開発の社会的背景
近年、地球温暖化の影響で国内においても春や秋の気温が上昇し、水稲については、これまでよりも早い移植や遅い収穫が可能になり、生育可能期間が長くなってきました。現在、高知県や沖縄県等の元々生育可能期間が長い地域では、一度、苗を移植して栽培・収穫した後、もう一度、移植して栽培・収穫する通常の二期作が行われる場合があります。他方、水稲は複数年にわたって生育し続ける多年生5) の性質を持つため、収穫後に切株からひこばえ6) が発生します。地球温暖化が進行した現在、関東地方以西の暖地や温暖地では、通常の二期作は行えないものの、ひこばえを栽培・収穫する再生二期作が行える地域が多くあり、今後、一層の地球温暖化の進行に伴い、増加すると考えられます。また、再生二期作では、通常の二期作で行われる二期作目の苗箱播種・育苗や耕起・代かきのほか、移植に伴う物財費や労働費が不要な上、適切な管理を行うことによって通常の一期作より増収できるため、単位重量当たりの生産費の削減が期待されます。
研究の経緯
これまでに農研機構では、水稲の再生二期作の一期作目において、苗を早い時期に移植して収穫時に地際から高い位置で刈り取ることにより、二期作目において、食味の良い米が多収穫できるといった基本技術を確立しました(2020年9月8日プレスリリース、2023年10月4日プレスリリース、特許第7504505号)。しかし、移植の早限は、移植に適した気温のほか、用水を確保できる時期の影響を受けるため、地域によって異なります。また、どの品種でも、二期作目の稈長が一期作目より短くなります。特に、近年再生二期作での取り組みも増えている「にじのきらめき」は、遺伝的に稈長が短く、二期作目の稈長はより一層短くなります。このため、このような短稈品種の二期作目は、米や麦の生産現場で一般的に用いられる自脱型コンバインで収穫すると脱穀部のこぎ残しによるロスが生じることから、大豆等の生産現場で用いられる普通型コンバインで収穫する必要があります。そこで今回、暖地における水稲の再生二期作において、一期作目の移植時期やコンバインの種類に応じて高収量を実現する有望品種を選定するとともに、その特性を解明するため、一期作目の移植時期と品種の違いが二期作目の収量や生育に及ぼす影響を調べました。さらに、これらの結果を踏まえ、多収と良食味の画期的な両立を実現するため、現地実証試験に取り組みました。
研究の内容・意義
1. 移植時期と品種の違いが収量に及ぼす影響
農研機構九州沖縄農業研究センターの所内試験ほ場(福岡県筑後市)において、2022年と2023年に、一期作目の移植時期(4月植えと5月植えの2時期)と品種(極早生品種「ちほみのり」「つきあかり」「にじのきらめき」「ゆみあずさ」及び「とよめき」と早生~中生品種「あきだわら」「ほしじるし」及び「やまだわら」の多収の8品種)の違いが二期作目の収量(坪刈り)や生育に及ぼす影響を調べました(表1 )。
(1) 一期作目と二期作目の収量
4月植えでは、一期作目の収量は全ての品種で550kg/10aを超え(図1A )、二期作目の収量は全ての品種で250kg/10aを超えました(図1B )。その結果、一期作目と二期作目の合計収量は、全ての品種で850kg/10aを超える多収となりました(図1C )。
5月植えでは、一期作目の収量は全ての品種で550kg/10aを超えました(図1D )。しかし、二期作目の収量は極早生品種「ちほみのり」「つきあかり」「にじのきらめき」「ゆみあずさ」及び「とよめき」では250kg/10aを超えたものの、早生~中生品種「あきだわら」「ほしじるし」及び「やまだわら」では150kg/10aを下回りました(図1E )。その結果、一期作目と二期作目の合計収量は、極早生品種では850kg/10aを超える多収となったものの、早生~中生品種では800kg/10aを下回りました(図1F )。
(2) 二期作目の収量と籾数、登熟歩合及び千粒重との関係
4月植えでは、二期作目の収量は籾数7) と強い正の相関を示した(図2A )ものの、登熟歩合8) と千粒重9) とは相関が認められませんでした(図2B及び2C )。また、5月植えでは、二期作目の収量は籾数と千粒重と弱い正の相関を示した(図2D及び2F )ほか、登熟歩合と強い正の相関を示しました(図2E )。したがって、二期作目の収量を上げるためには、4月植えでは籾数が多くなる品種を用いることの重要性が明らかになった一方、5月植えでは登熟が良くなる極早生品種を用いることの重要性が示唆されました。
(3) 二期作目の収量と一期作目の生育期間及び二期作目の気温との関係
