プレスリリース
(研究成果) DNA情報から大玉になるタマネギを正確に選抜

- タマネギの新品種育成を加速させる技術を開発 -

情報公開日:2026年5月12日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、DNAマーカー1)を使って、安定して大玉になる特性を持つタマネギを正確に選抜できる技術を開発しました。大玉のタマネギは収量増加につながり、また加工用途にも適しています。この選抜技術を利用することで、安定して大玉になる品種の育成が進み、育成される品種は国産タマネギの生産力強化や、輸入品から国産品への置き換えを後押しします。

概要

タマネギは輸入量が最も多い野菜品目であり、国内生産量の約1/4に相当する量(約27万トン/年)が、業務・加工用として輸入されています。国産タマネギの生産力強化に向けて、近年は北陸・東北等の新興産地での栽培面積が拡大しています。しかし、現状ではこれらの産地に栽培適性のある品種が少なく、更なる生産拡大のためには、新興産地の栽培に適した業務・加工向けの新品種の早期育成が求められています。

大玉は小玉に比べて皮むきやカット作業がしやすく、また少ない球の数で必要なカット量が得られることから、加工時の作業時間を短縮できます。そのため、業務・加工向けの新品種には、安定して大玉になる特性が求められています。これまでの品種育成では、まず収穫した球の中から見た目で大玉を選び、それらを開花・結実させて採種します。次に、採種した種子を播種・栽培し、収穫した球の中から再び大玉を選びます。このように大玉を選ぶ工程を3-4回繰り返すことにより、安定して大玉になる系統・品種を育成してきました。しかし、球の大きさは生育時の畑の地力ムラ2)などの栽培環境の影響を受けて変動するため、大玉から採種した種子を栽培した場合にも小玉が生じることが多々あり、見た目だけでは安定して大玉になる特性を持つタマネギを正確に選ぶことが困難でした。そのため、試行錯誤に時間を要し、安定して大玉になる特性を持つ品種の育成には、10年以上の歳月と多くの労力が必要でした。

そこで、農研機構は、見た目ではなく、DNAマーカーを使って遺伝情報を調べることにより、安定して大玉になる特性を持つタマネギを正確に選ぶことができる技術を開発しました。この技術は、大玉の新品種の育成を効率的かつ確実に進めることに役立ちます。現在、この技術を利用し、農研機構と民間種苗会社が共同で、新興産地の栽培に適した業務・加工向けの新品種育成に取り組んでいます。新品種が新興産地での生産拡大に貢献することで、国産タマネギの生産力強化および輸入品から国産品への置き換えが期待できます。

関連情報

予算 :

  • 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP):スマートバイオ産業・農業基盤技術「データ駆動型育種」推進基盤技術の開発とその活用による新価値農作物品種の開発(DDB2005)
  • 農林水産省スマート農業技術開発実証プロジェクト(うち国際競争力強化技術開発プロジェクト)(輸N1玉)

関連特許 : 特開2024-19017

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 野菜花き研究部門 所長東出 忠桐
同 東北農業研究センター 所長若生 忠幸
同 作物研究部門 所長佐藤 宏之
研究担当者 :
同 野菜花き研究部門 野菜育種研究領域 主任研究員関根 大輔
同 東北農業研究センター 園芸畑作研究領域 領域長塚﨑 光
同 作物研究部門 スマート育種支援室 上級研究員山内 歌子
広報担当者 :
同 野菜花き研究部門 研究推進室仁木 智哉

詳細情報

開発の社会的背景

タマネギは輸入量が最も多い野菜品目で、野菜全体の輸入量の約4割(約27万トン/年)を占めています(令和6年分農林水産物輸出入概況)。この輸入量は、国内で生産されるタマネギの約1/4に相当し、輸入されたタマネギの多くは業務・加工用に利用されています。一方で、国際情勢の不安定化により海外調達のリスクが高まっていることや、安全・安心な国産タマネギに対する市場ニーズが大きいことから、国産タマネギの生産力強化が求められています。

