農村工学研究部門

農村工学研究部門メールマガジン

メールマガジン第2号(2010年5月号)

目次

1)トピックス

◆雨ニモマケズため池補強工法の実証試験

我が国には、土を締め固めて造ったため池が約21万ヶ所もあります。度重なる地震や豪雨に耐えながら100年以上使われているものも多く、少しずつ安全性が低下しています。近頃は各地で集中豪雨が発生し、ため池が崩れる被害が増えています。

そこで私たちは、古いため池が豪雨で壊れるメカニズムを研究し、対策工法を研究しました。そして、実際にため池を造り、1時間当たり150mmという豪雨を人工的に降らせ、対策工法の効果を確かめました。

施設資源部 土質研究室長 堀俊和

(関連URL:ビデオ画像)※視聴時間は約90秒

◆経済協力開発機構(OECD)会議で発表

去る3月23日~26日に、スイスのレザンで、OECD農業環境指標ワークショップが開催され、OECD加盟24ヶ国等から89名が参加しました。農産物輸出国は、日本のような農産物輸入国の農業保護政策が環境破壊の引き金になっているので、これを撤廃し自由化すべきと主張しています。

このように、食料の安定供給という名目だけでは、自由化を求める外圧に対抗できなくなってきました。アジア・モンスーン気候下の水田は、洪水防止、地下水涵養、土壌侵食防止、生物の多様性保全等の様々な効果を発揮しています。私たちは、我が国の水田農業を守る立場から、各国関係者と議論してきました。

農村環境部 環境評価研究室長 松森堅治

(関連URL)http://www.oecd.org/agriculture/env/indicators/workshop
公開を終了しています

 

2)イベント情報

◆「科学・技術フェスタ in 京都」に出展

6月5日に、鳩山総理大臣のご挨拶で「科学・技術フェスタin 京都」が開会されます。産学官連携の成果を国民に広くPRするため、科学・技術に関わる数多くの行政機関や研究機関が運営する大きなイベントです。農工研から、「ため池防災情報のリアルタイム配信システム」を出展します。

農村総合研究部 広域防災研究チーム 研究員 井上敬資

(参考URL)http://www.naro.affrc.go.jp/nire/mail_magazine/files/mm02_seika_5.pdf

◆「進めよう!!“農”マライセーション ‐アグリにトライ!チャレンジド(障がい者)‐」に出展協力

5月24日~28日に、農林水産省の「消費者の部屋」において、「進めよう!!“農”マライセーション」が企画展示されました。

連日100名を超える来訪者を集め、一般の方々の関心の高さがうかがえました。障がい者が働く農園から提供された野菜や鉢植えを手にした来訪者から「障がい者の方々の可能性を感じた」、「工夫することで障がい者は活躍できるんですね」といった反響を多数いただきました。

私たちは、農業分野において障がい者の就労が推進されるように、様々な視点から研究を進めています。

農村計画部 集落機能研究室 主任研究員 唐崎卓也

(関連URL)

3)最新の「農工研ニュース」より

◆水田輪作はFOEASにおまかせ

水田農業の経営を安定させるため、水田輪作が奨励されているものの、畑地化した水田に作物を植えても、湿害や干ばつに見舞われては育ちません。

そこで私たちは、土の中の水分(地下水位)を自由にコントロールできる地下水位制御システム(FOEAS)を開発しました。これまで約2、000haの農地に設置し、好評につき全国展開中です。

農村総合研究部 水田汎用化システム研究チーム
主任研究員 若杉晃介

(関連URL)

4)水土里のささやき

◇水土里ネット山口の小宮山様より

山口県では、平成17年度より地下水位制御システム(FOEAS)の水田導入に取組み、現在までに18地区38haに施工しました。農工研の担当研究者には、施工前後に現地に出向いて頂きました。その時の助言は我々の重要な技術力となり、FOEASほ場の選定や設計施工に役立てています。

FOEAS施工前は、湿田のために転作や野菜の作付けは困難でしたが、施工後は排水性の大幅な改善と確実な灌漑機能により、大豆が勢い良く育つなど、農家の方も驚いています。また、水管理労力が軽減し、表土の乾燥が早いなど、収穫作業の日程が組みやすく好評です。

FOEASは、農工研内のモデルほ場において、実際に作付けを行いながら生まれた技術と聞いており、農家サイドに立った使いやすい営農システムです。今後の課題として、二次整備におけるFOEASの導入方法、水持ちの悪いほ場への適用の可否と水持ち対策などの検討が必要になると考えています。

当県では、今年度以降も県内各地でFOEAS導入を予定していますので引き続きご支援をお願いします。

<水田汎用化システム研究チーム若杉>

FOEASの機能を持続させるため、疎水材の選定や耐久性の向上、用排水量の実態等の調査研究を継続しています。また、農研機構の地域農業研究センターや各県農業試験場と協力し、FOEASを活用した稲・麦・大豆・野菜等の栽培技術にも取り組んでおり、営農を見据えた基盤整備技術の普及に努めて参ります。

◇研究者の卵(S大学修士課程2年)の素朴な質問

Q1:自分が希望する(学んだ)研究に就くことは可能ですか?

U研究員:農村工学の研究領域はとても広いので、新採者は、異なる専門分野との境界領域にも目配りできるスペシャリストになるよう育成されています。どこに配属されても、貴方の研究実績と経験は役に立ちます。(^_^)/

Q2:技術系研究職員に求められる資質は何ですか?

U研究員:技術研究力は、社会や施策のニーズに的確に反応できる感覚と研究実績、豊富な知識及び経験に裏打ちされます。既存の技術では解決できない場合は、先入観に囚われず、客観的なデータに基づいて考察し、新しい技術開発に挑戦するバイタリティーが必要です。そのためにも、変化への柔軟な対応力や戦略的に思考し分析する能力を少しずつ養って下さい。欲張ってすいません。(-_-;)

 

  • 5)農村工学研究所の動き

◇専門技術研修「河川協議と利水」を6月7日に開講

河川の流水を利用するために工作物を新築・改築する場合は、河川管理者の許可が必要です。日本の農業用水は、90%以上が河川水であり、そのための施設数はなんと10万ヶ所以上です。このように、全国津々浦々で、農業用水の利用と河川協議は切っても切れない関係にあります。

この研修は、河川協議の実務を円滑に進められるように、研修生の技能研鑽と情報交換・蓄積を目的にしています。国、都道府県、独立行政法人の職員30名が12日間で18プログラムを受講します。

 

6)研究チーム・研究室等のご紹介

◇農村総合研究部農業施設工学研究チーム

高品質で安定した農産物を求める消費需要に応えるため、わが国では約5万haの施設園芸面積(世界第2位)を有しています。一方、生産者からは、災害に強い施設構造と生産性の向上に効果がある施設環境制御技術の開発が期待されています。

そのため私たちは、強風に負けないパイプハウス構造の開発、温室や畜舎の中の環境を良好に保つ経済的な技術の開発、光質の変化が植物の生育に与える影響評価など、世界トップレベルの工学的研究に取り組んでいます。

 

7)祝賀

◇神谷運営委員が春勲章受章

水土里ネット明治用水の神谷金衛(かみやきんえ)理事長が、平成22年度春の旭日双光章を授与されました。神谷理事長には、農工研が国立試験研究機関から独立行政法人に移行した平成13年度から運営委員を務めていただいております。益々のご健勝を祈念するとともに、今後ともご指導のほどお願い申し上げます。

 

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