動物衛生研究部門

牛海綿状脳症(BSE)

大脳皮質壊死症 (CCN)の鑑別診断

BSEにからみ、各都道府県で起立不能や神経症状を示す牛が多数検査されている。BSE陰性の確定診断が得られた後、さらに起立不能の原因を明らかにするために、どのような検査をすればよいかの問い合わせがある。

生産病研究部病態生理研究室では、チアミン(ビタミンB1)欠乏による大脳皮質壊死症(CCN)の病性鑑定を実施している。本症は、2歳以下の育成牛に発生が多いが、2歳以上の乳牛(搾乳牛)にも散発することが知られ、国内では6歳の搾乳牛にも発生があった。

CCNの臨床所見は、食欲不振、歩様異常、起立不能や後弓反張である。症状からは、他の感染症や代謝障害、乳熱、中毒等との判別は困難である。確定診断は、脳の病理組織学検査により、大脳皮質の壊死を確認、また、組織や血液中のチアミン濃度の定量により、チアミン欠乏を確認することによって行う。しかし、チアミン濃度の測定は、最低2日を要し、また、病理組織学検査にも時間を要するため、本症の簡易検査法として、脳に365nmの紫外線を当て、自家蛍光の有無を確認する方法が利用されている。CCNでは、紫外線照射下で脳の表面や割面に自家蛍光が肉眼で認められ、瞬時に判定可能である。特に割面では、自家蛍光が大脳皮質に層状に認められる。自家蛍光はCCNで高率に認められるが、鉛中毒、リステリア、髄膜脳炎、スクレピーなどでは見られないため、スクリーニングに適している。ただし、硫化水素中毒や羊の脳水腫については、自家蛍光を認める報告がある。

自家蛍光を見る材料の注意点

自家蛍光の観察には、新鮮または凍結保存した脳が適しており、ホルマリンに長く浸漬した脳では、自家蛍光が失われている場合がある。

自家蛍光の観察法の実際

暗所にて、脳に波長365nmの紫外線を照射する。

クロマトビューポータブル暗箱
【クロマトビューポータブル暗箱に検査する脳を置きハンディ型UVランプ(365nm)で照射し、観察する】

使用機器:病態生理研究室の例

[簡易検査]大脳皮質壊死症例の紫外線照射による画像:

1.大脳皮質壊死症に罹患した子牛の脳の自家蛍光

大脳皮質壊死症に罹患した子牛の脳の自家蛍光

2.牛の脳の自家蛍光

牛の脳の自家蛍光

3.大脳皮質壊死症牛の大脳の自家蛍光

大脳皮質壊死症牛の大脳の自家蛍光

4.大脳皮質壊死症牛の脳の病理組織所見

大脳皮質壊死症牛の脳の病理組織所見

参考文献

  • Markson, L. M. and Wells, G. A. H. (1982).: Evaluation of autofluorescence as an aid to diagnosis of cerebrocortical necrosis. Vet. Rec., 111: 338-340.
  • 堀野理恵子(1991): 牛の大脳皮質壊死症. 農林水産省家畜衛生試験場研究報告. 96: 323-327.
  • 堀野理恵子, 板庇外茂雄(1991): 反芻動物の大脳皮質壊死症の診断. 家畜衛生研究成果情報, No.5, 11-12.
  • 堀野理恵子(2001): 子牛およびめん羊のチアミン欠乏症, 特に実験的大脳皮質壊死症に関する臨床病理学的研究, 家畜臨床誌, 24(2), 45-54