プレスリリース
(安全性検査)農業機械安全性検査が新たな制度で再スタート

- 事故低減に向け検査基準を強化しつつ受検しやすさも向上 -

情報公開日:2025年3月28日 (金曜日)

ポイント

  • 農作業死亡事故に占める農業機械による事故の割合は依然として多く、農業機械のさらなる安全性向上が必要です。そこで、農林水産省での議論をもとに主要な機種について新たな安全機能の装備を盛り込んだ安全性検査基準を策定するとともに、受検者の負担軽減を図る等の見直しを行い、令和7年4月1日から新たな制度として農業機械安全性検査を再スタートします。
 令和7年度からの安全性検査では、農用トラクター(乗用型)、農用トラクター(歩行型、車軸耕うん型は除く)、コンバイン(自脱型)、田植機(乗用型)、乾燥機(穀物用循環型)の5機種を対象とし、安全性の強化を図った安全性検査基準(以下、検査基準)を各機種それぞれに設けます。検査基準の主な強化点としては、農用トラクター(乗用型)へのシートベルトリマインダーとPTOインターロック(離席するとPTOへの動力が遮断する)の装備、コンバイン(自脱型)と田植機への作用部インターロック(離席すると搬送部や植付部への動力が遮断する)の装備などが挙げられます。
 検査基準の強化を図る一方で、受検者の負担を軽減して受けやすくする制度への見直しも行います。例えば、安全キャブ・フレーム検査の企業内実施の新設や既合格機の構造変更手続きの簡略化による手数料の減額に加え、市販化前の製造機で受検できるようにすることで改善指示への対応を容易にすることなどです。
 また、安全な農業機械であることを現場の農業者が容易に判別できるよう、安全性検査合格機に貼付する合格証票も刷新しました。
 上記5機種以外の機種については、安全性検査と同じく農研機構の制度である一般性能試験で引き続き対応します。一般性能試験では令和6年度までの検査基準への適合性の評価に加え、適合するための対策についてのアドバイスなども受けられます。また、重大事故件数が多いとされる機種については、農機メーカー各社及び農林水産省と連携して安全性の強化を図り、できるだけ早い時期に検査対象機種に追加することとしています。
問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構農業機械研究部門 所長 長﨑 裕司
研究担当者 :
同 安全検査部 部長 志藤 博克、安全推進管理役 清水 一史
広報担当者 :
同 研究推進部 研究推進室 広報チーム長 髙山 敏之

社会背景

 農研機構農業機械研究部門安全検査部では、農業機械や農業施設を対象にして実機を確認しながら安全性が確保されているかどうかを検査する安全性検査1)(任意の制度)を行っており、安全性検査の前身となる安全鑑定が1976年に始まって以来、農業機械の安全性向上に貢献してきました。しかし、農業機械による事故が農作業死亡事故に占める割合は約6割と依然として高く、さらなる対策が求められています。農作業事故は、機械に関わる要因だけでなく、事故現場の環境に関わる要因、人に関わる要因、安全な作業を行うためのルールの有無・適否といった安全管理上の要因が重なって生じることから、これらの要因を改善する必要があります。そこで、農研機構では農作業事故データの分析結果等を踏まえ、安全性検査基準の強化を検討し、また、農林水産省の「農作業安全検討会」でも様々な切り口から農作業事故低減に向けた検討が行われてきました。