4月植えでは、二期作目の収量は、一期作目の生育期間、二期作目の気温のいずれとも相関が認められませんでした(図3A及び3B )。しかし、5月植えでは、二期作目の収量は、一期作目の生育期間と強い負の相関を示した(図3C )ほか、二期作目の気温と強い正の相関を示しました(図3D )。したがって、4月植えの全ての品種と5月植えの極早生品種では、一期作目の収穫が遅くならず、二期作目が低温に当たらないため、収量が気温の影響を受けない一方、5月植えの早生~中生品種では、一期作目の収穫が遅くなり、二期作目が低温に当たるため、収量が低下することが明らかになりました。
(4) 一期作目と二期作目の稈長
4月植え、5月植えとも、一期作目の稈長は、全ての品種が自脱型コンバインで収穫する際の脱穀部のこぎ残しによるロスの目安となる55cmを超えました(図4A及び4C )。しかし、二期作目の稈長は「ちほみのり」「つきあかり」「ゆみあずさ」「とよめき」及び「やまだわら」では55cmを超えたものの、「にじのきらめき」「あきだわら」及び「ほしじるし」では55cmを下回りました(図4B及び4D )。
(5) まとめ
4月植えでは、二期作目の生育に必要な気温を確保できる期間が長いため、早晩性10) に関わらず籾数が多い品種の収量が高くなります(図5A及び5B )。しかし、5月植えでは、二期作目の生育に必要な気温を確保できる期間が短いため、「ちほみのり」や「つきあかり」「にじのきらめき」「ゆみあずさ」「とよめき」といった極早生品種の収量が高くなる(図5C )一方、「あきだわら」や「ほしじるし」「やまだわら」といった早生~中生品種の収量は低くなります(図5D )。したがって、九州北部地方では、8月20日頃までに一期作目を収穫できる移植時期や品種を用いると、二期作目の収量を高位安定化できます。また、「ちほみのり」や「つきあかり」「ゆみあずさ」「とよめき」「やまだわら」といった二期作目の稈長が55cmを超える品種を用いると、自脱型コンバインでも脱穀部のこぎ残しによるロスを抑えて二期作目を収穫できると考えられます。
(6) 標準作業手順書の作成・提供
以上の成果と既往の成果(2023年10月4日プレスリリース)を基に、多収と良食味の両立を目指した再生二期作に取り組む際の適切な品種や作期等について示した「多収品種を活用した水稲再生二期作超多収技術標準作業手順書」を作成し、提供を開始しました。なお、今回の成果に関する技術は、既往の成果と同様に、取得済みの特許(特許第7504505号)の対象となっています。
表1 所内試験ほ場(福岡県筑後市)における移植日、出穂日及び収穫日
2022年と2023年の平均値。一期作目の収穫時の刈り取り高さは40cm(手刈り)。2022年は、基肥として、12.0kg N/10a、8.0kg P2 O5 /10a及び8.0kg K2 O/10a施用後、追肥として、13.0kg N/10a、4.0kg P2 O5 /10a及び8.0kg K2 O/10aを施用。2023年は、基肥として、18.0kg N/10a、10.0kg P2 O5 /10a及び10.0kg K2 O/10a施用後、追肥として、6.0kg N/10a、6.0kg P2 O5 /10a及び6.0kg K2 O/10aを施用。なお、「ちほみのり」「つきあかり」「にじのきらめき」「ゆみあずさ」「あきだわら」及び「ほしじるし」は炊飯米が良食味。
図1 移植時期と品種の違いが収量に及ぼす影響
2022年と2023年の平均値。
図2 二期作目の収量と籾数、登熟歩合及び千粒重との相関関係
2022年の値。2023年も2022年と同様の傾向。相関係数(r)は、*、**、***、nsがそれぞれ5%、1%、0.1%水準で有意、有意でない。
図3 二期作目の収量と一期作目の生育期間と二期作目の気温との相関関係
2022年の値。2023年も2022年と同様の傾向。二期作目の気温は、一期作目の収穫後1日から二期作目の出穂後40日までの日平均気温の平均値。相関係数(r)は、*、**、***、nsがそれぞれ5%、1%、0.1%水準で有意、有意でない。
図4 移植時期と品種の違いが稈長に及ぼす影響
2022年と2023年の平均値。
図5 移植時期と品種の違いが収量に及ぼす影響の概念図
4月植えでは、二期作目の生育に必要な気温を確保できる期間が長いため、早晩性に関わらず籾数が多い品種の収量が高い。5月植えでは、二期作目の生育に必要な気温を確保できる期間が短いため、「ちほみのり」や「つきあかり」「にじのきらめき」「ゆみあずさ」「とよめき」といった極早生品種の収量が高くなる一方、「あきだわら」や「ほしじるし」「やまだわら」といった早生~中生品種の収量は低くなる。
2. 現地実証試験
株式会社ユーアスの現地ほ場(福岡県豊前市)において、2025年に4月植えした「つきあかり」を用いて一期作目と二期作目の収量(坪刈りと全刈り)や生育を調べました(表2 )。
(1) 一期作目及び二期作目の収量