国内生産力の強化に向けて、近年は北陸・東北等の新興産地での栽培面積が拡大しています。これらの産地では、北海道向けや本州の暖地向けの既存品種が用いられていますが、産地ごとの気候条件の違いから栽培適性のある品種が少なく、栽培できる品種は限られています。このため、更なる生産拡大のためには、新興産地での栽培に適した業務・加工向けの新品種の早期育成が必要です。

研究の経緯

タマネギを加工する際、大玉は小玉に比べて作業性に優れるため、業務・加工向けの新品種には、安定して大玉になる特性が求められています。また、タマネギの球の大きさは、収量や取引価格に直結しており、大玉の割合が高いと、収量や収入が増加します。これまでのタマネギの品種育成では、見た目で選んだ大玉のタマネギを開花・結実させて採種した後に、再び播種・栽培・収穫して大玉を選ぶ工程を3-4回繰り返すことで、安定して大玉になる系統・品種を作出してきました。しかし、球の大きさは、畑の地力ムラなど栽培環境の影響を受けて変動しやすいため、見た目で選ぶ従来の選抜方法では、大玉になる能力が高く、かつその特性を後代3)に引き継ぐことができる球を正確に判別し、選抜することが困難でした。そのため、安定して大玉になる品種の育成には、10年以上の歳月と多くの労力が必要でした。

目的とする形質が栽培環境の影響で変動しやすい場合には、目的形質と密接に関連したDNAマーカーの利用が選抜の効率化に有効です。このDNAマーカーを利用した選抜はトマトなどでは広く用いられており、DNAの塩基配列の違いから目的形質に対する能力を評価することで、優れた能力を持つ植物体を正確に判別し、選抜できます。選抜に利用できるDNAマーカーの開発には、まず、目的形質と密接に関連するゲノム4)上の領域を特定する必要があり、そのためには100個体以上からゲノム全体でDNAの塩基配列情報を取得し、解析する必要があります。

タマネギのゲノムの大きさは野菜の中で最大級(16Gb、トマトの16倍)であるため、一般的なDNA分析法での解析が困難でしたが、2022年に農研機構を中心とした研究グループは、このボトルネックを解消できる新たなDNA分析法を開発しました(Sekine et al. 2022, https://doi.org/10.1093/dnares/dsac020)。この分析法を用いた解析により、球の大きさと密接に関連するゲノム上の領域を特定し、その領域内の塩基配列の違いを判別できるDNAマーカーを開発しました。

研究の内容・意義

  • 選抜DNAマーカーの開発
    DNAの塩基配列の解析により、第8染色体上に球の大きさと密接に関連する領域があることを明らかにしました(図1左上)。この知見を基に、この領域内の塩基配列の違いを判別する選抜DNAマーカーを開発しました。この選抜DNAマーカーの分析では、塩基配列に挿入や欠損がみられる部分をPCRで増幅し、その増幅配列の長さの違いからマーカー型を判別します(図1左下)。
    1つ1つの球は、AA型、AB型、BB型のいずれかのマーカー型に分類されますが、AA型、AB型の球は、BB型の球に対して球が大きくなる特徴を持ちます(図1右)。一方で、AA型とAB型の間には、球の大きさに差がないという特徴があります(図1右)。それぞれの球のマーカー型を判別することで、安定して大玉になる能力を後代に引き継ぐことができる球(AA型)を、確実に選抜することが可能になります。
    図1. 開発した選抜DNAマーカーの概要
    選抜DNAマーカーは第8染色体上にある球の大きさと関連する領域の塩基配列の違いを検出するDNAマーカーであり、そのマーカー型から大玉になる能力の有無を判別できる。
  • 選抜DNAマーカーを利用した選抜のメリット
    • (1) 品種育成の選抜過程におけるマーカー利用

