ポイント
農研機構は、日本のキュウリ品種「ときわ」のゲノムを高精度で解読しました。キュウリのゲノムの解読は難しいとされてきましたが、ロングリードシーケンス技術1)を用いて高精度の解読に成功しました。「ときわ」は我が国のキュウリ品種育成の素材として広く利用されてきましたが、本成果によりDNAマーカーの開発が進み、キュウリの耐病性品種や耐暑性品種など、ゲノム情報に基づいた品種育成の迅速化2)への貢献が期待されます。
概要
キュウリは主要な生鮮野菜の一つで、2022年の国内産出額は1,251億円となっています(令和4年度農林水産省生産農業所得統計)。しかし、近年は新たな病害による生育不良や暑さにより実がつきにくいなどの問題が深刻化しており、このような問題に対処するには新たな品種の育成が不可欠となっています。また、キュウリを含む野菜のゲノム情報の解読はイネやムギなどの穀物に比べて遅れているため、従来よりも効率的な品種育成を可能とするDNAマーカーを用いた選抜に必要なゲノム情報が不足していました。
このたび農研機構は、DNAマーカーを用いたキュウリの効率的な品種育成を進めるため、近代の日本のキュウリ品種の元祖ともいうべき重要な品種である「ときわ」のゲノムを高精度に解読しました。キュウリのゲノムには短い塩基配列の繰り返しが大量に存在するため、その完全解読は困難とされてきました。これまでに公開されていたゲノム配列も、約3億3千万塩基対と推定されるキュウリゲノムのうち、解読できているのは2/3以下の2億1千万塩基対で1億2千万塩基対が未解読なままとなっていました。今回、数万塩基から数十万塩基の配列を決定できるロングリードシーケンス技術を採用することで、未解読領域を5千万塩基対まで大幅に縮小して2億8千万塩基対(85%)を解読し、新たに2,000以上の遺伝子を発見しました。
「ときわ」は、我が国のキュウリの新品種育成の素材として広く利用されてきた品種です。日本キュウリのゲノム情報が高精度で解読されたことで、耐病性や耐暑性などの有用遺伝子の効率的な推定が可能となり、新たな品種を育成するためのDNAマーカーを迅速かつ容易に開発できるようになることから、キュウリ品種育成の迅速化に貢献します。
関連情報
予算 : 農林水産省委託プロジェクト研究
「植物遺伝資源の収集・保存・提供の促進」JPJ009843
「海外植物遺伝資源の民間等への提供促進」JPJ007117
予算 : 内閣府官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)
「遺伝資源ゲノムデータ基盤の構築による民間育種の加速化」
センター長栁澤 貴司
センター長山崎 俊正
植物資源ユニット 上級研究員内藤 健
施設野菜花き育種グループ
主任研究員下村 晃一郎
(現:農林水産技術会議事務局)
ゲノム情報大規模解析ユニット
上級研究員矢野 亮一
ジーンバンク事業技術室江花 薫子