新品種育成の背景・経緯
大麦には二条種と六条種があり、食用の大麦としては六条裸麦が一般的に使われていますが、近年、二条裸麦が食用大麦として注目されるようになってきました。しかし、一般的な大麦は炊飯後に褐変する欠点があり、食用としての大麦の需要拡大の妨げになっています。このため、炊飯後にも褐変せず白度を高く保ち、食味が優れる品種が求められています。また、大麦に含まれる食物繊維であるβ-グルカンは、血中コレステロール値を低下させるなどの機能性があることが報告されているため、β-グルカン含量の高い品種が注目されています。そこで、炊飯後にほとんど褐変せず、もち性で粘りがあるため食味に優れ、かつ、β-グルカンを多く含む二条裸麦の新品種「キラリモチ」を育成しました。
新品種「キラリモチ」の特徴
「キラリモチ」には、ポリフェノールの一種で、炊飯後の褐変の原因となるプロアントシアニジンが含まれておらず、ポリフェノール含量は従来の大麦品種の半分程度です(表1)。このため、炊飯後の褐変がほとんど見られず、麦ご飯が白いままで色相に優れます
(写真1、表2)。さらに機能性成分であるβ-グルカンの含量は、従来品種の約1.5 倍です(表1)。また、もち性であるため、その炊飯麦は粘りがあって軟らかく、食味に優れています(表2)。
裸麦は、搗精(とうせい)された精麦を炊飯しますが、六条種に比べて粒の大きい二条種は、一般的には搗精過程で粒が割れやすいと言われています。しかし、「キラリモチ」は、二条種でありながら、精麦時の砕粒率が低い(割れにくい)ので、精麦適性が優れて
います。
大麦縞萎縮病やうどんこ病に対する抵抗性を持ちますが、既存品種に比べると収量性がやや低く、また、穂発芽しやすい性質を持つため、収穫時の刈り遅れには注意が必要です。
成分に特徴のあるこの品種により大麦の消費拡大が促進されることを期待しています。



品種の名前の由来
もち性特有の炊飯麦の光沢がキラリと輝いて、さらにほとんど褐変しないためにその輝き
を保つことを意味します。またこの品種が光輝くようにという願いを込めています。
種苗の配布と取り扱い
平成21 年11 月27 日に品種登録出願(品種出願登録番号:第24339 号)を行い、
平成 22 年1 月25 日に品種出願登録公表されました。
問い合わせ先
農研機構情報広報部知的財産センター種苗係
Tel 029-838-7390 Fax 029-838-8905
用語の解説
裸麦
大麦の一種で、成熟後に穀皮が穀粒から容易に外れる性質を持っています。一方、穀皮が穀粒にぴったりと付いて外れない大麦は、皮麦と呼びます。
炊飯麦の褐変
精麦した大麦は、炊飯後に時間が経つと褐変しやすい性質があります。糠になる穀粒の外側には、褐変の原因となるポリフェノール類が多く含まれています。この層は精麦により削り取られますが、条溝(穀粒の縦溝)には一部が残るため、炊飯した精麦を褐変させる原因となります。
ポリフェノール
ほとんどの植物に含まれている構造が類似した成分の総称で、抗酸化性成分として知られており、食物繊維や5大栄養素に次ぐ栄養素ともいわれています。大麦ではプロアントシアニジンやカテキンといった成分の含量が多く、含量が多いほど炊飯後に褐変し易くなります。
β-グルカン
食物繊維の一つです。主要な穀類の中では大麦に多く含まれています。血中コレステロールを低下させるなどの機能性が報告されています。
搗精(とうせい)
穀粒の外側を削り、精白すること。搗精後の麦を搗精麦、単に精麦とも言います。穀粒が硬すぎると削るのに時間がかかり、逆に軟らかすぎると精麦過程で砕けてしまう穀粒が増えます。
60%精麦
重量の歩留まりが60%の精麦。原麦が100g であれば60g になるまで搗精します。