クロロフィル(図115)は緑色を発色する色素で、葉緑素とも呼ばれます。4つのピロールが環を巻いた構造のテトラピロールに、フィトールと呼ばれる長鎖アルコールがエステル結合した基本構造をもちます。a~dの4種が知られ、植物の葉や茎など緑色の組織にはaとbが含まれています。
クロロフィルはたんぱく質、カロテノイドと複合体をつくって葉緑体(クロロプラスト)のチラコイド膜に埋め込まれた形で存在しています。光合成の中心的色素としての働き、光エネルギーを吸収し、自由エネルギーに変換する働きをもちます。
多くの花もつぼみの時はクロロフィルが含まれ緑色をしていますが、花が開く頃になるとクロロフィルは分解されます。キク(図116)やカーネーション(図117)、ラン(図118)、バラ(図119)、アジサイ等には開花したときにもクロロフィル類が残り、緑色をした花を持つ品種があります。
<クロロフィルの生合成・分解>(図120)
- クロロフィルの生合成
クロロフィルはアミノ酸のグルタミン酸から、およそ15ステップの反応によって生合成されます。ひとつひとつのステップは酵素によって触媒されるので、クロロフィルの生合成にはおよそ15の酵素群が働いています。
クロロフィル生合成経路では、まず、グルタミン酸からアミノレブリン酸を経てピロール化合物のポルホビリノーゲンが合成されます。これが4分子つながって、4つのピロール環により構成されるテトラピロール構造が合成されます。この基本骨格に、マグネシウム(Mg)やフィトール基が付加されてクロロフィルaが作られます。 - クロロフィルサイクル
合成されたクロロフィルaは、クロロフィルサイクルにおいてクロロフィルbに変換され、再びクロロフィルaに変換されます。クロロフィルaとクロロフィルbの割合(a/b比)は、光合成の効率(光化学系のアンテナサイズ)を決める重要な要素で、一般に葉にはクロロフィルaとクロロフィルbが約3対1の割合で含まれています。クロロフィルサイクルはa/b比を決める重要な役割を果たしていると考えられています。 - クロロフィルの分解
葉が老化するときや、蕾が開くとき、果実が成熟するときにはクロロフィル分解系が働き、クロロフィルaからフィトール基やMgがはずされ、分解されて低分子の無色の化合物になります。クロロフィル分解の鍵酵素は、Mgをはずすステップを触媒するMg-デケラターゼです。この酵素が変異すると、葉の分解が遅くなり緑色を保つようになることからStay Green(SGR)と呼ばれています。老化葉や発達中の花弁では、SGR遺伝子の発現が顕著に増加します。
専門家向け参考文献
- Tanaka, Y., Sasaki, N., Ohmiya, A. (2008) Plant pigments for coloration. Plant J. (Special Issue) 54: 733-749.
- Tanaka, Y., Ohmiya, A. (2008) Seeing is believing: engineering anthocyanin and carotenoid biosynthetic pathways. Current Opinion in Biotechnology, 19: 190-197.
- Tanaka, A., Tanaka, R. (2006) Chlorophyll metabolism. Current Opinion in Biotechnology, 9: 248-255.
一般・専門家向け参考書
- 林孝三 「植物色素」 養賢堂
- 植物色素研究会編 「植物色素研究法」 大阪公立大学共同出版会
- 安田齊 「花色の生理・生化学」 内田老鶴圃
- 岩科司 「花はふしぎ」 講談社ブルーバックス
- 三室 守編集 「クロロフィル -構造・反応・機能-」 裳華房