ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

趙 元在 農業技術革新工学研究センター 兼 農業情報研究センター 研究員 韓国祥明大学コンピューター科学学部卒業。その後、九州工業大学大学院修士課程に進み、京都大学大学院で博士号取得後、農業機械メーカーを経て2016年農研機構に採用。2018年から現職。

農業機械が人間を超えるためには人の経験値がとても必要

ロボットトラクタの開発

トラクタを制御するためのシステム開発を担当しています。障害がない畑なら端末機を使って500mの距離で複数のトラクタを動かせます。トラクタのキャビン前後にカメラがついていて、取得した情報から周辺の作業環境をモニタリングできますが、これまで取得した情報から人を見つける方法を開発できました。トラクタが倒れた人を踏んでしまったりしたら大変だから、これはトラクタの安全性を高めるため、最優先でした。人のデータを取りこみディープラーニングで学習させて、遠くの人と半径5m以内の人を見分けて、近くに人を検出したら、トラクタは自動停止するように設計しました。
今後の目標は、農道を自立走行して、圃場から圃場へ移動できるようにすること。別のディープラーニングの手法を使って、画面上で農道だけを検出して緑色に表示できるようにします。車など障害物が止まっていたら、そこは緑色に表示されません。田んぼは作物が育っていくときに状態が様々に変わるけれど、農道は変化しにくいので、田んぼを区別するよりは、農道だけを検出させる方が簡単です。砂利、アスファルト、土など様々な農道の写真を1万枚程度取り込み、アルゴリズムの性能を検証しています。そこで間違いやすい足りない情報をもっと集めたり、アルゴリズムを修正したりしています。周辺の点群情報からトラクタ周辺の3次元マップを作ることもできます。周囲の景色を立体的に表示して農道の検出に役立てようと考えています。

トラクタ開発に大切なこと

トラクタは農作業をする機械なので、農家の要望に合う、作業効率やレベルが無くてはいけません。特にコンバインは収穫をする機械なのでちょっとした失敗が農家の利益に直結します。農家と関係を築いて、現場の話を聴くことが本当に大切です。社会貢献するためには実用化することが大切で、研究者がひとりよがりでやっても意味がない研究を進めることになってしまうから。最近の研究は、自分一人の力で目標とする結果をめざすことが難しい。自分だけでやると結果がでないし、社会貢献するのは難しい。一番大切なのは人。人が集まっている社会なんで。研究の方向性を決めるためにとっても大切です。また、実験は失敗するためにやるんですよね。
失敗して問題点を見つけて改良することが大事。だから、失敗しても受け入れてもらえるよう農家との信頼関係は本当に大切です。
人を超えることが目標です。田んぼではまっすぐ作業することが大切で、それは機械が得意なところです。人が優れているところは、目でみることで様々なパラメータを瞬時に判断できること。この様々なパラメータは農家の経験値で作業がされています。農作業の設定を最適化するためには、水分、土の硬さ、自然環境、生育の様子など様々なパラメータがあります。人間の経験値を数値化・理論化してアルゴリズムにすることが研究のポイントです。
千葉の横芝光町に「アグリささもと」という農業法人があります。ここの組合長にすごくお世話になりました。年配だけどお元気ですごく経験豊富。組合長のあたまをAIに入れたいくらいです(笑)。畑でゆでピーナツとかご馳走になって。現場で食べるとさらに美味しかったです。

農研機構を選んだきっかけ

韓国の大学時代から、コンピュータやロボットが得意でした。プログラミングやアルゴリズムの大会に出て入賞したり、ロボット部を作ったりしていました。日本には私費留学生として知り合いの先生がいた九州工業大学工学部に来ました。博士課程では京都大学に進み、ロボットコンバインの開発をしていました。そのころ読んでいた関連論文の著者に農研機構の研究者が沢山いて、研究内容も面白く尊敬していました。そこで、卒業後に就職した農業機械メーカーから転職して、農研機構に採用されました。

家族が一番大切

妻は九州工業大で日本語の先生をしていて、そこで知り合いました。とても優秀な人で、生徒に人気があったんですよ(笑)。好きなことは妻と一緒にゆっくり散歩することです。今は二人の娘(7歳と4歳)がいます。まだ小さくて良く分からないんですけど、自分の研究の面白さについて子供たちに話しています。娘たちはめんどくさいと思っているのか、すぐに別の遊びを始めたりしますけれど(笑)。週末は娘たちと自転車でサイクリングしています。研究所周辺まで来て「ここがパパの職場だよ。」とか教えたりしています。家族は一番大事な存在だから、その家族のために元気で仕事していると思います。

My favorite things。SIP標準区画向けマルチロボット作業中の様子/システムが農道だけを検出して緑色に表示している画像/研究室のメンバーとの画像。趙さんと他3名。/「休日は家族とともに」自転車に乗る2人のお子さんの画像。