新品種育成の背景・経緯
近畿および中国四国地方の生産者の中には、粘りがあって柔らかく、冷めても食味が低下しにくい低アミロース米を経営の柱の一として作付けしたいという強い要望があります。この地方の中山間地域では「ミルキークイーン」が低アミロース米として作付けされてい ますが、平野部では気候条件等により品質が悪くなりがちです。また、「柔小町」という晩生の低アミロース米が作付けされたことがありますが、出穂が遅すぎるという問題があり、これまで、この地方で広く普及できる低アミロース米品種はありませんでした。そこで、この地方の平野部に向く中生晩の熟期で、品質の良い低アミロース米の新品種「姫ごのみ」を育成しました。現在のところ、岡山県瀬戸内市での普及が始まっています。また、岡山県津山市での現地栽培の成績は良好で、平野部だけでなく中山間地域での普及も見込まれます。
新品種「姫ごのみ」の特徴(表1、写真1)
「姫ごのみ」は、白米のアミロース含有率がおよそ8 ~ 9%の低アミロース米で、近畿および中国四国地方の平野部で多く栽培されている水稲品種「ヒノヒカリ」とほぼ同じ中生晩の熟期の品種です。玄米の外観品質が良く(写真2)、炊飯米は粘りがあって食味が良好です。また、通常のウルチ米品種と混ぜて炊飯しおにぎり等に利用すると、食味を向上させる効果があります(表2)。「姫ごのみ」は、耐倒伏性に優れ、収量は「ヒノヒカリ」より多収です。稲の主要病害であるいもち病、特に穂いもち病に強く、別の主要病害である縞葉枯病にも抵抗性があり、安定生産が見込まれます。平野部でも品質の良い低アミロース米を生産できるようになることで、高付加価値の品種として低アミロース米の栽培が広がり、地域の農業振興に役立つことが期待されます。



写真1. 草姿の比較

写真2.籾(下)と玄米(上)の比較
品種の名前の由来
米が柔らかくて食味が良いので多くの人に好んで食べてもらえることを期待して名付けられました。
種苗の配布と取り扱い
平成22 年3 月31 日に品種登録出願(品種登録出願番号:第24753 号)を行いました。
平成22 年6 月14 日に品種登録出願公表されました。
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 情報広報部
知的財産センター 種苗係
Tel 029-838-7390
Fax 029-838-8905
用語の解説
- 低アミロース米
- 胚乳に含まれるでん粉には、アミロースとアミロペクチンという2種類のでん粉が存在しています。通常のウルチ米はアミロース含有率が17 ~ 20%ぐらいですが、そのアミロースの含有率が少ない(5 ~ 15%)ものを低アミロース米と呼んでおり、通常のウルチ米よりモチ米に近い性質をもち、米が粘りやすくなります。なお、モチ米はアミロースを含んでいません。
- 縞葉枯病
- 稲のウイルス病のひとつで、ヒメトビウンカによって媒介されます。葉および葉鞘に黄緑色または黄白色の縞状の病斑があらわれ、生育が不良となり、やがて枯死します。後期感染では、黄緑色の条斑を生じ、穂が奇形となって十分に葉鞘から出なくなる症状を示します。