農研機構
株式会社アグロデザイン・スタジオ
ポイント
農研機構は、株式会社アグロデザイン・スタジオと共同で、窒素肥料の農地からの流出をもたらし、温室効果ガスの排出の一因にもなっている硝化という現象を植物由来の物質が抑制する分子メカニズムを明らかにしました。本成果は、持続可能な農業と環境保護のために、より安全で高機能な新規硝化抑制剤の開発に貢献します。
概要
硝化菌がアンモニアを硝酸に変換する硝化1)という現象は地球の窒素循環の重要なプロセスですが、アンモニアを成分とする窒素肥料を農地から流出させ、経済的な損失や周辺水域の富栄養化につながっています。また、硝化の副反応で温室効果ガスの一酸化二窒素(N2O)が放出されるという環境問題も引き起こしています(図1)。これまで硝化を抑制する硝化抑制剤2)が化学合成資材として開発され、主に窒素肥料の有効利用のために広く使われていますが、既存剤は残留性に対する懸念や抑制メカニズムが不明など課題も多く、新たな硝化抑制剤の開発が求められています。
そこで、農研機構では、窒素肥料の効率的な利用と温室効果ガス排出の削減のための新たな硝化抑制剤の開発に向けて2014年より研究を開始し、株式会社アグロデザイン・スタジオ(本社:千葉県柏市、代表取締役:西ヶ谷有輝)と共同で研究を継続してきました。本研究では、硝化菌のヒドロキシルアミン酸化還元酵素(HAO)3)に着目し、植物由来のJuglone4)が窒素循環を抑制するメカニズムを明らかにしました。
Jugloneはクルミ科植物が持つ、アレロパシー5)を起こす物質として古くから研究されてきた化合物で、硝化抑制剤と同じような作用があることも知られています。私たちは、硝化反応を担うHAOからシトクロムc5546)(Cytc554)への電子伝達をJugloneが阻害することで硝化反応を止めることを明らかにしました(図2)。これは硝化抑制剤の抑制メカニズムを分子レベルで明らかにした世界で初めての事例になります。本成果は、Jugloneの使用法やその化学構造の改良、さらには新しい硝化抑制剤の開発につながります。これまではメカニズムが不明だったため、新しい硝化抑制剤の開発がなかなか進まず、古い薬剤が今も使われていますが、本成果を活用することで、安全で高機能な新規硝化抑制剤を開発することが可能となります。新規硝化抑制剤により窒素肥料の有効利用と流出の防止、温室効果ガスの排出削減を通じて持続可能な農業と環境保護への貢献が期待されます。
本成果は、科学雑誌「Applied and Environmental Microbiology」(2023年11月27日)に発表されました。
関連情報
予算 : JSPS科研費基盤研究(B)(JP26310317)(2014-2017年度)、生研支援センターイノベーション創出強化研究推進事業(JPJ007097)(2016-2018年度)、NEDOムーンショット型研究開発事業「資源循環の最適化による農地由来の温室効果ガスの排出削減」(JPNP18016)(2020-2022年度)、JST研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)「産学共同(本格型):持続的農業に貢献する分子標的型硝化抑制剤の開発」(JPMJTR204K)(2020-2024年度)
特許 : 再表2017-126542