プレスリリース
日持ち保証に対応した切り花の品質管理マニュアルを公表

情報公開日:2013年3月15日 (金曜日)

ポイント

  • 主要切り花30品目の品質管理マニュアルを作成しました。
  • カラーやチューリップなど、これまで有効な品質保持技術がなかった品目で新たに有効な品質保持技術を開発しました。
  • 本マニュアルの活用により、切り花の日持ち保証販売1)の普及が期待されます。

概要

日持ち保証販売は欧米では一般的であり、切り花の需要拡大につながっています。日本は欧米に比べて夏の気温が高いことから、夏季の高温に対応した技術開発を行い、日本国内での日持ち保証に対応した品質管理マニュアルを作成しました。本マニュアルの利用により、国内の日持ち保証販売が進み、切り花の需要が拡大することが期待されます。


詳細情報

背景

切り花の日持ち保証販売は欧米で広く行われており、特にイギリスでは日持ち保証販売によって切り花の消費が大幅に拡大したことが知られています。我が国でも、消費者に対する各種アンケート調査の結果から、消費者が日持ちを重視していることが明らかにされています。こうしたことから、国内の切り花生産を振興する方策の一つとして、日持ち保証販売の重要性が認識されてきています。

欧米と我が国では夏季の気象条件が大きく異なることから、日持ち保証販売に向け、夏季の高温に対応した品質管理技術の開発が望まれています。さらに、カラーやチューリップなどこれまで有効な品質保持技術がなかった切り花においても、日持ち保証を行うため、新たな品質保持技術の開発が必要となっています。

経緯

  • 農研機構花き研究所が代表機関となり、9研究機関が参画して農林水産省の実用技術開発事業に採択され、平成22年から24年まで研究課題「花持ち保証に対応した切り花品質管理技術の開発(課題番号 22008)」において、主要切り花の品質保持技術の開発を行いました。
  • 同事業で得られた成果を「日持ち保証に対応した切り花の品質管理マニュアル」として取りまとめました。

マニュアルの内容

  • 1.主要切り花30品目中全品目では常温で5日間、22品目では7日間、また16品目では高温(30°C)で5日間の日持ち保証が可能であることを示しました(表1)。 

表1 品目別前処理および後処理の効果と保証可能日持ち日数

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 2.生け水の汚れにより日持ちが短縮しやすいバラとガーベラでは、糖質と抗菌剤の後処理2)により品質保持期間が延長し、日持ち保証が可能になります(図1)。

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図1 高温で保持したスプレーバラの品質保持に及ぼす糖+抗菌剤後処理の効果(30°C、日持ち検定8日目)
左:水、右:糖質+抗菌剤後処理

  • 3.これまで有効な品質保持技術のなかったチューリップ切り花では、サイトカイニン3)剤6-ベンジルアミノプリン(BA)とエテホン4)を組み合わせた前処理2)により花茎の曲がりと葉の黄化が抑えられ、糖質と抗菌剤の後処理により品質保持期間が延長します(図2)。同様に湿地性カラーではBAの浸漬前処理により品質保持期間が延長し、常温での日持ち保証が可能になります(図3)。

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図2 チューリップの品質保持に及ぼす前処理と後処理の組み合わせ効果(20°C、日持ち検定12日目)
左:BA+エテホン前処理→糖質+抗菌剤後処理、右:水

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図3 湿地性カラーの品質保持に及ぼすBA浸漬前処理の効果(23°C、日持ち検定10日目)
右から無処理、25 mg/L、50 mg/L、100 mg/L、200 mg/L、BA浸漬処理

4.ダリアではBA散布の前処理および糖質と抗菌剤の後処理により、ラナンキュラスではチオ硫酸銀錯体(STS)5)の前処理および糖質と抗菌剤の後処理により品質保持期間が延長し、常温での日持ち保証が可能になります(図4、図5)。

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図4 ダリアの品質保持に及ぼす糖質+抗菌剤後処理の効果(23°C、日持ち検定6日目)
左:水、右:糖質+抗菌剤処理

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図5 ラナンキュラスの品質保持に及ぼす糖質+抗菌剤後処理の効果(22°C、日持ち検定8日目)
上:水、下:糖質+抗菌剤処理

5.本マニュアルは総論、各論および付表の計65ページから構成されています(図6)。総論は切り花の取り扱いに関して品目に共通する注意事項を、各論は30品目の取り扱い方法を記載しています。

 

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図6 マニュアル表紙(左)および各論(右)

今後の予定・期待

日本国内でも切り花の日持ち保証販売の普及は年々進んでおり、ここ数年の間にはごく普通の販売形態になることが期待されています。本マニュアルが日持ち保証販売の普及に貢献することが期待されます。

用語の解説

1)日持ち保証販売
消費者が購入してから5日あるいは7日間観賞できることを保証して、小売店が切り花を販売すること。消費者用の後処理剤を必ず切り花に添付する。

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図7 切り花に添付する日持ち保証シール例

2)前処理・後処理
日持ち栽培では、前処理は生産者が出荷前に薬剤を短期間処理し、後処理は消費者が薬剤を連続的に処理を行う。前処理剤として、エチレンに感受性の高い切り花ではエチレンの作用を阻害するチオ硫酸銀錯体(STS)剤が用いられる。品目に特化した前処理剤が市販されている。
後処理剤はフラワーフードとも呼ばれる。マニュアルで品質保持効果を確認した後処理剤の処方は以下のとおり。

1% グルコース、0.5 mL/L ケーソンCG、50 mg/L 硫酸アルミニウム。
多くの市販の後処理剤でもほぼ同等の品質保持効果が得られる。

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図8 切り花への前処理および後処理の概要(高温下でのカーネーションの事例)

3)サイトカイニン
植物ホルモンの一種。側芽や不定根の分化の促進、根の伸長抑制、老化抑制、種子の休眠打破、花芽形成といった様々な生理作用を示す。切り花では葉の黄化抑制や花弁の老化抑制に効果がある。

4)エチレン・エテホン
エチレンは植物ホルモンの一種であり、花の老化促進、花茎の伸長抑制などの作用がある。エチレンに対する感受性が高い花では、エチレンの作用を抑えることにより花の老化が遅延する 。
エスレルはpH4以上で分解してエチレンを発生する物質である。チューリップでは、エスレル処理により花茎の伸長が抑制され、曲がりを抑えることができるが、花の老化も促進される。これを抑えるためにBAと呼ばれるサイトカイニン剤を組み合わせて処理することが必要となっている。

5)チオ硫酸銀錯体(STS)
エチレン感受性の切り花の品質保持に広く用いられている銀イオンを含む品質保持剤。エチレンの作用を抑えることにより、切り花の日持ちを延長する。