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対象家畜 : 馬
1. 原因
古典的な馬痘の原因は、ポックスウイルス科(Poxviridae)コルドポックスウイルス亜科(Chordopoxvirinae)オルトポックスウイルス属(Orthopoxvirus)の馬痘ウイルス(horsepox virus)で、ワクチニアウイルス(Orthopoxvirus vaccinia)と近縁のウイルスである。しかし馬に特徴的な皮膚病変を形成するその他のポックスウイルス感染症も馬痘として扱っている。1930年代に東アフリカで見つかったウアシン・ギシュー病も馬痘の1つとして扱われており、オルトポックスウイルス属のウアシン・ギシューウイルス(Uasin Gishu virus)がその原因となる。1980年代には、人の病気として知られていた伝染性軟疣腫(Molluscum contagiosum)が馬で見つかった。本病も馬痘の1つとして扱われており、コルドポックスウイルス亜科、モラスキポックスウイルス属(Molluscipoxvirus)の伝染性軟疣腫ウイルス(Molluscipoxvirus molluscum)がその原因となる。いずれも2本鎖DNAウイルスで、形態はレンガ状をしており、大きさは200×200×250 nm(オルトポックスウイルス属)もしくは320×250×200 nm(モラスキポックスウイルス属)、エンベロープを有する。
2. 疫学
古典的な馬痘は19世紀から20世紀前半までは欧州でしばしば発生していたが、現在は発生していない。20世紀前半以降は、ウアシン・ギシュー病や伝染性軟尤腫の発生が稀に報告されるだけになった。わが国での発生はない。馬痘ウイルスの伝染性は高く、馬と馬の直接接触や、馬具、馬取扱者を介して伝播する。いずれのポックスウイルスも、人に感染する。
3. 臨床症状
古典的な馬痘の病型は、口腔型(buccal form)と潤滑油型(grease form)の2種類に分類される。口腔型の場合、口唇や口腔、鼻鏡、鼻腔、眼瞼に、潤滑油型の場合、繋部や球節にそれぞれ特徴的な皮膚病変が形成される。最初に丘疹が形成された後、水疱、膿疱、粘液性滲出物の分泌、痂皮形成へと病気が進行する。痂皮が剥離すると、出血斑を呈する。潤滑油型では疼痛のため馬が跛行する。若齢馬は本病によって死亡することがあるが、多くの場合2~4週で回復し、病変部が瘢痕となって残る。ウアシン・ギシュー病では、顔面、頚部、背部、腹部、後躯に乳頭腫様の皮膚病変が形成される。伝染性軟疣腫では、粘液性滲出物の分泌を伴う丘疹が顔面や躯幹、外部生殖器に形成されるが、古典的な馬痘に比べて伝染性が低く、病気の進行も遅く、症状は軽度である。
4. 病理学的変化
すべての馬痘病変において、表皮の角質層の空胞変性および空胞細胞に好酸性細胞質内封入体の形成、錯角化、痂皮形成が、また有棘細胞層において棘解離が認められる。真皮には好中球および単球の浸潤が適度に認められる。
5. 病原学的検査
古典的な馬痘の場合、病変部乳剤を羊腎細胞に接種することで、ウイルス分離を行う。また乳飲みマウスに接種することで、病気の再現試験を行う。PCRによるウイルス遺伝子の検出、蛍光抗体法によるウイルス抗原の検出、電子顕微鏡によるウイルス粒子の確認を行う。
6. 抗体検査
馬痘を疑う症例に対して、ペア血清を用いた寒天ゲル内沈降反応や中和試験、HI反応を行う。
7. 予防・治療
有効な予防法はない。罹患馬に対して、対症療法や二次感染の予防を行う。
8. 発生情報
9. 参考情報
- T. S. Mair and D. Scott, Horsepox, 169-171, in Infectious Disease of the Horse, Equine Veterinary Journal Ltd, T. S. Mair and R. E. Hutchinson eds.
- 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
編集 : 動物衛生研究部門
(令和6年11月 更新)