメラで撮影した土塊の画像から砕土率を計測する技術の開発に取り組んできました。今回、この技術を自動化、高速化したことで農業機械への搭載が可能になり、耕うん作業中にリアルタイムで砕土率を確認できるようになりました。

本システムは、カメラ、PC、GNSS2)とモニターから構成され、カメラが取得した耕うん直後の土壌表面の画像をPCで画像処理することにより、砕土率を計測しています。

砕土率の計測結果はトラクタの運転席に設置したモニターに表示されるので、耕うん状況に応じた作業速度の調整などが可能です。また、砕土率の計測と同時にGNSSにより位置情報を取得しているため、オフラインでほ場の砕土率マップを作成することもできます。

今後、リアルタイム砕土率計測システムを用いることで、ほ場全体の砕土率と耕うん時の作業能率の向上、出芽率改善効果を検証し、早期の社会実装を目指します。

図1リアルタイム砕土率計測システムの構成

関連情報

予算 : (BRIDGE)(農水省戦略的プロジェクト研究推進事業にアドオン)、運営費交付金
特許 : 特願2024- 44094

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 基盤技術研究本部
農業ロボティクス研究センター
センター長中川 潤一
研究担当者 :
同 基盤技術研究本部 農業ロボティクス研究センター
露地ロボティクスユニット
齋藤 秀文、野田 晋太朗、小林 有一
同 中日本農業研究センター
転換畑研究領域畑輪作システムグループ
髙橋 智紀、建石 邦夫、草 佳那子、大野 智史
広報担当者 :
同 基盤技術研究本部 研究推進室
渉外チーム長野口 真己

詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

近年、社会情勢が大きく変化し、食料安全保障の観点から大豆、麦等の国内生産の重要性が高まっており、水田転換畑での作付けも進んでいます。

これらの作物の生産性向上には様々な要因が影響しますが、収量の確保には、まず確実な苗立ちが重要であり、出芽率の向上が必要です。水田転換畑では砕土率が低くなる傾向があり、そのことが大豆の出芽率に影響するとされています。過去のデータによれば、砕土率70%程度で最も高い出芽率が得られると報告されています。

これまで生産現場で砕土率の計測が行われることはほとんどなく、作業者の経験と勘に頼っていました。そこで農研機構では、カメラ画像から簡易・迅速に砕土率を計測する技術の開発に取り組んできました。さらに自動化・高速化することにより、耕うん作業中にリアルタイム計測・表示が可能なシステムを開発しました。

研究の内容・意義

  • リアルタイム砕土率計測システムはカメラ、PC、GNSSおよびモニターから構成されます。カメラとGNSSアンテナをロータリーの後方に設置し、ロータリーで耕うん直後の土壌表面を高さ50cmから撮影します。カメラが取得した画像をPCで画像処理することにより、砕土率を計測します(図1)。
  • 計測された砕土率は運転席に設置したモニターにリアルタイムで表示されるため、作業者は作業速度の目安を数値で確認することができます。低い砕土率を向上させるために作業速度を下げる、あるいは、砕土率が十分高い場合には作業速度を上げ、作業時間の短縮化を図ることが可能になります(図2)。
    図2運転席のモニター表示例
  • 農研機構内の黒ボク土ほ場において人手による実測値とリアルタイム砕土率計測システムの計測値を比較したところ、計測誤差(RMSE3))は10.1%となりました(図3)。
    図3農研機構圃場(黒ボク土)における砕土率の計測結果
  • 土壌の異なる秋田県、茨城県、佐賀県の生産者ほ場において開発したシステムの実証を行ったところ、計測誤差は15.2%から18.6%でした(図4)。夾雑物(稲わら、落葉等)が混入したことが計測誤差の主な原因と考えられますが、土壌の特性が異なる複数の生産者ほ場においても開発した計測システムの有効性が確認されました。
    図43カ所の生産者圃場における計測結果
  • 試験に協力した生産者からは、砕土率が数値で確認できることで、初心者でも砕土率をコントロールできるようになることに期待していると評価がありました。
  • 砕土率と同時に位置情報をGNSSから取得しているため、オフラインで砕土率のマップ化が可能です。ほ場の状態を可視化することで、砕土の悪い箇所を把握し、耕うんしたり、排水対策を行うなど営農計画の参考にできます(図5)。
    図5砕土率マップの作成例

今後の予定・期待

今後、早期の社会実装を目指した取り組みを進めます。そのために、夾雑物の混入による誤差を低減するアルゴリズムの改良や機械学習の利用を進めます。これと同時に、農業生産法人等を中心とした土壌の特性が異なる現地での実証試験を行い、導入効果を検証していきます。さらに、縦軸回転ハローなど他の作業機への搭載や乾田直播栽培への応用も期待できます。

用語の解説

砕土率
ほ場の一定面積の全ての土塊のうち、長径20mm未満の土塊が占める割合を重量ベースで表わした数値。 [ポイントへ戻る]
GNSS
全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System)。人工衛星を利用して地球上の位置を計測するシステムの総称。アメリカのGPS、ロシアのGLONASS、EUのGalileo、中国のBeiDou、日本のみちびき等が含まれる。 [概要へ戻る]
RMSE
二乗平均平方根誤差(Root Mean Squared Error)。予測値が実測値からどれだけずれているかを測る指標の一つ。数値が小さいほど正確に予測できていると評価される。 [研究の内容・意義へ戻る]