動物衛生研究部門
VI.ガスクロマトグラフによる第一胃液中VFAの測定
測定原理
反芻獣の第一胃液内揮発性脂肪酸をガスクロマトグラフィー(GC)を用い分離する、分離された脂肪酸の炭素が水素炎中でイオン化することにより発生する微弱電流を高感度に検出し有機物の検出を行う
参考文献
- 牛の臨床検査法:中村良一編集, 1972 農文協
目次
1.準備物
(1)機械
- ガスクロマトグラフ装置
- キャピラリーカラム
(2)器具
フラスコ、ロート、ガーゼ、小試験管
(3)試薬
- スタンダード用試薬
酢酸、プロピオン酸、iso-酪酸、n-酪酸、iso-吉草酸、n-吉草酸、iso-カプロン酸、n-カプロン酸 - 内部標準品
クロトン酸 - リン酸(85%含有)
- 水酸化ナトリウム
試薬はすべて特級品を使用
2.試薬調製法
(1)VFAスタンダード(内部標準品入り)
脂肪酸(8種)およびクロトン酸を所定の重量秤量し、蒸留水もしくは 0.1N NaOH水溶液で溶解する(表-1)
表-1
物質名 | 構成炭素数 | 秤量重量(g) | 溶媒 | 全量(ml) | 濃度(mmol/L) | |
---|---|---|---|---|---|---|
VFA標準品 濃度99%以上の試薬が市販されている |
酢酸 | C2 | 1.2010 | 蒸留水 | 100 | 200 |
プロピオン酸 | C3 | 0.7408 | 蒸留水 | 100 | 100 | |
iso-酪酸 | C4 | 0.8810 | 蒸留水 | 100 | 100 | |
n-酪酸 | C4 | 0.8810 | 蒸留水 | 100 | 100 | |
iso-吉草酸 | C5 | 1.0213 | 0.1N NaOH | 100 | 100 | |
n-吉草酸 | C5 | 1.0213 | 0.1N NaOH | 100 | 100 | |
iso-カプロン酸 | C6 | 1.1616 | 0.1N NaOH | 100 | 100 | |
n-カプロン酸 | C6 | 1.1616 | 0.1N NaOH | 100 | 100 | |
内部標準品 | クロトン酸 | C4 | 0.8609 | 蒸留水 | 100 | 100 |
(2)ガクスロ注入用スタンダード溶液
上記で作製した溶液を各々10 ml取り、100 ml容のメスフラスコに入れる。蒸留水を加え全量を100 mlにする(表-2)
表-2
脂肪酸 | 濃度(mmol/L) |
---|---|
酢酸 | 20 |
プロピオン酸 | 10 |
iso-酪酸 | 10 |
n-酪酸 | 10 |
iso-吉草酸 | 10 |
n-吉草酸 | 10 |
iso-カプロン酸 | 10 |
n-カプロン酸 | 10 |
クロトン酸 | 10 |
(3)内部標準液
作製した100 mmol/Lクロトン酸溶液を蒸留水で5倍に希釈し、20 mmol/Lクロトン酸溶液を作製する
(4)試薬
- 0.1N NaOH 水溶液
4g のNaOHを蒸留水で溶かし、総量を 1,000 ml にする - リン酸は原液を使用する
3.操作手順
(1)サンプル処理
- 牛第一胃液を採取器で採取する
採取した第一胃液は氷中で保存 - 二重ガーゼで濾過し大きな固形物を取り除く
- 濾液を4°C、10,000 回転、30 分間遠心分離する
- 上清0.5 mlに内部標準品20 mmol/Lのクロトン酸0.5 mlを加え混合する
混合液中のクロトン酸濃度は10 mmol/L(スタンダード溶液と同濃度) - 上液にリン酸原液(85%)0.01ml加え混合する(試料を酸性溶液にする)
同様にVFAスタンダード(内部標準品入り)1.0 mlにリン酸0.01 ml加え混合する - 4 °Cで一晩放置
