プレスリリース
アサガオから花の寿命を調節する遺伝子を発見

- 花の日持ちを延ばす新技術の開発に期待 -

情報公開日:2014年7月 2日 (水曜日)

農研機構

国立大学法人鹿児島大学

ポイント

  • アサガオの花の寿命(老化)を調節する遺伝子を特定しました。
  • 特定した遺伝子の働きを抑えたアサガオでは、花の寿命が約2倍に延びました。
  • 本成果により、花の日持ちを延ばす新技術の開発が期待されます。

概要

農研機構は、国立大学法人鹿児島大学と共同で、アサガオの花の寿命を調節する遺伝子を発見しました。

花の寿命は植物の種類ごとにおおよそ決まっており、受粉した後または花が開いてから決まった時間がたつと、自ら進んで花弁をしおれさせる(老化させる)仕組みをもっていると考えられています。本成果では、アサガオの花弁の老化を調節する役割をもつ新規遺伝子(EPHEMERAL1と命名)を特定しました。「ephemeral」は英語で「はかない」という意味です。EPHEMERAL1の働きを抑えたアサガオでは、花弁の老化の進行が遅れ、しおれが始まるまでの時間が約2倍に延長されました。

ユリなどの主要な切り花の老化にも同様の遺伝子が関与している可能性があり、花の日持ちを延ばす新技術の開発につながると期待されます。

なお、この研究成果の詳細は、日本時間2014年7月2日午前1時に英国科学雑誌The Plant Journal(電子版)に掲載されました。

予算:運営費交付金

特許:特願2012-231022

 


詳細情報

研究の背景と経緯

切り花では日持ちの良さが強く求められています。カーネーションなどの切り花では、エチレン1)という植物ホルモンの働きにより老化が進行しますが、これを阻害する薬剤の処理により日持ちを伸ばすことが可能です。一方、ユリやチューリップなどの切り花では、エチレンの働きを阻害しても日持ちを延長することができません。

切り花の消費拡大のために、日持ちの確保が難しい切り花において、新しい品質保持技術の開発が求められています。それには、花の老化を調節する仕組みの解明が必要とされています。

 

研究の内容・意義

いくつかの種類の植物では、エチレンが花弁の老化を早める働きをもっていることが知られています。しかし、エチレンが花弁の老化の調節に関係しない植物も多く存在することから、エチレンによる調節とは別に、開花後の時間経過にともない花弁の老化を制御する仕組みがあると考えられていました。

私たちは、短命の花として代表的であり、エチレンの影響を受けにくいアサガオ品種「紫」を用いて、時間経過にともなう花弁の老化を制御する遺伝子とその機能を世界で初めて明らかにしました。

  • アサガオ花弁の老化時に発現量が上昇する遺伝子の一つとしてEPHEMERAL1(EPH1)遺伝子に注目しました。EPH1遺伝子はNAC転写因子2)をコードしており、細胞の死にかかわると考えられている遺伝子の発現を調節していることがわかりました。
  • EPH1遺伝子の発現を抑制した組換え体では、花弁がしおれ始めるまでの時間が約2倍に延長しました(図1)。また、組換え体では、栽培室内で2日目の朝(開花後約24時間目)まで花が咲いており、当日の朝に咲いた花と同時に観賞することができました(図2)。
  • 以上から、EPH1遺伝子が花の寿命を調節していることが明らかになりました。

今後の予定・期待

本成果により、花弁の老化の調節にかかわる鍵となる遺伝子が明らかになりました。今後、花の老化を調節する仕組みの解明が加速し、現在流通に困難をともなう切り花の品質を保持する新技術の開発につながると期待されます。これにより、流通におけるロス率が低減し、また、新しい切り花の流通が可能になるなど、切り花の消費拡大に貢献することが期待されます。

 

用語の解説

1)エチレン

植物ホルモンの一種で、花の老化や果実の成熟促進、茎の伸長抑制などの作用があります。カーネーションなどエチレンの作用を受けやすい花では、エチレンの影響で日持ちが短くなります。

 2)NAC転写因子

転写因子とは、他の遺伝子の働きをコントロールする管理者的なタンパク質のこと。標的となる遺伝子の転写(DNA情報をRNAに写し取る反応)を直接制御し、通常は一つの転写因子が複数の遺伝子の働きの調節にかかわります。NAC転写因子は、NAC領域と呼ばれる特徴的なアミノ酸配列をもつ転写因子タンパク質の総称です。モデル植物のシロイヌナズナでは100以上のNAC転写因子遺伝子が見出されていますが、ほとんどの遺伝子では、その詳細な機能はわかっていません。

参考データ

図1 EPH1発現抑制組換え体の花の老化の様子

アサガオの花は、通常、早朝に開花し、その日のうちにしおれてしまいます。EPH1遺伝子の発現を抑制した組換え体では、組換えをしていない野生型の花に比べ、花弁の老化(しおれ)の進行が遅くなります。

 

図2 開花後24時間後のEPH1発現抑制組換え体の花

EPH1遺伝子の発現を抑制した組換え体では、栽培室内では約24時間花がしおれずに咲いているため、2日目の朝には前日に咲いた花(赤色)と当日に咲いた花(紫色)が同時に観察されます。なお、実験に用いたアサガオの品種「紫」の花は、開花後時間が経つにつれて、赤色に変化します。