安全性検査制度の主な変更点

1.検査基準の強化
 農用トラクター(乗用型)については、シートベルトの未装着により転落転倒時に運転席から投げ出されることを防止するために、シートベルトの未装着を検知して、ランプ等による表示や警報音により運転者への警告を発するシートベルトリマインダーと、離席時に作業機等に巻き込まれることを防ぐために、離席後7秒以内にPTO2)軸の動力を遮断するPTOインターロックの装備を求めました。コンバイン(自脱型)と田植機にも作用部3)への巻き込まれを防ぐために、離席後7秒以内に作用部の動力を遮断する作用部インターロックの装備を求める等、使用者の誤使用や危険を伴う作業の防止を図ります。
2.受検者の負担軽減
  • 安全キャブ・フレーム検査は農研機構の施設で行われてきましたが、一定の条件を満たせば企業内施設でも農研機構職員が立ち会って実施できることとし、併せて手数料の減額を図ります。
  • 安全キャブ・フレーム検査を受検する際に、強度試験を外部機関で受けた場合の試験省略条件として、すでに省略条件であるOECDトラクターテストコードと同等の内容である「EC指令4)安全キャブ・フレームテストコード」を受けたものも加えます。
  • OEM機やシリーズ機などへの配慮として、既合格機の構造が変更された際に実機確認が不要な場合は、提出書類の簡素化を図るとともに、手数料を不要とします。
  • これまで市販機で受検する仕組みとしていましたが、検査での改善指示への反映を容易にするため、市販化前製造機での受検を可能にします。
  • 検査基準の解説等を追加するとともに、判定事例を公表し、安全装備検査基準のわかりやすさ向上を図ります。
3.安全性検査合格証票の刷新
 安全な農業機械であることを現場の農業者が容易に判別できるよう、安全性検査合格機に貼付する合格証票を刷新しました。機体への貼付の他、自社ホームページの商品詳細ページ、カタログ等にも掲載いただけます。なお、旧基準の合格証票の使用期限については、令和7年度から3年以内とします。
▼2025年(令和7年)安全性検査合格証票

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4.一般性能試験での対応
 一般性能試験は、農業機械の性能、構造、取扱性、安全性及び耐久性等のうち、任意の項目について依頼者の要望に応じて対応しています。この制度を利用することで、令和6年度までの検査基準への適否の評価に加え、検査基準に適合するための対策についてのアドバイスも受けられます。合否判定結果は公表しませんが、依頼者に成績書を交付します。JA自動車共済の農業用安全自動車割引の対象機種については、この成績書により、引き続き適用を受けることができます。

今後の予定・期待

 安全性検査の新たな制度の詳細な内容については、3月27日に農業機械メーカーを対象に説明会を実施しました。この説明会の資料は農研機構農業機械研究部門のホームページに令和7年4月以降に掲載し、広く周知を図ってまいります。
 令和7年度から安全性検査の対象となった機種以外の機種についても、農業機械メーカー及び農林水産省との連携により、重大事故の多い機種を中心に検査基準の策定や検査対象への追加に向けた検討を行うなど、安全性の強化に取り組んでいく予定です。
 農研機構は、今後も農作業事故撲滅に貢献するため、安全性検査のブラッシュアップに取り組んでいきます。

用語の解説

  1. 安全性検査

    安全性検査は、①農用トラクター(乗用型)、農用トラクター(歩行型)、田植機(乗用型)、コンバイン(自脱型)、乾燥機(穀物用循環型)を対象とし、各機種に定めた「安全装備検査2025年基準及び解説」、または「安全装備検査2027年基準及び解説」に基づいて安全に必要な装備・機能等について検査する安全装備検査、②「農用トラクター(乗用型)用安全キャブ・フレーム検査の主要な実施方法及び基準」に基づいて農用トラクター(乗用型)の転倒時防護装置の強度や安全空間が確保できるか等について検査する安全キャブ・フレーム検査、③農用トラクター(乗用型)、田植機(乗用型)およびコンバイン(自脱型)を対象に、自動化農機用、ロボット農機(トラクター)用、ロボット農機(田植機)用、ロボット農機(コンバイン)用にそれぞれ定めた「ロボット・自動化農機検査の主要な実施方法及び基準」に基づいてロボット農機や自動化農機の先進的な機械・装置の安全性等について検査するロボット・自動化農機検査から構成されます。

  2. PTO

    Power Take Offの略称で、トラクターに装着された作業機を駆動するための回転軸のことをいいます。

  3. 作用部

    ロータリー、刈取部、搬送部、植付部等の農業機械の本来の作業目的に沿って運転される部分の他、走行部を含めた部分をいいます。

  4. EC指令

    European Communities Directiveの略称で、欧州市場に出る製品に均一な安全性を求めている法令です。