背景とねらい
稲発酵粗飼料は、飼料自給率向上の取り組みとして期待され、生産面積が拡大しています。良質な稲発酵粗飼料を生産するためには、適切な水分含量の材料をサイレージに調製する必要があります。しかし、地力が高かったり、施肥量が多いなどの多窒素の栽培条件では、稲体の水分含量の低下が遅くなる傾向があります。専用収穫機を用いるダイレクトカット方式の収穫・調製では、収穫時の水分が高いと発酵品質を低下させてしまう恐れがあります。
そこで、多窒素栽培における飼料用イネの登熟期水分と窒素吸収量の関係を明らかし、ダイレクトカット方式の収穫調製の適否の判断基準を提案します。
成果の内容・特徴
- 家畜ふん堆肥や窒素肥料の施用量を変えて飼料用イネを栽培すると、窒素吸収量が多い場合に水分含量が高く推移します。(図1)
- 稲発酵粗飼料用のダイレクトカット収穫に適した飼料用イネの水分含量は65%以下ですが、そこまで水分含量を下げるのに必要な出穂期以降の積算気温は、窒素吸収量の増加に伴い高くなります(図2)。具体的には、飼料用イネのダイレクトカット収穫調製可能日は、10aあたりの窒素吸収量が1kg増加につきおよそ1日遅くなることが明らかになりました(図2)。
- 極端な多窒素栽培を含む各種の栽培でも、籾黄化率60%以上、あるいは止め葉葉色値(SPAD値)33以下であれば、ダイレクトカット方式による収穫調製への水分含量の影響はないと判断されます(図3)。これを超える条件では水分含量が高い場合があり、注意が必要です。
- これらの結果から、極端な多窒素栽培でも葉色値(SPAD値)、籾黄化率を目安に、ダイレクトカット方式の収穫調製の適否を判定できることが明らかになりました。水分含量が高くて収穫調製に不適と判定された場合には、収穫時期を遅らせたり、予乾してから収穫調製を行います。
- 本研究は、秋田県農林水産技術センター農業試験場の協力を得て実施しました。

(飼料用イネ専用品種「べこあおば」移植水田圃場において、部位別の水分含量を測定した。
堆肥+多肥区、標肥区、無窒素区の成熟期窒素吸収量は、
17.7kg/10a、10.5kg/10a 、5.2kg/10a、出穂期は8月7日、8月7日、8月6日であった。)

(飼料用イネ専用品種「べこあおば」「奥羽飼395号」移植水田圃場において登熟期間の地際10cm以上の水分含量を調査し、
直線回帰式から水分含量が65%になる積算気温を算出した。
飼料用イネサンプル数:125点、成熟期窒素吸収量:5.2~21.0kg/10a。)

(飼料用イネ専用品種「べこあおば」移植水田圃場において、
登熟期間の地際10cm以上の水分含量を調査した。
飼料用イネサンプル数:136点、成熟期窒素吸収量:5.2~21.0kg/10a。)
用語説明
稲発酵粗飼料
稲発酵粗飼料は、稲の茎葉も含めてサイレージとして調製し、牛の飼料として利用するものです。
TDN含量(可消化養分総量;Total Digestible Nutrients)が最大となる出穂後約30日頃のイネ(黄熟期)を収穫し、主にロールベールサイレージとして調製・利用されています。イネの生産技術を活かして飼料生産を行うことから、水田機能の維持と、25%に低下した飼料自給率の向上に貢献するものとして期待されています。
近年、専用品種の育成や栽培法、収穫・調製、給与の技術開発が進められ、栽培面積が大きく拡大しています(図4)。栽培法は基本的に食用イネと共通ですが、直播栽培の導入や堆肥の積極的な利用等の栽培技術が開発されています(図5)。
収穫体系においても、水田で効率的に作業ができる専用収穫機を利用した作業体系が普及しています(図6)。