自脱型コンバインで収穫した全刈り収量は、一期作目では全面倒伏したものの約700kg/10aの多収となり、二期作目でも約300kg/10aの多収となりました(図6A )。その結果、一期作目と二期作目の合計収量は、単年の結果ではあるが、約1t/10aの良食味米としては画期的な多収となりました。また、部分的に手刈した坪刈り収量は、一期作目が約800kg/10aとなり、倒伏による収穫ロスがあったと考えられました(図6B )。
(2) 二期作目の稈長と自脱型コンバインで収穫する際のロス
稈長は、一期作目が82cm、二期作目が67cmでした(図6C )。このため、二期作目において、自脱型コンバインで収穫した際の脱穀部のこぎ残しによるロス(脱穀後のわらに残った籾重から算出)は、2%未満となりました。
(3) 一期作目と二期作目の炊飯米の食味
炊飯米の食味の総合評価をみると、「つきあかり」の一期作目と二期作目と通常の一期作の「コシヒカリ」との間に明確な差は認められませんでした(図7 )。また、硬さと粒感をみると「つきあかり」の二期作目は、通常の一期作の「コシヒカリ」よりやや硬いものの、粒感があるといった特徴がありました。
表2 現地ほ場(福岡県豊前市)における移植日、出穂日及び収穫日
一期作目の収穫時の刈り取り高さは約5cm。基肥として、11.6kg N/10a、3.2kg P2 O5 /10a、3.2kg K2 O/10a施用後、追肥として、一期作目の収穫前(8/4)に4.6kg N/10a施用後、収穫後(8/18)に4.2kg N/10a、4.2kg P2 O5 /10a及び4.2kg K2 O/10aを施用。
図6 現地ほ場(福岡県豊前市)における全刈り収量、坪刈り収量及び稈長
品種は「つきあかり」。全刈り収量は、一期作目、二期作目とも、自脱型コンバインでほ場全体を収穫後、玄米重を測定して算出。
図7 現地実証試験における「つきあかり」の炊飯米の食味
2回の食味官能試験の平均値。パネラーは、1回目が22人、2回目が19人。「日本晴」と「コシヒカリ」は、農研機構中日本農業研究センター内の試験ほ場(上越市)において通常の一期作で栽培・収穫。総合・外観・うま味・粒感・滑らかさは、-5(基準より極端に不良)~+5(基準より極端に良)、粘りは-5(基準より極端に粘らない)~+5(基準より極端に粘る)、硬さは -5(基準より極端に柔らかい)~+5(基準より極端に硬い)の11段階で評価。
今後の予定・期待
「つきあかり」等の二期作目の稈長が長い品種を活用した再生二期作は、関東以西の暖地や温暖地において自脱型コンバインで収穫できるとともに、食味の良い米を多収穫できるため、主食用米や業務用米、加工用米、輸出用米等、幅広い用途の米の生産性向上に貢献することが期待されます。今後は、関東地方北部での適用性について検討を進めていく予定です。
用語の解説
再生二期作
一期作目の作物を収穫した後、切株から成長したひこばえを二期作目として栽培・収穫する二期作。[ポイントに戻る]
稈長
根元から穂の付け根までの長さ。[概要に戻る]
自脱型コンバイン
水稲や小麦等の穂を持つ作物を対象にしたコンバイン。刈り取り後、茎を押さえながら穂のみを脱穀部に投入して脱穀する。稈長が短い品種では、脱穀部のこぎ胴に穂が十分に届かないため、こぎ残しによるロスが増加する。[概要に戻る]
普通型コンバイン
水稲や小麦のほか、大豆やそば等の幅広い作物を対象にしたコンバイン。刈り取り後、作物体全体を脱穀部に投入して脱穀する。稈長が短い品種でも、脱穀部のこぎ残しによるロスが増加しにくい。[概要に戻る]
多年生
植物が複数年にわたって生育する性質。[開発の社会的背景に戻る]
ひこばえ
植物の切株から再生してくる芽。[開発の社会的背景に戻る]
籾数
単位面積当たりの籾の数。[研究の内容・意義に戻る]
登熟歩合
ふるいに掛けた際に落ちない充実した玄米が入っている籾数の、全ての籾数に対する割合。[研究の内容・意義に戻る]
千粒重
ふるいに掛けた際に落ちない充実した玄米千粒の重量。[研究の内容・意義に戻る]
早晩性
品種の播種や移植から出穂や収穫に至るまでの期間の長短を表す性質であり、極早生ではその期間が極めて短く、早生品種では短く、晩生品種では長く、中生品種では早生品種と晩生品種の中間となる。[研究の内容・意義に戻る]
発表論文
Nakano, H., Tanaka, R., & Hakata, M. (2026). Grain yield response of ratoon rice to planting date and variety in southwestern Japan. Crop and Environment , 5 , 100122.
https://doi.org/10.1016/j.crope.2026.100122
研究担当者の声
中日本農業研究センター 研究推進部 技術適用研究チーム長 中野 洋
地球温暖化の進行や農業者の減少が顕在化していく中で、米の生産性向上と安定供給に貢献する技術として再生二期作に取り組む産地と協力しながら普及していきたいです。