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対象家畜 : 豚、いのしし
1. 原因
コロナウイルス科 (Coronaviridae) オルソコロナウイルス亜科 (Orthocoronavirinae)アルファコロナウイルス属 (Alphacoronavirus) テガコウイルス亜属 (Tegacovirus) に分類されるAlphacoronavirus suis (豚伝染性胃腸炎ウイルス:transmissible gastroenteritis virus (TGEV))。ウイルス粒子は直径約100nmの球形または不定型で、エンベロープの表面に放射状に突き出たスパイクを持つ。ゲノムはプラス鎖の一本鎖RNAである。血清型は単一。同じアルファコロナウイルス属の豚流行性下痢 (PED) ウイルスとのウイルス中和法による交差反応性はない。しかし、豚の呼吸器より検出される豚呼吸器コロナウイルス (PRCV) は腸管親和性を失ったTGEVの遺伝子欠失変異株であり、ウイルス中和法や間接蛍光抗体法によりTGEVと区別できないため、本病の診断にあたっては注意が必要である。
2. 疫学
TGEVは主に腸管上皮細胞で増殖し糞便中に大量に排泄され、糞便を介した経口感染により豚間で伝播する。TGEVは呼吸器での増殖も確認されており、経鼻感染や飛沫感染の可能性も示唆されている。豚以外にもイヌ、ネコ及びキツネが宿主となりうる。農場間のウイルス伝播は、感染豚を含む感受性動物の移動並びに汚染物品、汚染車両及び野鳥等野生動物を介した機械的伝播により成立する。本病は年間を通じて発生するが、国内では冬から春にかけての報告が多い。抗体陰性農場にウイルスが侵入した場合、ウイルスは急速に農場内に伝播し爆発的な流行を起こす(流行型)。通常、発生は数週間で終息するが、頻繁な種豚導入を行う農場や大規模一貫経営農場などでは連続的に供給される感受性豚間でウイルス感染環が形成され、ウイルスが農場に常在することがある(常在型)。
本病は1945年に初めて米国で確認され、その後欧州やアジアの養豚地域に蔓延した。1980年代に入ると本病の発生歴も下痢の症状も認められない農場でTGEVに対する抗体の検出が相次ぎ、そこらからPRCVが検出・同定された。PRCVが急速に蔓延した欧州と米国では本病の発生は激減し、現在では養豚密集地帯で散発するのみである。国内でもPRCV感染が確認されているが抗体陽性率には地域差があり、本病の発生は散発的であるが継続して確認されている。
3. 臨床症状
水様性下痢、嘔吐、並びに食欲不振等の急性胃腸炎症状を主徴とする。母豚では食欲低下や脱水による泌乳減少や停止を起こし、哺乳豚の飢餓と脱水を増悪する。日齢が進んだ豚では軟便にとどまり、致死率も低下する。流行型の発生ではPED及び豚デルタコロナウイルス感染症と症状が類似する。常在型の発生では、乳汁免疫の消失する離乳前後の豚でロタウイルス感染症、大腸菌症、豚コクシジウム症、並びにクロストリジウム症と類似した症状が認められる。
4. 病理学的変化
肉眼的に胃の膨満と未消化凝固乳の貯留、小腸での未消化凝固乳または黄色泡沫状漿液の貯留と粘膜の菲薄化がみられる。組織学的には空腸から回腸にかけて粘膜上皮細胞の空胞変性と壊死に起因する小腸絨毛の萎縮が認められる。
5. 病原学的検査
発症豚の糞便又は小腸乳剤を用いたRT-PCR法によるウイルス核酸の検出、豚腎または豚精巣由来細胞を用いたウイルス分離、又は発症初期の小腸、特に空腸下部から回腸にかけてのホルマリン固定・パラフィン包埋切片を用いた免疫組織染色によるウイルス抗原の検出を行う。RT-PCRによる糞便中のウイルス遺伝子検出は迅速性に優れ、伝染性胃腸炎とPED及び豚デルタコロナウイルス感染症との鑑別に有用である。また、前述のPRCVとの鑑別にはスパイク蛋白遺伝子5'末端の遺伝子欠失部位を標的としたプライマーセットを用いたRT-PCR法が有用である。
6. 抗体検査
中和試験により急性期と回復期のペア血清で抗体価の有意上昇を確認する。海外では豚呼吸器コロナウイルス抗体とTGEV抗体を識別できるELISAが市販されている。
7. 予防・治療
農場の出入り管理と衛生対策を組み合わせたバイオセキュリティーによりウイルスの侵入蔓延防止に努める。また、乳汁免疫の誘導を目的とした母豚接種ワクチン(弱毒生ワクチン)が市販されている。発生時の治療は二次感染防御のため抗生物質投与、脱水防止の補液投与等の対症療法が主となる。
8. 発生情報
9. 参考情報
- 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
- Diseases of Swine, 11th edition (Wiley-Blackwell)
編集 : 動物衛生研究部門
(令和6年11月 更新)