プレスリリース
(研究成果) イチゴの生育調査・計測項目と手法の統一基準を公開

- 生育データの"ものさし"を統一しデータ駆動型農業の普及を加速 -

情報公開日:2026年7月28日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、イチゴの生育状況を把握するための調査・計測項目およびその手法を整理し、全国で利用できる統一基準を公開しました。どこで調査しても同じ基準(ものさし)で測ることができるため、「同じ意味を持つデータ」が得られ、データの信頼性が向上します。その結果、比較や応用が可能なデータ量が大幅に増加し、これらのデータは生育予測モデルやAI解析の精度向上に活用され、計画生産および栽培管理の効率化など、スマート農業の進展に貢献します。さらに、本統一基準の普及により産地の生産性向上や地域を超えた技術共有が進み、日本のイチゴ産業全体の活性化、競争力強化につながります。

概要

生産者人口が急速に減少し、気候変動の影響が年々大きくなっていく中、作物の栽培データを活用し、気候変動の影響等をシミュレーションして生産計画を最適化することや、生産管理を効率化することが必須となってきます。イチゴ栽培では、草丈や開花日などの基本的な生育データが、国内各地の研究機関や生産現場で日々取得されていますが、これまでは調査項目の名称や測り方が地域や調査者によって異なっていたため、得られたデータを「比較できない」「同じ種類のデータとして扱えない」という課題がありました。その結果、生育解析や技術開発の基盤として十分に活用されない状況が続いていました。

そこで、農研機構は、現場で使いやすく再現性の高い生育調査・計測項目およびその手法に関する統一基準を整備しました。本基準では、草丈、葉柄長、開花日など主要な調査項目を統一的に定義し、どこで誰が調査しても同じ基準で測定できるよう、手順や判断基準を明確に示しています。この基準を活用して取得したことが確認できるデータであれば、地域や調査者が異なってもデータを比較することや、データを蓄積してビッグデータ化し予測モデルの構築・高精度化への活用が可能になります。

さらに再現性を高めるため、基準の統一にとどまらず、測定位置や観察時に判断の違いが生じやすい点についても、写真などを用いて具体的に示しました。これにより、取得されるデータの信頼性が大きく向上するとともに、生産者と研究機関の間でデータを共有しやすくなり、これまで活用しにくかった過去のデータや異なる地域のデータも目的に応じて再利用できるようになります。

本統一基準を普及させることにより、生育データの比較や統合が容易になり、過去のデータや仮定のデータを用いた生育や収量のシミュレーションの予測精度の向上に貢献します。シミュレーション予測精度の向上により、計画的な生産や栽培管理の効率化が可能となり、イチゴの安定生産・品質向上に伴う収益向上および産地の持続的な発展が期待されます。さらに地域を超えた技術共有が進み、日本のイチゴ産業全体の底上げ・活性化と国際競争力強化につながります。

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 野菜花き研究部門 所長東出 忠桐
研究担当者 :
同 野菜花き研究部門 施設生産研究領域
研究領域長礒﨑 真英

グループ長
小田 篤

上級研究員
山崎 敬亮

研究員
杉山 智美
同 西日本農業研究センター 中山間畑作園芸研究領域
上級研究員矢野 孝喜

研究員
山中 良祐
広報担当者 :
同 野菜花き研究部門 研究推進室仁木 智哉

詳細情報

統一基準策定の社会的背景と経緯

イチゴは全国で栽培されており、栽培技術の確立や品種選定、品種改良を目的として、多くの研究機関や生産現場で生育調査が行われています。新しい品種の育成や品種の改良を担う研究では、各品種の特徴を差別化するために同じ基準が必須であり、イチゴ属審査基準1)やそれを基にした特性調査マニュアルが整備されてきました。一方、収量向上や高温対策などの栽培技術の開発を担う研究では、調査の目的や意義の違いから研究ごとに調査項目が異なり項目が多岐にわたるなど、統一的な基準を設けにくい背景から、調査項目や手法を細かく定めた共通の基準が存在しませんでした。そのため、地域や研究機関、研究者ごとに調査項目の名称、測り方、栽培条件の記録内容などが異なり、「大量のデータがあっても、一体的に扱えない」という問題がありました。

近年のスマート農業では、データに基づいて生育を予測し、環境を自動制御するなど、生産者の経験等に依存しがちな従来の農業では得られなかった効果が期待されています。そのため、生産者か研究者かといった立場や場所を問わず同じ方法で測定でき、比較・蓄積・活用可能なデータ基盤の整備が急務となっています。

こうした背景を受け、農研機構は、東北から九州まで機構内の各研究部門、研究センターにおいて、イチゴの栽培技術開発や品種育成に携わる研究者間で情報共有と意見交換を行い、取りまとめの方向性を検討してきました。その結果、現場で使いやすく再現性の高い生育調査・計測項目およびその手法に関する統一基準を整備しました。これにより、誰が・どこで・いつ調べても同じ基準でデータを取得できるようになり、データの"質"と"使いやすさ"が大きく向上します。