- ふわふわした沈殿物が出るので4 °C、3,000 回転、15 分間遠心する
- 上清を別の試験管またはオートサンプラー用瓶に移す
- 試料0.5~1.0 μlをマイクロシリンジでGCに注入する
左側から
1. 20 mmol/Lクロトン酸(内部標準液)
2. 第一胃液(10,000 回転、30分間遠心後)
3. 第一胃液、クロトン酸、リン酸混合液
4. 混合液(一晩放置後)
5. 混合液(3,000 回転、15分間遠心後)
(2)VFA測定時のガスクロマトグラフ装置使用法
1) 測定前日、本体スイッチを入れる前に行うこと
- 試料注入口をシールしているセプタムを新しい物に交換する
セプタムは50~100検体を測定したら交換する
シリンジの針により徐々に穴が広がり、キャリアーガス流量の低下、およびセプタムのくずが分析に悪影響を及ぼし、ゴーストピークなどが出現する - ガラスインサート(注入口とカラムをつなぐガラス管)を洗浄した清浄なものに交換する
前回分析した時の不揮発性残渣が付いていると分析に悪影響を及ぼすし分離能が低下する - キャピラリーカラムを装置に取り付ける(信和化工:ULBON HR-20M 内径0.25 mm×長さ25 m)
カラムの試料導入側に試料のカスなどが付着していないか目視で確認する。付着していた場合はカラムの試料導入側を5~10 cmカットする
試料のカスが付着すると極端に分離が悪くなる - キャリアーガスをGC本体に導入する
キャリアーガスは必ず本体スイッチを入れる前に流す - ボンベ、減圧弁、ガスの流路等のガス漏れを石鹸水でチェックする。確認後は石鹸水をきれいに拭き取る
2) 測定前日、本体スイッチを入れた後に行うこと
- キャリアーガスを所定量流す(1.5ml/min)
- カラム槽温度をカラム最高使用温度より若干低い温度に設定
- スプリット比を 1:100 に設定する
キャリアガス流量、使用温度、スプリット比はキャピラリーカラムに添付してあるデータを参照 - 上記の状態で一晩装置を安定させる
3) 測定日に行うこと
- カラム槽温度を測定時温度に変更(140 °C)
- 注入口温度、検出器温度を設定する(どちらも300°C)
- コンプレッサーを稼働させ、圧縮空気をGC本体に導入する
- 水素ガスをGC本体に導入する
ボンベ、減圧弁、ガスの流路等のガス漏れを石鹸水でチェックする、確認後は石鹸水をきれいに拭取る - 検出器を点火しベースラインが安定するまで待つ(約30分)
- 検出器の感度等を所定の値にし、スタンダード溶液を3回測定
同様の結果が得られたら試料を測定する
測定結果にばらつきがある時には再度安定させ、再度測定する - 調整した牛第一胃液をGCに注入
試料はガスクロ用シリンジで(試料を1 μl 吸入し、さらに空気を2μl 吸い上げる)勢いよく(あまり力は加えない)試料を注入する
短時間で試料を注入しないとシャープなピークが得られない(酢酸ピークが二つに分かれてしまう) - 測定終了後、水素ガスと圧縮空気の供給を止める
- すぐに装置を止めず、しばらく(数時間)稼動したままにする
カラム内に残っている物質を追い出す - 注入口、カラム槽、検出器の温度を下げる
各部の温度が下がったら装置のスイッチを止める - キャリアーガスの供給を止める
- カラムを装置から取り外し、終了
VFAスタンダード
試料
4.補足説明
(1)計算
クロマトパックからプリントアウトされたそれぞれの脂肪酸濃度に希釈係数(試料と内部標準液を1:1で混合したので希釈係数は2)を乗じ、mmol/l であらわす
(2)正常値
総VFA濃度 60~120 mmol/L(酢酸約65~75%、プロピオン酸約15~20%、酪酸5~10%、その他5%)