プレスリリース
(研究成果) AI利用を促進!農作物のアノテーションを効率化するプログラムを開発

- 所要時間を1/5に短縮、標準作業手順書も同時公開 -

情報公開日:2025年5月16日 (金曜日)

ポイント

農研機構は、AIによる画像処理で農作物の花や果実などを検出する際に必要なアノテーション1)作業(学習2)データを作る作業)を効率化できるプログラムを開発し、職務作成プログラムとして利用申請の受付を開始しました。イチゴの花を用いて実証した際、本プログラムを利用することで、アノテーション作業の所要時間が、従来手法と比べて約1/5に短縮できました。本プログラムの使い方を記載した標準作業手順書(SOP)も併せて公開しました。研究機関、農業関係の高校や大学、企業等の皆さまにご活用いただけます。本成果は、AIによる農作物の画像処理の利用普及に貢献することが期待されます。

概要

AI(人工知能)を用いた画像処理は顔認識や車両の自動運転で広く利用されており、農業分野でも果実収穫ロボットの視覚部やトラクタの自動運転の研究で活用され、多くの成果が得られています。実際の画像処理ではAIに対象物を識別して検出させるため、事前に対象物をアノテーションし、特徴をAIに学習させる作業が重要です。しかし、AIによる検出精度3)を人による検出精度と同等にするためには、AIの学習のため、大量の画像を準備し、画像中の個々の対象物(例えば野菜の花、葉など)をアノテーションする必要があります。AIが対象物を正しく識別するためには、少なくとも10,000か所以上の対象物が正しくアノテーションされた学習データが必要となります。従来のアノテーション作業では、画面上で対象物を探し、対象物が含まれる領域をマウスなどで一つ一つ囲うように最小の四角形や輪郭を描く必要があり、時間と労力がかかることが課題でした。また、農作物を対象として手軽に使える、AI利用の画像処理ソフトウェアがほとんどありませんでした。そのため、農作物を対象にアノテーション作業を手軽に、効率的に行うことができるソフトウェアの開発が望まれていました。

この度、農研機構は、これらの課題を解決して農業の場面でAIによる画像処理を広く使えるようにするため、自動アノテーションプログラムを開発しました。本プログラムは、100か所程度の少数の手動アノテーションを最初に行えば、AIが学習して対象物を認識、検出し、その後の作業で、10,000か所以上のアノテーションを自動で行うことが可能です。大量のアノテーションを自動で行うため、目視で自動アノテーションの結果を確認する必要はありますが、マウスなどで対象物を指定する作業が不要となります。イチゴの花を用いて実証した際、アノテーションの作業時間が、従来手法では16.6時間であったのに対し、本プログラムを利用することで3.3時間になり、約1/5に短縮することができました。さらに、本プログラムでは複数種類のAIモデル4)を選択し作成することが可能で、作成したAIモデルを利用した対象物の自動検出ができます。

本プログラムは、農作物の研究を行う研究機関、農業関係の高校や大学、アプリケーション開発を行う企業等の皆さまにご活用いただけます。本プログラムとSOPの具体的な利用方法は開発したプログラムとSOPの利用方法をご覧ください。本成果は、AIによる農作物の画像処理の利用普及に貢献することが期待されます。

図1開発したプログラムの概要と特徴
(イチゴの花のアノテーション作業での事例)

関連情報

予算 : 運営費交付金
特許 :
農研機構 特許出願中、「物体検出モデルの学習装置、学習方法、学習データの生成方法、学習プログラム及び記録媒体」、 リ ウンソク、内藤裕貴、河崎靖、高橋正明、太田智彦

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構基盤技術研究本部
農業ロボティクス研究センター
センター長中川 潤一
研究担当者 :
同 農業ロボティクス研究センター
施設ロボティクスユニット
主任研究員リ ウンソク
広報担当者 :
同 研究推進室 推進チーム長白井 展也

詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

AI(人工知能)を用いた画像処理は顔認識や車両の自動運転で広く利用されており、農業分野でも果実収穫ロボットの視覚部やトラクタの自動運転の研究で活用され、多くの成果が得られています。実際の画像処理ではAIに対象物を識別して検出させるため、事前に対象物をアノテーションし、特徴をAIに学習させる作業が重要です。しかし、AIによる検出精度を人による検出精度と同等にするためには、AIの学習のため、大量の画像を準備し、画像中の個々の対象物(例えば野菜の花、葉など)をアノテーションする必要があります。AIが対象物を正しく識別するためには、少なくとも10,000か所以上の対象物が正しくアノテーションされた学習データが必要となります。従来のアノテーション作業では、画面上で対象物を探し、対象物が含まれる領域をマウスなどで一つ一つ囲うように最小の四角形や輪郭を描く必要があり、時間と労力がかかることが課題でした。また、工業製品であれば、画像認識のために部品をある程度検出しやすい形状にし、背景を均一な色に設定できるため、画像処理が可能なソフトウェアは多いですが、対象物の形状や背景が多彩で、かつ、対象物が背景と見分けにくい農作物を対象に、手軽に使え、AIが利用できる画像処理ソフトウェアはこれまでほとんどありませんでした。そのため、農業の研究での利用促進を目指し、農作物を対象にアノテーション作業を効率的に行うことができるプログラムを開発しました。