      選抜DNAマーカー型がAA型とAB型の球の間には、大きさの差がみられません。そのため、品種育成過程における従来の見た目での選抜では、後代で小玉を生じる可能性のあるAB型の球も選ばれる可能性があります。しかし、AB型の球を用いて後代を育成すると、後代ではBB型の小玉が発生してしまい、球の大きさのばらつきが大きくなります(図2-(1))。
      一方、DNAマーカーを利用したマーカー選抜では、後代の球の大きさが安定して大玉となるAA型の球を確実に選抜できます(図2-(1))。このように、見た目では区別できなかった多くのタマネギの中から、大玉になる能力を後代に引き継ぐことができる球を正確に判別し、選抜することが可能になります。この選抜DNAマーカーは、品種育成における選抜を効率的かつ確実に進めることに役立ち、新品種の育成年限の短縮化に貢献します。

    • (2) 既存品種の改良への活用

      現在のタマネギの品種の多くは、2つの親系統を交配して作出されるF1品種です。タマネギでは強い自殖弱勢5)が生じるため、F1品種の親系統は、系統内にある程度の遺伝的多様性が残るように育成・維持されています。そのため、一部の系統では、DNAマーカー型が固定しておらず、AA型とAB型の球が混在しています。
      これらがF1品種の両親系統となった場合、作出されるF1品種の中にBB型の球が生じます。実際に、一部の既存のF1品種では、BB型の球が含まれていることが明らかになっています。両親系統において、見た目ではAA型とAB型の球を区別することはできませんが、選抜DNAマーカーを利用することで、両親系統からAB型の球を除くことが可能になります。これにより、F1品種の全ての球をAA型とし、球の大きさが大玉で安定したF1品種へと改良することができます(図2-(2))。

    図2. 選抜DNAマーカーの利用による品種育成の効率化
    (1)AA型とAB型では球の大きさに差がないため、見た目での選抜では後代で小玉を生じるAB型の球も選抜されるが、マーカー選抜では後代が安定して大玉になるAA型の球だけを選抜できる。(2)一部の既存のF1品種では、両親系統にAA型とAB型の球が混在しており、作出されるF1種子でBB型が生じる。マーカー利用により、両親系統からAB型の球を除くことにより、AA型で揃ったF1種子を作出できる。

今後の予定・期待

現在、この選抜DNAマーカーを利用し、農研機構と民間種苗会社が共同で、新興産地の栽培に適した業務・加工向けの新品種育成に取り組んでいます。これらの新品種が新興産地での生産拡大に貢献することで、国産タマネギの生産力強化および、輸入品から国産品への置き換えが期待されます。

また、この選抜DNAマーカーの利活用に向けて、外部分析機関の協力により、受託解析サービスの体制を整備しました。民間種苗会社等が選抜DNAマーカーを利用することにより、新品種の育成年限の短縮化が期待されます。

用語の解説

DNAマーカー
ゲノム上の特定の位置におけるDNAの塩基配列の違いを検出できるものを指します。[ポイントへ戻る]
地力ムラ
同じ畑の中でも、土中の養分や土の固さが均一ではないため、畑の場所によって作物の生育が異なっている状態を指します。[概要へ戻る]
後代
選抜した個体から得られる種子、または、その種子から生育した個体を指します。[研究の経緯へ戻る]
ゲノム
生物が持つ染色体のセット、またはDNA情報全体を指します。ゲノムを構成するDNAの塩基配列とその総量(ゲノムサイズ)は生物によって異なります。トマトのゲノムサイズは1Gbp(ギガベースペア)であるのに対して、タマネギのゲノムサイズは16倍の16Gbpです。1Gbpは10億塩基対に相当します。[研究の経緯へ戻る]
自殖弱勢
自家受粉を繰り返すことで、生育不良や採種能力の低下が生じる現象を指します。[研究の内容・意義へ戻る]

発表論文

Sekine D, Oku S, Yamanouchi U, Mizubayashi T, Ando T, Hiura S and Tsukazaki H (2025) Identification of a common major quantitative trait locus controlling onion bulb weight and development of molecular markers for bulb weight selection. Mol Breeding 45, 86 (2025).
https://doi.org/10.1007/s11032-025-01614-9