ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

グルゲ キールティ シリ 動物衛生研究部門 病態研究領域 中毒・毒性ユニット長 スリランカ ペラデニア大学理学部卒業。その後、高知大学修士課程に進み、愛媛大学で博士号取得。同大でのポスドク等を経て、1999年に家畜衛生試験場に採用。2018年から現職。

他の人や場所ではできない強みを生かしていろいろな専門の研究者と共同研究

日本人との出会いと進学

スリランカのお茶の産地で生まれ、鉱物に興味があったのでペラデニア大学理学部に入学しましたが、政情の問題で大学は3年間で卒業。1年の進学のための課程後、修士課程に行きましたが、今度は大学が閉鎖されました。その後、スリランカの水産資源庁で海洋調査担当の研究員をしているときに、参加したフィリピンでの研修で出会った日本人の先生の勧めで、高知大学の修士課程に進学することになりました。日本には進学の3ヵ月前の1月に行くことになりました。ところが僕の専攻に長期留学生が来るのは初めて、日本語も全く分からない、実はこのときヨーロッパで研究できるチャンスもあって悩みました。先生から「とにかく来てみなさい」と言われ、結局悩みながら期限の直前に来日することになりました。スリランカで着ていた半袖で飛行機に乗りましたが、周りはみんな長袖のセーターやコート。「これはマズいかな?でも空港に着いたら買えばいいか」と思いながら日本に着きました。ところが空港に服が売っていない。高知行きの飛行機に乗り換えましたが「寒い!もう絶対すぐに帰りたい!」と思いました。高知に着くと、ラボのメンバーは大歓迎してくれて、長袖の服も貸してくれました。(もちろん荷物にも半袖しか入ってなかった!)先生に6ヵ月もいれば食べ物にも慣れるよと言われ、ひとまず日本で生活することになりました。

日本での転機

あるとき、大学の近くの道を歩いていると、居酒屋の店員から「なにしてるの?入っていきなよ」と言われ、ご飯と日本酒をごちそうになりました。「日本酒はおいしいなぁ」と感じました。それから、その居酒屋に毎日のようにお世話になり、日本での生活も居心地よく感じるようになりました。留学生も増えて、日本で博士課程にも進学する気になり、先生の推薦で愛媛大学連合農学研究科に進学しました。ここでは野鳥・海洋生物の環境汚染物質の研究。生物の研究は初めてだったので、おもしろいと思いました。2年半くらいスリランカに帰らずにずっと研究して、良いジャーナルに投稿でき、モチベーションを保ったまま大学院を修了し、学振の特別研究員になって、その後、愛媛大学に非常勤研究員として就職もできました。このころに妻と出会って結婚しました。

農研機構での研究

1999年の秋に大学の恩師を通じて紹介された、家畜衛生試験場(現 動物衛生研究部門)の研究員に採用されました。ここでの仕事は牛、豚、鶏などの餌の中毒の研究。試験場には環境汚染の専門家は自分しかいなくて、そのための研究装置、実験道具もない。何にもできずに何度も「辞めて、他の国に移ろうか」と思いました。悩んだり、他の研究者に相談していくうちに、ひとつブレークスルーを見つけました。それまで野生動物でやってきた分析法などを利用して、ここでは生きている動物の研究ができる。しかも実際の牛、豚、鶏で研究できる。自分にしかないテクニックをつかって、新しい研究ができることに気づき、悩んでいた頃とは逆にやりがいを感じながら仕事ができるようになり、忙しいけど楽しく成果を出せました。この経験から研究職は、他の人や場所ではできない強みを生かしていくことが大事だと思います。若い後輩には、自分だけの技術を持っている人であれば、異分野や外国に行ったとしても、研究の世界で活躍できるよと言っています。部門の中でもウイルス、細菌、生化学いろいろな専門の研究者とも一緒に仕事をしました。農研機構の在外研究も利用して、海外の研究者とも仲間になりにもいきました。そうやって成果を出していくと国内外からも共同研究の誘いがあったり、留学生の受入れをしたり、色んな人と楽しみながら研究ができて、ますます良い成果を出せました。今はユニット長になって、研究する時間が取れなくなってきたけど、国内外のポスドクの受入れとか他の研究機関とのコラボレーションは続けています。
日本語を書くのは今でも苦手で書類は全部妻にサポートしてもらっています。よく有給休暇もとって家族で温泉や旅行に行ったり、つくばにいるスリランカ人や研究仲間も呼んでBBQをすることもあって、仲良くしています。ここまで日本で研究してこられたのは、家族や一緒に語り合う仲間がいるからです。

My favorite things。毎年お花見するのが楽しみなつくばの夜桜の画像。/海外現地調査のひととき。船に乗っている画像。/携帯で撮った風景写真の画像。/マルチロードマップの画像