ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

山崎 諒 西日本農業研究センター 研究員

東京大学大学院農学生命科学科の修士課程を修了後、農研機構に就職。西日本農業研究センター 営農生産体系研究領域 転換畑多収栽培グループ所属。 現在4年目。

主体的に研究テーマを見つけて、世界がひろがるように感じた。

子どもの頃から研究者になりたかった ── そして農研機構に

子どものころから自然科学が大好きで幼稚園のころには研究者になりたいと思っていました。高校でDNAや遺伝について学んで感動し、研究者になって複雑な生物のしくみを解き明かしたいという思いは強くなりました。大学では理学部にするか、農学部にするかを迷いましたが、解き明かした仕組みが社会で役に立つといいなと思い、農学部に進みました。大学時代に農業の研究者になりたいということを、県の農業職をしていた父と話しているうちに機構のことを知り、そこで研究したいと考えて就職しました。

就職後の悩みと研究テーマ

就職1年目の4月、5月頃は何をテーマとしたらよいのか、すごく悩みました。ダイズの栽培研究をすることは決まっていたので、とにかくテーマを見つけたいと必死で計画し、6月下旬に栽培試験を始めました。植物が進化の過程で獲得した環境刺激に対する応答、環境適応の生物学的なメカニズムに興味があります。そこで、栽植密度に対するダイズの生理的・形態的な反応を明らかにするために、生育の途中で間引いて、密植から疎植に変える試験を行うことにしました。そうしたら、ある日、間引きした区のダイズだけ青立ち*が発生していました。これはまったく予想していなかった結果で、ふと気づいたときにはとても驚きました。見つけた嬉しさと、栽植密度の変化が青立ちに影響するということは、皆が知っていること?何か勘違いしている?というような考えが入り交じり、複雑な気持ちで、あたりをうろうろと動き回りながら考えました。この現象を明らかにすることが研究テーマとなり、次につながるかもしれない、と期待が膨らみました。世界がひろがるように感じたことを覚えています。研究を進めて、今、論文を書いています。自分にとって最初の論文になるので、早く投稿したいです。今はそれだけをテーマにしていて、一つのテーマで上手くやっていけるのだろうか、と将来への不安、焦りはまだあります。今年やっている実験が上手くいって、次の論文になることを期待しています。

ダイズの栽培試験で大変なこと

圃場での研究のむずかしさを感じています。毎年新しい問題がおこりますが、改善しながらがんばっています。はじめは焦りがあり、暑い夏もずっと圃場で作業を続けるなど無理をしていました。例えば、ダイズは台風や大雨等で倒伏しやすいです。農家さんはそのまま栽培を続けたりもしますが、試験では条件がばらつくので倒れたままにできません。倒れたときには1本1本、必死に起こしていました。今は倒れないようにマイカ線を張るとよい、と聞いて取り入れています。圃場での工夫もそうですが、今は休憩をとりながら効率的に仕事をすることを心がけて、健康にも気をつけています。青立ちは複雑な現象なので、やった方が良い処理区も観察する項目も数え切れないくらいあります。すべてを実行することはできないので、沢山の可能性に優先順位をつけ、取捨選択して仕事をしています。

周囲の助け

自分だけでがんばっているように聞こえたかもしれませんが、そうではないです。周囲の研究者が気遣ってくれていることを日ごろから感じています。圃場でダイズを見ながら立ち話のようにして聞くことなどにも、参考になることが多かったりします。業務科の皆さんにもお世話になっています。圃場で新しい条件の実験をするときに、やりたいことを伝えると、どうすれば良いかを考えてくれます。長年の経験からの栽培の仕方とか、紐の結び方からシートの張り方まで、いろいろ教えてもらいました。

後輩へのメッセージ

研究をしたい人には農研機構はとてもお勧めです。1年目から主体的に計画して予算を使って研究をさせてもらっています。この点は、大学で大学院生として研究した場合と大きく異なると思います。自分で計画して研究を進めたい方には向いていると思います。自分は昨年から大学の社会人博士課程に入りました。仕事をして給料をもらいながら学位取得をめざせることも良い点だと思います。

*ダイズの青立ち
ダイズが熟して莢(さや)が茶色くなってくると葉や茎も枯れるのが通常だが、葉や茎が枯れずに緑色のままの状態となる。 葉や茎の汁がダイズにつくと品質が低下するため、機械による収獲が困難になる。

青立ちしたダイズ(左)と正常なダイズ(右)。