プレスリリース
(研究成果) 世界初の退緑黄化病抵抗性メロン「アールスアポロン」シリーズ4品種を育成

- 高品質なメロン果実の安定生産に貢献 -

情報公開日:2024年7月 9日 (火曜日)

農研機
株式会社萩原農場生産研究所

ポイント

農研機構と株式会社萩原農場生産研究所は共同で、世界で初めての退緑黄化病抵抗性メロン新品種「アールスアポロン」シリーズ4品種を育成しました。本品種は、葉が黄色くなり果実の品質を低下させる退緑黄化病が発生している地域においても、高品質なメロン果実の生産に貢献する品種として期待されます。

概要

メロンは主要な果実的野菜の一つですが、メロン産地、特にハウスで栽培されるアールス系メロン1)(果皮のネットが美しく、果実に枝の部分がT字に付いた状態で販売されるタイプのメロン)の産地では近年、退緑黄化病が発生し大きな問題となっています。退緑黄化病はウリ類退緑黄化ウイルス(Cucurbit chlorotic yellows virus、CCYV)2)を病原とするウイルス病で、タバココナジラミ3)によって伝搬されます。メロンがCCYVに感染すると、葉に緑色が薄くなった(退緑)小斑点を生じた後、葉全体が黄色くなり(黄化)、果実重及び糖度が低下するため商品価値が著しく低下します。特に、防除効果の高い農薬が限られるタバココナジラミ系統の発生が増えており、従来の方法では十分な防除が難しいのが現状であることから、退緑黄化病抵抗性品種の開発が強く求められています。

そこで、農研機構が開発した退緑黄化病抵抗性系統と、株式会社萩原農場生産研究所(以下、萩原農場)が保有する優良親系統を交配して育種を進め、世界で初めての退緑黄化病抵抗性を有するメロン新品種「アールスアポロン」シリーズ4品種(夏系、春秋系、早春晩秋性、秋冬系のF1品種)を育成しました(図1)。本品種は、CCYVに感染しても症状が軽く(図2)、果実重や糖度が低下しにくいため、退緑黄化病が発生している地域における、高品質なアールス系メロン果実の安定生産に貢献する品種として期待されます。本品種は、2024年7月から種子販売を開始しました。

図1 新品種「アールスアポロン」の果実
図2 メロン生産者ほ場(退緑黄化病発生地域)での試作状況
(A) 退緑黄化病による葉の黄化が少ない新品種「アールスアポロン」(左)と黄化が激しい罹病性品種(右)。
(B) 正常な「アールスアポロン」の果実(左)と果実が小さく、ネット形成も悪い罹病性品種の果実(右)。

関連情報

予算 : イノベーション創出強化研究推進事業「世界初の高度複合病害抵抗性メロン品種の開発と次世代型育種基盤の開発」(課題番号02015B; 2020~2022年度)、オープンイノベーション研究・実用化推進事業「ゲノム育種基盤を活用したメロンの高速・多品種開発」(課題番号05023c3; 2023~2027年度)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構 野菜花き研究部門 所長東出 忠桐
研究担当者 :
同 野菜花き品種育成研究領域 グループ長川頭 洋一
広報担当者 :
同 研究推進室仁木 智哉


詳細情報

開発の社会的背景

メロンは主要な果実的野菜の一つで、2022年の国内産出額は655億円(生産農業所得統計)ですが、メロン産地では近年、退緑黄化病が発生し大きな問題となっています。退緑黄化病はウリ類退緑黄化ウイルス(CCYV)を病原とするウイルス病で、タバココナジラミ(図3)によって伝搬されます。CCYVに感染すると、葉に退緑した小斑点を生じた後、葉全体が黄化し(図4)、果実重及び糖度が低下するため商品価値が著しく低下します。タバココナジラミは、体長約0.7mmの微小な害虫であるため、ウイルスを持った成虫がハウス内へ侵入するのを完全に制御することは困難です。また、防除効果の高い農薬が限られるタバココナジラミ系統(MED、バイオタイプQとも呼ばれる)の発生が増えていることから、従来の方法では十分な防除が難しいのが現状です。そのため、退緑黄化病に対して抵抗性を有する品種の開発が強く望まれています。

図3 タバココナジラミ
図4 退緑黄化病の病徴
葉に退緑小斑点が生じ(A)、黄化が確認され(B)、黄化が広がっていき(C)、葉全体が黄化する(D)。Aでは退緑小斑点、Bでは黄化している部分を矢印で示している。

研究の経緯

農研機構が開発した「メロン中間母本農5号」(退緑黄化病抵抗性)とアールス系メロン品種の交配後代から「メロン中間母本農5号」に比べて実用形質が改良された退緑黄化病抵抗性系統を得て、この系統を萩原農場の優良品種「ヴェルダ(春秋系)」の種子親と花粉親に交配した後代から有望親系統を複数育成しました。親系統を組み合わせて試交F1(F1は「交配種」や「ハイブリッド」とも呼ばれる)を9系統作出し、農研機構、萩原農場及び生産者ほ場において試験栽培を実施した結果、退緑黄化病抵抗性を有するだけでなく、果実の外観・糖度・食味に優れた「アールスアポロン」シリーズ4品種(夏系、春秋系、早春晩秋系、秋冬系のF1品種)を育成しました。本研究では、退緑黄化病抵抗性検定及び形質評価による選抜に加えて、退緑黄化病抵抗性に関与する遺伝子を検出できるDNAマーカー4)を用いることで、成長後の病徴の確認を待つことなく幼苗段階で、より多くの個体から退緑黄化病抵抗性を持つ個体を迅速に選抜することが可能になりました。これにより、育種に要する期間の短縮と労力の軽減が実現でき、世界に先駆けた退緑黄化病抵抗性メロンの育種に成功しました。