プログラムの概要と特徴

  • 開発したアノテーションプログラムの概要と特徴

    本プログラムの特徴は、花や果実・葉といった対象物を100か所程度手動アノテーションするだけで、その後の作業で必要となる10,000か所以上の対象物を自動でアノテーションができることです。自動アノテーションの概要は、まず、少数(複数画像から100か所程度)の対象について手動でアノテーションを行い、1次検出AIを作成します。作成した1次検出AIを使用して、自動で大量(10,000か所以上)の対象物の検出を行い、その検出データをアノテーションし学習データに利用します。これにより、手動で1つ1つアノテーションをしなくても、大量のデータを自動で効率的にアノテーションができるようになります(図1)。また、Graphical User Interface(GUI)5)を用いたため、視覚的に操作しやすく、ほとんどの処理をマウスのクリック操作で実行可能で、画像処理の経験がない初心者の方でも容易に使うことができます。プログラムの使い方を記載したSOP(図2)も本日公開しました。

    図2開発プログラムの標準作業手順書(SOP)
  • 開発したアノテーションプログラムを用いた効率化事例

    イチゴの花(開花)を用いて自動アノテーションを行った例を示します。100か所(花)程度のアノテーションで作成された1次検出AIモデルではイチゴの花の検出率は通常70~80%程度にとどまりますが、本プログラムで10,000か所(花)のアノテーションと学習を行うことで最終検出AIモデルによる検出率を95%程度まで上げることができました。手動でイチゴの花を10,000花程度アノテーションする時間が16.6時間であったのに対し、本プログラムを利用することで所要時間は3.3時間になり、約1/5に短縮することが可能になりました。イチゴの花のように小さく複雑な形状の対象物でも問題なく検出でき(図3)、キュウリの葉のように同じような色の対象物でも大量に効率的にアノテーションすることができます。

    図3AI(深層学習)によるイチゴ開花の検出画面
    (開発したプログラムによりアノテーションと検出を行った例)

開発したプログラムとSOPの利用方法

■開発したアノテーションプログラムの利用方法

本プログラムは職務作成プログラムとして農研機構に登録されており、使用するためには農研機構との使用許諾契約が必要です。契約条件に沿って使用していただく必要があります。本プログラムの利用許諾申請は、以下のお問い合わせフォームで受け付けています。

職務作成プログラム利用に関するお問い合わせ
URL https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/program

「お問い合わせ内容」欄に、以下の内容をご記入のうえ、お申し込みをお願いします。
<「お問い合わせ内容」の欄の記載例 >
職務作成プログラム「AI基盤イチゴ花・果実自動アノテーションプログラム」の利用許諾の申請

■SOPの利用方法

  • 以下のURLより、SOPのサンプル版(PDF)をどなたでもご覧いただけます。
  • SOP全編のご利用には利用者登録(無料)またはログインが必要です。
    以下のURLより、「ログイン/利用者登録」のページにアクセスすることができます。

    農作物AI識別のための効率的画像アノテーションプログラム標準作業手順書
    URL https://sop.naro.go.jp/document/detail/185
    ※URL更新(2025年5月16日)

今後の予定・期待

開発したアノテーションプログラムは、職務作成プログラムとして公開され、農作物の研究を行う研究機関、農業関係の高校や大学、アプリケーション開発を行う企業等の皆さまにご活用いただけます。

研究機関では、特定の作物の花数をカウントする生育調査や生育モデルの作成に利用でき、農業関係の高校や大学では、AIを利用した画像処理方法の習得のために活用することができます。また、アプリケーション開発を行う企業では、本プログラムを用いることで、画像処理で対象物を認識・検出するためのAIモデルの作成と改良を容易に、迅速に行うことができるため、画像を利用した栽培管理アプリケーションの開発とその精度向上などの改良の効率化が期待できます(図4)。本成果は、AIによる農作物の画像処理の利用普及に貢献し、AIの画像処理データに基づく試験研究の加速化が期待されます。

図4開発したアノテーションプログラムの利用想定

効率的にAIを利用した画像処理が可能となり、画像処理データに基づく試験研究やアプリケーション開発を加速化します。

用語の解説

アノテーション
AIに検出させたい対象物を特定するために、画像内の対象物を正確に指定して、その部分に囲い枠を描いてラベル付けする作業です。対象物をアノテーションし、アノテーションした部分を学習させてAIモデルを作成すると、作成したAIモデルが対象物を自動で検出できるようになります。 [ポイントへ戻る]
学習
検出対象物を正確にアノテーションした画像データはAIの学習データとなります。コンピュータにより大量の学習データを処理させることで、対象物の特徴を見つけ、AIモデルを生成することを学習と言います。 [ポイントへ戻る]
検出精度
検出精度は画像の中の対象物をどれだけ正確に検出できたかを表す数値で、検出率で表します。検出率は画像の中にある実際の対象物数に対して、画像処理で検出できた対象物数の割合で計算されます。検出率が高いほど精度が高いと言えます。正確にアノテーションされた画像を学習データとして大量に用いることで、AIモデルの精度が向上します。 [概要へ戻る]
AIモデル
入力画像から対象物を検出するため、学習によって生成された対象物検出のためのプログラムです。学習データにより訓練されたAIモデルはファイルとして保存され、AIモデルファイルと呼ばれます。AIモデルファイルを利用して画像の中から自動で対象物を検出することができます。 [概要へ戻る]
Graphical User Interface (GUI)
視覚的にわかりやすくプログラムの操作ができるような画面構成のことです。開発したアノテーションプログラムは初心者でも使えるように、ボタンや選択画面により操作ができるようになっています。 [プログラムの概要と特徴へ戻る]