ベタレインは窒素を含む化合物で、大きくベタシアニンとベタキサンチンに分類されます。ベタシアニンは赤紫色を発色し(図108)、ベタキサンチンは黄色を発色します(図109)。また、ベタシアニンとベタキサンチンが混在することで、赤色や橙色を発色します。ベタレインを含む植物群は、ナデシコ科、イソマツ科、ザクロソウ科を除くナデシコ目(ツルムラサキ科・スベリヒユ科・ヒユ科・アカザ科・サボテン科・オシロイバナ科・ヤマゴボウ科、ツルナ科など)に限られています(図110)。代表的なものとして、オシロイバナ(図111)、ケイトウ(図111b)、マツバボタン(図14c)、ブーゲンビレア(図112)、サボテンの仲間(図113)などがあげられます。
<ベタレインの生合成>図114
ベタレイン生合成の出発物質は、アミノ酸の1種のチロシンです。チロシンは、チロシン水酸化酵素の働きでL-DOPAに変換され、さらにDOPA二酸化酵素(DODA)の働きでベタラミン酸が生合成されます。ベタラミン酸にアミノ酸やアミンが結合してベタキサンチンが生成します。一方、チロシン酸化酵素の働きでL-DOPAからサイクロDOPAが生成します。ベタラミン酸にサイクロDOPAが結合すると、ベタシアニンが生成します。
ベタレインは細胞質で生合成され液胞に貯蔵されます。また、アントシアニンと同様、糖が付くことで安定します。アントシアニンの場合はアントシアニジンが生合成されてから、最終段階で糖がつきますが、ベタレインの場合は、中間産物のサイクロDOPAの段階で糖がつきます。
4大色素の中で、クロロフィルや、アントシアニン、カロテノイドは、生合成に関わる酵素のほとんどが遺伝子レベルで明らかにされています。ベタレインは最も研究が遅れており、生合成経路や生合成に関わる酵素の多くはわからないことがたくさん残されていました。ところが近年、これまで不明だったチロシン水酸化酵素とDOPA二酸化酵素が見つかり、ベタレイン生合成の全容が明らかになりました。