ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

坂本 利弘 農業環境変動研究センター 環境情報基盤研究領域 上級研究員 京都大学農学部卒業。同大学院農学研究科修士課程中退。2002年農業環境技術研究所に採用。2008-2010年ネブラスカ州立大学リンカーン校客員研究員(JSPS海外特別研究員制度)。農林水産省農林水産技術会議事務局を経て、2016年から現職。

衛星データで世界中の農業と環境を見える化、リモートセンシングを日本の食と農に活かしたい

就職は縁とタイミングで

大学時代、精密農業の研究をしていました。今でいうスマート農業研究ですね。私はデジタルカメラを用いた水稲の栄養診断に興味を持ち、これがリモートセンシングの世界に入るきっかけとなりました。
大学院1回生の時、試しに国家公務員の一次試験を受けて合格して、農林水産省の面接に行ったとき、「あなたの専門なら農業環境技術研究所(現在の農業環境変動研究センター)かな」ってことで紹介されました。それで、直接お話を聞きに行きました。農業環境技術研究所では、たまたまリモートセンシングの研究者を募集しており、当時の部長と企画科長からいろいろお話を聞き、すぐにでも採用していただけるならってことで、大学院を1年で中退し、就職することを選びました。もし、卒業まで就職を1年伸ばしていたら、研究者にはなっていなかったと思います。本当に就職は縁とタイミングだと感じています。
博士課程や、ポスドクなどの経験がなく研究所に入ったので、初めは学生の延長で研究を進めている感じでした。しばらくは、研究企画科に所属しながら、農家研修や業務課研修などの経験を積み、研究チームに配属されてからは、ミッションと関連した研究を進めていました。当時は研究費の不足を感じることなく、早い段階で科研費をとることもできたので恵まれていたと思います。

研究について、これまでとこれから

衛星リモートセンシングを軸とした研究を10年以上続けています。小さくてもいい結果が出てきた時や賞をとった時、科研費の申請課題が採択されたりした時は、やっぱりモチベーションが上がります。あと、ブレイクスルー的な意外といい発見や結果がでた時や、論文が採択された時に、やったなって思いますね。
JSPSの海外特別研究員制度を使って、アメリカのネブラスカ州立大学リンカーン校で2年間の在外研究をさせてもらいました。最初の一年は思ったように結果が出ず、悩んだんですけど、ある時オリジナルの解析法がひらめき、試してみると良い結果が出ました。その時に「道が開けた」と思いました。アメリカでは本当に自分の研究に集中できました。学位をとってすぐ行ったので、そのタイミングもよかったと思います。アメリカでの研究テーマは作物の生育ステージ(発芽や出穂や開花)を時系列の衛星データから解析すること。衛星データからこの場所ではいつ発芽して、出穂したかなどを推定する技術の開発です。これがきっかけで、トウモロコシの作柄が収穫の2か月前から予測できる技術の開発につながりました。
最近は、新たな取り組みとして、ドローンを使った研究をしています。ドローンリモートセンシングも画像を扱う点で同じなので、衛星リモートセンシング研究で培った知識・技術を応用することができるんですね。現在、同じ農研機構の次世代作物開発研究センターの研究者と共同でイネ育種に関する基盤技術開発研究に取り組んでいます。QTL解析に使えるように、ドローン画像の解析支援をしています。

後輩へのメッセージ

私の場合は、学位は就職してからとりました。初めての英語論文が出版された頃から研究が順調に進み、ドクターをとらせていただくことができました。社会人・職業人としてのプロ意識を自分なりに持って、仕事と向き合うのが重要だと思います。昔、インターネットで見つけて、今でも教訓としている「研究者にとっての論文十ヶ条(北海道大学名誉教授 角階先生 故人)」にあるとおり、貴重な研究費と時間をかけて行った仕事は、「形あるもの」にして後世に残していくことが大事だと思っています。
農研機構は、独自の在外研究制度があるのが魅力です。農研機構の若手研究者は、手をあげれば、海外で研究する機会をサポートしてもらえるので、とても恵まれていると思います。私ももう一度行きたいくらい(笑)。また、大きな組織なので、いろいろな専門・技能を持つ職員が在籍しており、知っている人をたどっていけば、たいていの問題の解決の糸口を見つけることができ、多様性に富んだ組織の強みがあると思います。

農環研将棋部 昼休みに教養室で活動/奥に見えるのが留学時代働いていた建物/ここ数年、ドローンを使った研究もしています/マルチロードマップ