研究の内容・意義

  • イチゴの生育を多面的に把握する29項目の統一基準をウェブで公開
    調査・計測項目は、草丈、葉柄長、葉齢、クラウン径2)葉緑素量3)(SPAD値)、出蕾4)日、開花日、着花数、収量など、イチゴの生育状態を多面的に捉える29項目を整理しました。重要度や調査ステージ(育苗、本圃)ごとに分類し、目的に応じて選べるようにしています。
    これらを、生育調査・計測項目および手法の統一基準として以下のウェブサイトにて公開しました。本ウェブサイトでは、統一基準へのご意見やコメントも受け付けており、頂いたご意見等を反映させて適宜改定を行う予定です。
    公開サイト:
    https://www.naro.go.jp/laboratory/nivfs/contents/strawberry_survey/index.html
  • 項目の定義や測り方を徹底的に明確化
    各調査項目については、定義や英語表記を記載し、単位、計測基準、計測位置、計測タイミングを明確にしました。さらに、どこからどこまでを測定するかなど、調査者間で認識の違いが生じやすい部分は、写真や図を用いて具体的に示し、判断のばらつきを減らす工夫をしています(図1)。
    図1 調査項目ごとの記載例(「葉柄長」の場合)
  • 環境・栽培条件の記録内容も統一
    品種、育苗・定植条件、施肥・かん水方法、遮光や換気条件など、生育データと切り離せない環境や栽培管理情報についても記録基準を整理することで、データの信頼性と再現性を高めています。さらに、調査者により判断が分かれやすい展開葉や出蕾(図2)、開花(図3)などの判定基準を明確にし、誰が調査しても同じ判断ができるようにしています。
    図2 同一株の経時的変化を示す写真により、調査者によって判断が分かれやすい「出蕾」の判定基準を明確化
    図3 同一株の経時的変化を示す写真により、調査者によって判断が分かれやすい「開花」の判定基準を明確化
  • データの比較・統合・活用が容易に
    調査・計測項目と手法を統一したことにより、地域・年次・機関を超えた生育データ比較が可能となります。これにより、AIや機械学習による高度な解析、生育モデルの構築が進むほか、スマート農業技術との連携、技術継承や教育の効率化など、多様な場面でデータ活用が期待されます。

今後の予定・期待

今回まとめた統一基準を活用することで、全国で比較可能な生育データが蓄積され、ビッグデータとしての価値が大きく高まります。これにより、AIモデルの精度向上やスマート農業技術との連携が一層加速することが期待されます。将来的には環境制御の自動最適化、生育調査を支援するアプリケーション、さらには植物の生育情報を自動取得する技術などの開発にも貢献します。

こうした技術開発を支える基盤として、まずトマト等の果菜類で先行して整備が進められている施設園芸分野のデータ連携基盤5)に、今回取りまとめたイチゴの統一基準を取り込み、データ活用の幅を広げていく予定です。

また、今回の取り組みでは、UPOV(植物新品種保護国際条約)が定めるイチゴ属審査基準の内容も踏まえており、国際的な育種分野で用いられるオントロジー6)における基準や用語との関係にも配慮しつつ、将来的には日本発の生育調査基準として、国際的な枠組みのなかでの運用につなげていく方針です。

用語の解説

イチゴ属審査基準
新たに育成された品種の形質や特性を評価するため、作物種ごとに審査基準が定められています(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/hinshu/info/sinsa_kijun_bt.html)。イチゴ属(Fragaria L.)については、UPOV(植物新品種保護国際条約)が規定した審査基準に準拠して、63項目の基準が定められています。[統一基準策定の社会的背景と経緯へ戻る]
クラウン径
イチゴの株元付近に、葉柄の基部に当たる托葉が集合し、王冠のような形を呈することからこの部分をクラウンと呼びます。クラウン径とは、このクラウンの直径(太さ)を指し、苗の品質や収量性を測る指標となります。[研究の内容・意義へ戻る]
葉緑素量
植物の葉に含まれる葉緑素(クロロフィル)の量を指します。専用の葉緑素計で測定され、SPAD値として数値化されることで、作物の栄養状態や生育状況を把握する指標として活用されます。[研究の内容・意義へ戻る]
出蕾
農作物の生育ステージを表す言葉で、イチゴではクラウン上部からつぼみ(蕾)が目視で確認できるようになる状態を指します。開花や果実が成熟するまでの期間の基点となる指標です。[研究の内容・意義へ戻る]
データ連携基盤
複数のシステムに蓄積されたデータを集約・統合し、異なるシステム間でのデータ交換・共有を可能にするための仕組みです。[今後の予定・期待へ戻る]
オントロジー
情報科学の分野で、特定の領域の概念(モノや情報)とそれらの関係性を明確に定義し、コンピューターが理解できるように体系的に記述・整理する枠組みや技術を指します。[今後の予定・期待へ戻る]