新品種「アールスアポロン」の特徴

  • 4品種とも、果肉が緑色で、果皮にネットがあるアールス系メロンです(図1)。
  • 栽培適期:「アールスアポロン(夏系)」は6~7月播種・9~10月収穫、「アールスアポロン(春秋系)」は7~8月播種・10~11月収穫、「アールスアポロン(早春晩秋系)」は8~9月播種・11~12月収穫、「アールスアポロン(秋冬系)」は9月播種・12~1月収穫に適した品種です。
  • 退緑黄化病抵抗性:4品種とも、退緑黄化病抵抗性を持っています。退緑黄化病抵抗性検定では、罹病性品種より発病程度が軽い結果になりました(表1)。
  • 栽培上の留意点:退緑黄化病に対して完全な抵抗性ではない上、タバココナジラミ自体には抵抗性がないため、本品種を栽培する際には、ハウスに目合い0.4mmの防虫ネットを張る・防除効果の高い農薬を適切な時期に処理することも重要です。

表1 退緑黄化病抵抗性検定結果(平均発病評点注1))

※注1 発病評点は、0:無病徴、1:退緑小斑点が確認できる、2:黄化が確認される(全体の1~20%)、3:黄化が広がり斑状となる(全体の20~50%)、4:黄化が全体に広がる(全体の50%以上)で調査した(発病評点1~4は、図4のA~Dに対応する)。
※注2 コナジラミ接種では、CCYVを持ったコナジラミをメロン苗に付けることにより、CCYVを感染させた。コナジラミ接種は、各品種5株、第1~20本葉の発病評点の平均を示している。
※注3 接ぎ木接種では、CCYVに感染したメロン植物を台木にして接ぎ木することにより、CCYVを検定品種に感染させた。接ぎ木接種は、各品種10株、第1~10本葉の発病評点の平均を示している。

品種の名前の由来

「アポロン」は、ギリシャ神話に登場する神で、太陽の神・豊穣の神・芸術の神・予言の神などに加えて、病を払う治療神としても知られています。本品種は、退緑黄化病という病に抵抗性を持つアールス系メロンであることから、「アールスアポロン」と名付けました。

今後の予定・期待

本品種は、2024年7月から種子販売を開始しました。退緑黄化病が発生している産地において、アールス系メロンの安定生産に貢献することが期待されます。

種子入手先に関するお問い合わせ

本品種の種子入手先については、以下の連絡先(問い合わせフォームまたは電話)にお問い合わせください。

株式会社萩原農場生産研究所
〒636-0222 奈良県磯城郡田原本町法貴寺984
問い合わせフォーム: https://suika-net.co.jp/contact
TEL: 0744-33-3233

用語の解説

アールス系メロン
温室メロンの代表品種「アールス・フェボリット」(アールスメロン)に病害抵抗性や日持ち性を付与したメロン品種で、主に加温等の設備を備えた施設で栽培されます。果梗(かこう)(果実につながっている枝の部分)を残した状態(T字の「アンテナ」とも呼ばれる部分が付いた状態)で販売されます。なお、メロンには様々な呼び方があり、例えば果皮に網目があるものはネットメロン、果皮に網目が無いものはノーネットメロン、果肉がオレンジ色のものは赤肉メロン、果肉が緑色のものは緑肉メロンなどと呼ばれています。[概要へ戻る]
ウリ類退緑黄化ウイルス(CCYV)
ウリ類退緑黄化ウイルス(Cucurbit chlorotic yellows virus、CCYV)はクリニウイルス属のウイルスで、タバココナジラミにより媒介され、退緑黄化病を引き起こします。本ウイルスは、2004年にわが国で初めて発生が報告されました。メロンだけでなくスイカやキュウリにも感染します。[概要へ戻る]
タバココナジラミ
タバココナジラミ(Bemisia tabaci、カメムシ目コナジラミ科)は、体長0.7mm程度の微細な昆虫で、吸汁による植物の成長阻害や、すす病(黒いかび)を生じさせる害虫です。CCYVだけでなく、トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)も媒介することが知られています。[概要へ戻る]
DNAマーカー
品種間でDNA配列が違う部分を見つけ出し、標識(マーカー)にしたものです。その標識が、退緑黄化病抵抗性のような形質と関連性があれば、個体を成長させて形質を確認しなくても、目的の形質を持っている個体を幼苗の段階で選ぶことができます。DNA配列は成長の段階で変化はないため、環境(天候や栽培条件など)の影響を受けずに選抜できるというメリットもあります。[研究の経緯へ戻る]