ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

松山 宏美 中央農業研究センター 生産体系研究領域 主任研究員 筑波大学大学院生命環境科学研究科博士前期課程を修了後、2008年に中央農業総合研究センター(現 農研機構中央農業研究センター)に採用。

研究で現場とのつながりを感じたい

希望していた研究の道へ

高校の生物の授業が楽しくて、基礎的な実験や研究をするよりは産業に近いことの方がやりがいを感じられるかなと思ったので農学部に進学しました。大学の時に先輩と果樹研の見学に行きました。先輩の知り合いが働いていて、女性の方でしたね。見学して、研究内容や、結果が分かりやすい形で消費者に届くというのが面白いと思いました。研究所の人たちが楽しそうに仕事していて、雰囲気がよかったです。
もともと研究職になりたかったのですが、当時農研機構は採用抑制をしていて研究職就職は無理と思っていたところ、その時たまたま研究職の採用が再開しました。公務員試験を受けて、そこから採用されていた時期で、大学院の時と少しでも研究分野が近いポストに応募して、就職できました。

ムギの栽培研究を

中央農業研究センターに作物栽培の研究員として配属されました。大学の時は植物生理をやっていて、配属されたばかりの頃は作物も栽培も分からなくて、当時の上司がムギの栽培をやっていて、いろいろ教えてもらいました。
2012年、当時ニュージーランドではコムギの収量でギネス記録を更新していて、上司にかわって勉強に行くことになりました。ニュージーランドの農家さんのところを訪ねた時には何か成果を得てこないと申し訳ないと思って、質問票を準備していって、圃場で農家さんを質問攻めにしてしまいました。ニュージーランドの多収コムギの穂がすごく大きかったのが印象に残りました。
今はコムギの耐倒伏性と出穂性に関する研究をしています。耐倒伏性は倒れにくい性質ということです。コムギは収穫部が上にあって、収量が多くなると穂が重くなって倒れやすくなってしまうので、収量性とともに耐倒伏性も向上させましょう、という研究です。茎が太くて倒れにくい品種は穂が大きいということが分かったので、育種の人と一緒に茎が太い材料を選抜して、多収で、耐倒伏性も高いコムギを作れたらいいなと思います。
植物から穂が出てくることを出穂といいますが、出穂する時期は品種によって異なっていて、この特性のことを出穂性といいます。品種や系統の出穂性の特徴をつかむため、冬の間はずっと幼穂(穂の赤ちゃん)の観察をしています。コムギは雨に当たると品質が低下するため梅雨前に収穫しないといけません。そのため実を育てるための生育期間を延ばすことができないんです。そこで、今の温暖化の気候下でどのように栽培条件などを変えていくと生育期間を延ばさずに収量を上げられるかというのをテーマに研究しています。
栽培マニュアルを作る仕事もしていて、栽培面積の拡大や増収に貢献できたらいいなと思っています。日本のコムギは収量性があまり高くなくて、雨が多いとか、水田で栽培しているとかの問題はありますが、その中でも少しでも収量を上げられるような、現場に適応する技術ができたらいいですね。これまで麺用コムギの研究をしてきたんですけど、これからはパン用コムギの収量の安定化をテーマとした研究も取り組んでみたいです。

耐倒伏性の研究でドクター取得

最近、コムギの耐倒伏性の研究でドクターをとったんですよ。日本で作物の倒伏の研究をメインでしている先生が東京農工大に一人しかいなくて、この先生にみていただいて論博でとりました。ドクターをとったときに、倒伏の研究を勧めてくれた当時の上司に「あなたに言われたテーマで、長くかかったけどドクターとれました!」と伝えたら、喜んでいただけました。

子育ては夫婦協力して、支援制度も利用しながら

子育てについては主人も協力的ですし、保育所も近いところに入れたので、まぁなんとかやれている感じです。子どもが病気の時は収穫作業や会議が無ければ休めますね。どうしようもないときは昼は休んで娘を看て、主人が帰ってきてから夕方(職場に)出てきて仕事をします。裁量労働制なので働きやすいです。朝は私が保育所に送って行って、夕方は主人が迎えに行って。ご飯は主人が作るんですよ。保育所は月イチお弁当なんですけど、それも主人が作ります。
研究支援要員雇用経費補助*を使わせていただきました。子どもが1月生まれで復帰時期を悩んだんですけど、1年3か月産休・育休をとりました。雇用期間が長くなるので、賃金を確保できてよかったです。研究支援要員の方は、年の近い女性の、子どものいる方に来てもらって。すごく優秀なポスドクの方で、とても助かりました。
なろりんルーム(一時預かり保育室)も1回使わせていただきました。「今日はおにぎりのところに行くからね~」って連れて行ったら、たまたま利用者がうちしかいなかったので、先生にもずっと相手してもらって機嫌良かったです。施設も新しいし、おもちゃもいっぱいあるので、すごく嬉しかったみたいです。病後の時は助かりますね。

なろりんのイラスト 「なろりんルーム」は、農研機構のダイバーシティ推進キャラクターのおむすび なろりんから名前がついています

*研究支援要員の雇用経費補助
農研機構において、育児・介護などにより時間的制約のある職員に対して、契約職員を雇用する経費を補助する制度。

双眼実体顕微鏡で見たコムギの幼穂の様子/ニュージーランドの大きな穂のコムギ/主茎から最初に出た側枝がわかるように、青い輪を付ける作業中/登熟期の麦圃場の様子 左がコムギで右がオオムギ