開発の社会的背景
ブロッコリーは栄養価の高い緑黄色野菜として人気が高く、国内での収穫量は年々増加傾向にあります(2013年:13.7万トン、2023年:17.1万トン;農林水産省野菜生産出荷統計、2025)。2026年には15品目目の指定野菜として追加されることが決まっており、今後、さらに生産の拡大が予想されます。
一方で、加工・業務用ブロッコリーについては、その大半を輸入冷凍品に依存する状況が続いています。冷凍ブロッコリーの輸入量は、2014年には3.8万トンだった輸入量が、2024年には7.9万トンに達し、直近10年間で2倍以上に増加しています。
また、2024年の東京都中央卸売市場の国産生鮮ブロッコリーの年間平均価格が478円/kgであるのに対し、同年の輸入冷凍ブロッコリーの年間平均価格は288円/kgと、大きな価格差が存在します。この価格差が、国産品への代替を阻む一因となっています。
こうした状況から、加工・業務用ブロッコリーの輸入に過度に依存する体制からの脱却と、国産化の推進が求められています。そのためには、大幅な生産コストの削減が不可欠です。
研究の経緯
国産のブロッコリーは主に青果用として出荷されており、花蕾の直径が12~13cm前後が標準的な規格です。一方で、加工・業務用ブロッコリーは小房を切り離したフローレットとして利用されるため、必ずしも既存の青果用規格にこだわらず、青果用より花蕾を大型化させることで収量増加が期待できます。
農研機構は、栽培期間を延長させて花蕾を大型化させ、フローレット収量を飛躍的に増加させる「大型花蕾生産技術」を提唱しています(図1 、https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nivfs/2020/nivfs20_s01.html )。この技術では、大型化に適した品種を用いるとともに、品質が保たれる限り花蕾を大型化させて収穫します。収量の飛躍的な増加に加え、規格に合わせたサイズで収穫する必要がないため一斉収穫による省力化が可能です。
この技術を全国的に普及させるためには、各産地に適した品種の選定や、経済性の評価が必要です。また、青果用ブロッコリーは出荷後数日以内に店頭に並ぶことが多いのに対し、加工・業務用では実需者の需要に柔軟に対応するため、流通過程で一時的に貯蔵されることがあります。そのため、物流倉庫に到着後1週間以上の日持ち性が求められ、地域ごとの物流事情を踏まえて日持ち性を評価することも必要です。
図1 青果用花蕾(12cm径)と加工・業務用の大型花蕾(21cm径)をフローレットに分解した様子
そこで、秋作から春作にかけての産地(神奈川県、兵庫県、広島県、香川県、愛媛県、熊本県)では合計25品種、夏作産地(長野県)では合計23品種を用いて、各地に適した品種や収量性の調査を行いました。さらに、収量増加と一斉収穫による省力化に伴う経済性の評価を行うとともに、実際の物流を通じて出荷・貯蔵した場合の収穫後の日持ち性を検証しました。
研究の内容・意義
各産地での大型花蕾生産技術による増収効果と適正品種の特定
秋作から春作にかけての産地では「グランドーム」、「クリア」、「こんばんは」などの品種、夏作産地では「SK9-099」などの品種で高い収量が得られました。適切な品種を栽培することで、7県のいずれにおいても全国平均の3倍以上となるフローレット収量(2,100kg以上/10a)が達成可能であることが確認されました(図2 )。ただし、慣行的な栽培方法と比較して栽培期間が延長する傾向にあり、例えば長野県の夏どり作型では約1週間の延長が必要となります。
図2 各試験地の作型、品種例および収量(4県のデータ抜粋)
一斉収穫と混み玉出荷による省力効果と経営評価
青果用とは異なり、収穫サイズに厳密な規格が求められない加工・業務用では、省力的なクラウンカット5) 、一斉収穫および大小混み玉(花蕾径8~20cm)でのコンテナ出荷により、効率的な出荷が可能です(図3 )。
大型花蕾生産技術と一斉収穫を組み合わせた現地実証栽培では、収穫時期の見極めが難しく増収の効果は期待されるほどではなかったものの、慣行の青果用栽培と比較して、総労働時間が128時間から61時間へと半減し、出荷量が19%増加しました。労働生産性は7.3kg/hから19.7kg/hへと約2.7倍になり、所得換算すると、輸入品と同水準の販売単価であっても、1,159円/hから1,689円/hへと約1.5倍に増加しました(表1 )。これにより、輸入品に対抗できる大幅な労働生産性の向上が実現可能であることが示されました。
図3 従来の青果用出荷様式(左)と加工・業務用の混み玉コンテナ出荷様式(中央、右)の例
青果用ではサイズや茎長を揃えた花蕾を一定数梱包する必要がありますが、加工・業務用ではそのようなサイズ選別、調製、丁寧な梱包が不要となります。
表1 大型花蕾生産技術による加工・業務用ブロッコリー生産実証試験の経営評価
大型花蕾の日持ち性調査
6月~10月に長野県の現地ほ場で収穫した大型花蕾をスチロールボックスに氷詰めし、約3日間かけて神奈川県に冷蔵トラック便で輸送しました。その後5° Cの冷蔵庫で貯蔵した結果、収穫後12日間以上にわたって可販品質が保持されました。気温の高い夏秋作期に収穫された大型花蕾であっても、倉庫到着後1週間以上という実用上要求される日持ち性を十分に有していることが実証されました(図4 )。
図4 実際の物流システムを用いた日持ち性試験
「ブロッコリー大型花蕾生産技術標準作業手順書(SOP)」の公開
