ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

西田 智子 西日本農業研究センター 所長

来るものは拒まず、無我夢中の毎日。実社会に役立つ研究を推進したい!

農業をやりたい!

子どもの頃は、将来、農業をやりたいと思っていました。しかし、当時は土地が高価だったので、非農家の人間には無理だと言われました。小・中学生の頃は工業化のひずみによって発生した環境問題に関心が集まっていた時代で、社会科の授業で環境影響を考慮しない大規模灌漑事業により農地が砂漠化した話を知り、砂漠化の進行を止めるような職業に就きたいと思い、大学は農学部を目指しました。研究者になりたいというより農業の技術的な支援に携わる職業に就きたいと考え、大学4年生のときに農林水産省と県の農業試験場を受験したところ、両方に合格しました。父から「どうせなら、大きいことを考えた方が良い」と勧められ、国を選択しました。

外来雑草の研究を開始

栃木県に所在する農林水産省草地試験場(現・農研機構畜産研究部門那須塩原研究拠点)に赴任し、家畜の飼料畑や牧草地に発生する外来雑草の生態や侵入防止に関する研究に取り組みました。草地試験場の試験採用の女性研究職員は私で3人目でしたが、女性比率の低い学校を経験してきたので、違和感はありませんでした。試験場の敷地内に宿舎があって、職員全体が家族のようなお付き合いで、困ったときには助けてもらえる環境でした。ここで、結婚、出産を経験しますが、特に子育てに関しては公私ともに非常にありがたい環境でした。大変感謝しています。

オーストラリアへの留学

外来雑草の研究を進めるうち、雑草化している植物の防除技術を研究するのではなく、そのような植物が日本に入らないような仕組みを作ることが重要と強く感じるようになりました。そのためには、日本に入ってくる植物の雑草化のリスクを評価する必要がありますが、そのような研究は国内ではほとんど行われていなかったので、長期在外研究員制度を利用してオーストラリアのCSIROという研究機関に子どもを連れて1年留学しました。
留学先では、お世話になった研究者に「論文を書いて、終わりでいいの?」と質問されました。その方にとって、論文作成は目的ではなく、社会に役立てる手段でした。その方は、先進的な論文で有名でしたが、後から考えると解決したい社会問題があり、その問題解決の方法に関するご自身の意見の正しさを証明するために論文を作成されていました。突然の質問に当時の私は「留学できただけ十分です」としか答えることができず、そのことがそれからも頭から離れなくなりました。研究をして論文を作成する目的は、実社会に役立てることにあるのです。このことは、私にとってとても良い経験になったと考えています。

研究職から管理職へ

留学から帰国すると間もなく、農業環境技術研究所(現・農研機構農業環境研究部門)への異動の話がありました。同研究所はレギュラトリーサイエンスを掲げ、リスク評価研究に重点化しようとしていました。その後、日本版外来雑草リスク評価法の開発研究がひと段落したころに、農林水産省農林水産技術会議事務局(技会)に2年間出向しました。私の担当は生物多様性でしたが、当時は、「農業における生物多様性は、あったら良いけれど、農業研究で大事なのは生産性と農家の所得向上。」といった考え方が一般的でした。現在はSDGsの考えが普及し、生物多様性の重要性も浸透してきたと思います。この変化を体験できたことも、良い経験になったと思います。
技会から研究所に戻って2年ほどで同研究所企画戦略推進室長の話がありました。このポストは管理職でしたが、あまり深く考えずに承諾しました。当時は、複数法人が統合されることが決まっていて、新法人を立ち上げるための調整が大変でした。文字通り、無我夢中で仕事をしました。その後、農研機構本部の評価室長、研究推進部長(現・研究統括部長)を経て、今年の4月から西日本農業研究センター所長になりました。これまでは環境関係の研究をしてきたので、農産物を生産する研究に直接関われることが新鮮で、毎日楽しく勤務しています。

農研機構の魅力

農研機構の良さは、ひと言で言えば多様性にあると思います。研究分野が多様で、対象地域も日本全国をカバーするだけでなく、海外との交流も盛んで国連の機関が開催する会議への出席の機会もあります。そのため、自分の視野を広げることが可能なので、自分を高めることができる恵まれた職場であると思います。また、自分の研究を農業現場、農業関連産業、環境保全活動などに活用することが可能で、社会とのつながりのあるやりがいのある職場です。しかも食料は人間にとって不可欠なものであり、農業環境も重要です。そこに貢献できるのは大きいと思います。
若い方には、自分が正しいと思うことを大切にして続けて欲しいと思います。一方で、ひとりよがりにならないように、人の話をよく聞き、人の意見のどの部分を採用するかを自分自身で判断することでバランスを取る必要があると思います。

ごくたまに娘と旅行に行きます。写真は、ドイツのノイシュバンシュタイン城です。/ベランダ菜園を楽しんでいます。サヤエンドウはもうすぐ食べ頃です。/地域の方々に農業研究を身近に感じて興味を持っていただけるように、「西農研市民講座」を開催しました。/マルチロードマップ