「はる風ふわり」育成の背景と経緯
西日本地域で栽培されているパン用小麦品種「ミナミノカオリ」は、成熟期が遅く、穂発芽しやすいため、収穫時期が梅雨と重なることから降雨により引き起こされる穂発芽による品質低下がしばしば問題となっていました。また、実需者からは「ミナミノカオリ」と同等以上に子実タンパク質含量が多く、製パン性が輸入小麦並みに優れる品種の育成が求められていました。そこで農研機構では、穂発芽耐性が優れる日本めん用系統「西海188号」と、製パン性に優れるパン用系統「北見春66号」との交配により、「ミナミノカオリ」より穂発芽耐性及び製パン性が優れる「はる風ふわり」を育成しました。
「はる風ふわり」の特徴
西日本地域で栽培されているパン用小麦品種「ミナミノカオリ」と比べて、以下の特徴を持っています。
【生産者向け】(
表1参照)
【実需者、消費者向け】(図1参照)
製パン評価では、「ミナミノカオリ」より吸水性5)や食感などの評価点が高く、カナダ産の輸入小麦銘柄1CW並みに製パン性に優れます。
品種の名前の由来
九州から春の訪れを告げる春風にのって、"ふわり"とした食感のパンが全国へ広がることを願って名付けられました。
普及状況と今後の予定・期待
佐賀県において2020年産より産地品種銘柄に設定、2020年度に奨励品種に採用され、2022年産の栽培面積は約1,000haまで拡大しました。2021年より理研農産化工株式会社(佐賀市)から本品種がブレンドされた小麦粉が販売されています(図2)。
今後、西日本地域での栽培に向くパン用小麦としてさらに普及が進み、本品種を活用した製品の開発、販売が拡大されることが期待されます。
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用語の解説
- 穂発芽
- 小麦の収穫時期に降雨が続いた場合に、種子が穂についたまま発芽する現象。発芽すると種子中のアミラーゼ活性が高まり、でんぷんが分解されます。穂発芽した小麦は商品価値がなくなります。 [概要へ戻る]
- 製パン性
- パン用には主に強力粉が使われていますが、タンパク質の量が多く、粘弾性のバランスがよい生地ができる小麦粉がよいとされています。製パン性は、パン生地を作る際に必要な水の量(吸水性)や、パン生地を取り扱う際の作業性、焼きあがったパンの体積や食感などの官能評価により評価されます。 [概要へ戻る]
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- 1CW
- No.1 Canada Western Red Spring(No.1カナダ・ウェスタン・レッド・スプリング)の略で、カナダから輸入されているパン用小麦銘柄です。No.1は一番上の等級を表し、品質は良好で安定しており、パン用として高く評価されています。[概要へ戻る]
- 赤かび病
- 小麦の出穂期以降に湿潤な気象条件が続いて赤かび病菌が穂に感染することで発生する病気です。収量や品質の低下だけでなく、人や家畜に有害なかび毒が生成されます。農産物検査において混入していないこと(混入率0.0%)、かび毒(デオキシニバレノール)の基準値を超えないことが定められているため、適切に防除する必要があります。[「はる風ふわり」の特徴へ戻る]
- 吸水性
- パン生地を作る際に小麦粉100に対して加える水の量(吸水率)で評価され、水を多く含む方がパン用として好ましいとされています。製パン時の吸水率は、ファリノグラフという機器で測定した一定のかたさの生地を作るための吸水率を参考にして決められます。[「はる風ふわり」の特徴へ戻る]
参考図
表1.「はる風ふわり」の主な特性
図1.「はる風ふわり」の製パン評価
製パン評価は九州地域麦類品質評価協議会で実施.カナダ産パン用輸入小麦銘柄1CWの評価点を80点とする相対評価.各評価項目の括弧内は配点を表す.総合評価は吸水性評価点、作業性評価点、官能評価点(吸水性と作業性以外の項目の評価点の合計の6割)の和から算出.「はる風ふわり」と「ミナミノカオリ」は農研機構九州沖縄農業研究センターの収穫物.2015~2020年産の試験の平均.
図2.「はる風ふわり」がブレンドされた小麦粉製品