本技術を実践するための標準作業手順書を2025年11月10日に公開しました(図5 )。本手順書では、加工・業務用ブロッコリー生産にあたり、大型花蕾生産技術を導入したいと考えている全国の生産者や生産法人、普及機関向けに、技術の概要や特徴、作業手順などを分かりやすく解説しています。
図5 ブロッコリー大型花蕾生産技術標準作業手順書(SOP)
今後の予定・期待
ブロッコリー大型花蕾生産技術は、輸入品と同じ価格帯で業務用ブロッコリーの出荷を可能にする技術です。輸入品に対する価格競争力が高まれば、加工・業務用ブロッコリーの国産化が大きく進むことが期待されます。
本技術が全国的に活用され、これまで輸入品が使用されていた加工・業務用原料が国産ブロッコリーに置き換わることで、新たな需要が創出されます。そのため、生産量が増加しても価格下落を抑えつつ、安定した供給体制の構築につながります。
また、一定量のフローレットを袋詰めした「カットブロッコリー」という新たな青果用ブロッコリーの販売形態にも、大型花蕾の利用が可能です。このように、加工・業務用に限らず、青果用の新規流通モデルの構築にも貢献する可能性があります。
さらに、一斉収穫の普及を進めることで、一斉収穫するタイプの収穫機の導入が促進され、さらなる省力化が実現できます。これにより、労働力の減少が続く日本の農業現場において、ブロッコリーの生産維持および規模拡大が可能になります。
用語の解説
指定野菜
キャベツ、きゅうり、トマトなど、全国的に流通し、特に消費量が多いあるいは多くなることが見込まれる重要な野菜を国が指定しています。生産・出荷の安定を図り、消費者へ安定的に国産野菜を供給する必要があると認められた野菜で、現在、14品目が指定されています。
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フローレット
図1 のように、花蕾を分解して茎から切り離した小房のことです。冷凍ブロッコリーやお惣菜などではこの状態で使用されています。
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一斉収穫
ほ場内の収穫可能な個体を一度にまとめて収穫する方法です。
生育のばらつきが大きいブロッコリーでは、特定の日に一斉収穫した場合には規格内に収まる個体の割合が低下するため、通常(青果用)は収穫適期に達した花蕾を1つずつ選んで収穫する「選択収穫」が一般的です。しかし、1つずつ人の目で判別して収穫したり、小さな花蕾を後日収穫するために複数回ほ場に入る必要があるなど、作業量が増える要因となります。
一方で、加工・業務用では規格の許容範囲が広いため、一斉収穫でも規格外品の発生が少なく、効率的な収穫方法となります。ただし、収穫のタイミングが1度きりになるため、適期の見極めが重要になります。
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混み玉出荷
大小様々な大きさの花蕾が混在する状態で出荷する方法です。サイズや茎長を揃えて花蕾を一定数梱包する青果用と違い、加工・業務用では箱詰めの際にサイズの選別、調製、丁寧な梱包が不要となり、労力の削減につながります。また、サイズのばらつきが許容されるため、収穫作業の改善が図れるというメリットもあります。
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クラウンカット
花蕾直下で茎を落とす調製方法です。従来の青果用では、茎や葉を決まった長さに切り揃える必要があり、調製に手間がかかります。一方、フローレット部分のみを利用する加工・業務用では、茎を花蕾直下で切り落とすだけで調製が済み、省力的です。「ステムカット」などとも呼ばれることもあります。
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発表論文等
Regional Adaptability of a Broccoli (Brassica oleracea L. var. italica ) Large Head Production System in Japan I: Evaluation of 'Grandome' and Cultivar Selection in Autumn-Spring Production Areas. Takahashi M, Nakano S, Ozaki S, Tsuruda T, Abe T, Hanyuuda S, Matsunaga A, Sasaki H.
Horticulture Journal. doi: dx.doi.org/10.2503/hortj.SZD-041
Regional Adaptability of a Broccoli (Brassica oleracea L. var. italica ) Large Head Production System in Japan II: Establishing Summer Production Areas and Shipping Tests. Takahashi M, Komatsu K, Shibamoto Y, Hoyu T, Nakatsuka Y, Okada S, Sasaki H, Matsunaga A.
Horticulture Journal. doi: dx.doi.org/10.2503/hortj.SZD-042
農研機構(2025)普及成果情報「増収と省力化を可能にするブロッコリー大型花蕾生産技術の地域適応性評価と実証」
農研機構(2025)「ブロッコリー大型花蕾生産技術標準作業手順書」
https://sop.naro.go.jp/document/detail/196 (2025年11月10日公開)