動物衛生研究部門

豚コレラ

防疫マニュアル

防疫は「豚熱に関する特定家畜伝染病防疫指針」と「豚熱に関する特定家畜伝染病防疫指針に基づく発生予防及びまん延防止措置の実施に当たっての留意事項について(消費・安全局長通知)」(以下、「指針等」)に基づき行うこととなっている。基本方針はもちろん豚熱発生時の防疫体制や緊急ワクチン使用など防疫措置、さらには防疫対応の強化についても規定されている。防疫の基本は病原体、宿主、そしてそれらを結ぶ感染経路といった伝染病発生の成立要因を排除することに他ならないことはいうまでもないが、伝播の仕方や被害の大きさはウイルスのタイプや飼養環境などによって異なるため、防疫マニュアルは地域性も十分考慮したものでなければならない。地域ごとに養豚農家の密度や飼養形態、豚や精液の流通、残飯など食品残さ給与状況などを把握し、万一の発生に備え、まん延に伴う別種生産システムへの影響をシミュレーションしておくことも重要である(表7)。また、豚熱ウイルスは遺伝的、抗原的、病原的に多様性があり、株によって病型がある程度決定されるものの、豚の品種や飼養環境によって一つの流行において急性、慢性、遅発性といった種々の病型が混在し、時として不顕性も起きる。したがって、発生時にはウイルスの特性を早急に掌握し、疫学調査に役立てるとともに、すばやく防疫対応ができるように体制を整備・維持しておかなければならない。指針等では全国及び都道府県に豚熱危機管理委員会等を設置することとなっており、防疫演習等を実施するよう日頃からの危機管理体制の構築や点検についても謳われている。また、清浄性の維持確認のための調査も危機管理としては重要で、臨床検査による異常豚の摘発及び病性鑑定や種豚等の抗体保有状況調査も引き続き行われる。大きな被害をもたらす急性豚熱や遅発性豚熱では抗体を保有していないこと、BVD抗体保有豚が豚熱の抗体検査、特にELISAで検出されることから、後者の抗体検査だけで豚熱を完全に摘発することは困難であるが、豚の移動の際には着地検査として実施すべきである。抗体が検出された場合には必ず当該農場への立ち入り等による臨床検査や病性鑑定を行い、それらの結果を踏まえて総合的に判断することが肝要である(図14)。

今後、万一発生が起こるとすれば海外からの侵入である。わが国での侵入防止措置の強化は今まで以上に図られるものの、海外との往来は人のみならず物品もますます激しくなっている。豚熱発生国に出かけた場合には不用意に豚など家畜には近づかないようにするとともに、畜産物を介する機械的伝播の可能性を排除するよう努めなければならない。

表7.考慮すべき豚熱サーベイに係る重要事項

表7.考慮すべき豚熱サーベイに係る重要事項

図14.豚熱の診断防疫

図14.豚熱の診断防疫