ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

今須 宏美 東北農業研究センター 水田作研究領域 研究員 東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了後、2017年に農研機構に採用され、現職。

農業生産現場での研究を通じて、農家の皆さんの力になりたい

学生時代の農家さんとの出会いを通じて ── 農研機構で研究したい

小学生の時に読んだ本や家の畑仕事のお手伝いがきっかけで、将来は食糧生産に関わる仕事をしたいと思っていました。高校生の頃に肥料価格が高騰して今の農業が立ち行かなくなる可能性があると話題になって、人にも環境にも優しい持続的な農業の発展に貢献できたらいいなと思うようになり、農学部に進学しました。
学部4年生で附属農場の研究室に入ってからは、水稲の有機栽培の研究に取り組みました。農家さんの田んぼにお邪魔してその栽培方法を研究したり、各地の有機栽培農家さんを訪ねて回ったりする中で強く感じたのが、農家さんご自身が熱心に研究をされているということでした。それぞれの農家さんが工夫して得た知識や技術を体系化させて、みんなが使えるものにしていくというのも研究のひとつの大事な役目だと思いました。
就職先を考えた時に、まさに生産現場とやりとりをしながら新しい技術を作り上げて普及まで取り組んでいるのが農研機構だったんです。広い視野でいろいろな角度から物事を見ることができてこそ新しい技術に繋がっていくと思うので、多様な分野の専門家が集まっている農研機構なら、連携して農業生産現場に貢献する研究ができると思いました。

現在の業務内容

水稲の湛水直播栽培について研究しています。無コーティング種子を使った「代かき同時浅層土中播種栽培法」という技術の精度をさらに高めていく研究と、現場への普及指導をメインでやっています。直播栽培は種子を鉄粉などでコーティングしないと鳥に食べられてしまう等の問題もありますが、コストや手間がかかるので、コーティング無しでそのまま播けないか試行錯誤しています。コーティングをしないと土や気候の影響も受けやすいので、播種の時に田んぼの条件をどのように整えればよいのかなどの技術をしっかり確立するため、実際にあちらこちらの農家さんの田んぼに行き、土壌条件や出芽状況などいろいろな調査をしてデータを集めています。普及指導では農家さんの田んぼを巡回しているのですが、しっかりアドバイスできるように自分も知識を溜めていかなければと感じます。いずれはマニュアルにまとめて、たくさんの農家の皆さんに安心して取り組んで頂けるよう、少しでも力になれたらと思っています。

最初の配属先は秋田。就職1年目、困難に感じたこと

まず秋田に来て、方言がわからなくて困りました。農家さんと話さないことには何に困っていて課題が何かわからないので、めげずに足を運ぶようにしました。また、農家さんと話をしても分からないことだらけで戸惑いましたが、むしろ農家さんから教えて頂こうという気持ちで、分からないことは積極的に聞くように心がけました。上司を質問攻めにしたりもしました。最初は農家さんから「若い子が何しに来たんだべな」と思われていたようですが、どんな質問にも丁寧に答えてくれる上司と、無知な自分に優しく教えてくださる農家の皆さんのおかげで、今では農家さんから相談の電話を頂けるまでになりました。もう一つは、複数の試験課題のスケジュール管理です。作業時期が重なるのでいかにして調査をこなすかに苦労しました。最初は上司の調査の量やスピードについていくのに必死で、よく田んぼの真ん中で置いていかれていましたが、今では田んぼの中を走れるくらいになりました(笑)。周りの方々の工夫を真似して取り入れたりしながら、何とかスケジュールをこなせるよう、今も試行錯誤しているところです。

仕事以外の時間の過ごし方

休みの日は、春・秋はランニング、夏・秋は登山や知り合いの農家さんの農作業を手伝いに行ったりしています。冬はスキーや温泉めぐり。山スキーにも挑戦しています。他にも季節ごとのお祭りや花火大会など、外に魅力が多すぎて家にじっとしていられないですね。学生時代は自分から出かけることがほとんどなかったので、こんなにアクティブだったっけ?と自分でも驚いています。就職したら趣味を楽しむ余裕はないだろうと思っていたのですが、就職してすぐに上司から「職場のメンバーで駅伝大会出ない?」と誘われました。上司も現地試験などで忙しい中、毎日帰宅後に練習していて。仕事はもちろんですが、趣味にも力注いでいてすごいなと思い、見習いたいと思いました。仕事で体力必要なので鍛えておかないと、という気持ちもあります。

後輩へのメッセージ

生産現場と直接関わり合いながら研究したいと考えている方は、学生のうちに農家さんのところに足を運んでみることをお勧めします。私も奨学金を使って各地の有機栽培の農家さんを訪ねてお話を聞いたことがあるのですが、それぞれの方がそれぞれの考え方で作物を作っていて、抱えている問題も違うことを肌で感じました。研究としての興味だけでなく、農業現場での課題も頭に入れておくと視野が広がります。学生であれば気軽に尋ねることができますし、農家さんも優しく教えてくださいますよ。
就職後も趣味を持つことも大事です。研究に行き詰って気持ちが落ち込んだときには、趣味に没頭することで気持ちが切り替えられて、また明日から頑張ろうと思えるようになります。仕事以外にも夢中になれる何かがあるというのは大切ですね。

収量調査のために手刈り収穫したイネです。/ドローン空撮での生育調査なども行っています。/趣味はランニングです。東北農研チームで出場した駅伝大会で準優勝しました。上司と一緒に100キロマラソンも完走しました。/秋田県ならではの「雪寄せ大会」。東北農研女子チームで出場しました。