プレスリリース
(研究成果) 水稲など13品目に対応した土壌診断AIを開発

- 土壌管理の高度化と生産性向上に期待 -

情報公開日:2026年3月18日 (水曜日)

ポイント

農研機構は、 一般財団法人日本土壌協会と連携し、水稲をはじめ13品目に対応した高精度な土壌診断AIを開発しました。専門家による診断に基づく適切な土壌管理は、収量向上と環境保全に不可欠ですが、専門家不足により多くの地域・ほ場で的確な診断が行えない状況となっています。

開発した土壌診断AIによって専門家並みの精度でより迅速な診断が可能となります。適切な土壌管理が推進されることで、収量向上と環境保全を両立する持続可能な農業の普及が期待されます。

概要

農業生産において収量向上と環境保全を両立させるためには、土壌分析により土壌の物理性や化学性を把握し、生産する作物に最適な状態に近づけるための方策を示す土壌診断が重要です。土壌分析は日本土壌協会やJAなどに依頼することができますが、土壌分析の結果から収量低下の要因を的確に診断できる専門家の高齢化や人材不足が顕在化し、多くのほ場で診断・管理を行うことが困難となっています。

農研機構では、農林水産省のデータ駆動型土づくり推進事業(令和5-7年度) において(一財)日本土壌協会等と連携し、迅速な土壌診断を可能とする土壌診断AIを開発しました。

この土壌診断AIは、水稲や露地野菜など13品目に対応し、専門家による診断と比較して、いずれの品目でも90%以上の正答率を達成しています。さらに、AIの学習データに特定の産地や生産法人独自のデータを追加することで、地域や法人ごとに最適化された「特化AI」を構築できるシステムも開発しました。

現在、これらのAIは土壌医を対象に試験運用・評価と改良を進めており、令和8年度以降に(一財)日本土壌協会等と協力して社会実装を進める予定です。

※なお、本成果は農林水産省のデータ駆動型土づくり推進事業(令和5-7年度)によるものですが、その見解が農林水産省の見解と必ずしも一致するものではありません。

関連情報

予算 : 農林水産省 データ駆動型土づくり推進事業(令和5-7年度)
特許 : 特開2025-183028

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 基盤技術研究本部
農業ロボティクス研究センター
センター長中川 潤一
研究担当者 :
同 露地ロボティクスユニット
小越 将行、飯嶋 渡、三宅 康也、中野 有加、野田 晋太朗
広報担当者 :
同 基盤技術研究本部 研究推進室 渉外チーム長野口 真己

詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

農業生産において、収量向上と環境保全を両立させるためには、土壌分析と診断に基づく適切な土壌管理が重要です。しかし、土壌診断を実施していない生産者は半数以上にのぼるとされ、診断とそれに基づく管理を普及させるための技術開発が求められています。

近年、土壌分析の結果から収量低下の要因を的確に診断できる専門家の高齢化や人材不足が顕在化し、多くのほ場を迅速に診断することが困難となっています。これが土壌診断の普及を妨げる要因の一つとなっています。

こうした課題に対応するため、(一財)日本土壌協会を中心とした土壌診断データベース構築推進協議会では、農林水産省のデータ駆動型土づくり推進事業を活用し、土壌診断データベースの整備とAIによる土壌診断技術の開発・実証を進めています。農研機構は、この取り組みと自らのAI技術を融合し、事前に行った土壌分析の結果を元に迅速な診断を可能とする土壌診断AIを開発しました。

研究の内容・意義

  • 土壌診断の基準は作物ごとに異なるため、作物別に土壌診断AIを開発しました。これまでに13品目に対応するAIを開発しました。
    【対応作物】 水稲、コムギ、ダイズ、サツマイモ、ダイコン、キャベツ、ホウレンソウ、レタス、ネギ、タマネギ、コマツナ、ブロッコリー、エダマメ
  • 土壌診断AIは、土壌分析で得られる最大26項目の化学性データと、ほ場で測定した物理性データ(貫入硬度)、収量、施肥量などを記録した営農情報を基に土壌の状態を診断し、収量向上に向けた改善対策を提示します(図1)。この物理性データの診断基準は、土壌医の知見等を基に(一財)日本土壌協会と新たに定めました。さらに営農情報も活用することで、施肥や栽培管理についてもより精度の高い診断が可能となり、専門家と同程度の水準で判断できる仕組みを実現しました。
図1開発した土壌診断AIの概要
  • 学習に用いるデータは1品目当り最大約2,500件と比較的少ないため、少ないデータ数でも高精度な診断が可能なLightGBM1)を採用しました。これにより、高精度を確保すると同時に、診断に用いた項目や数値の基準を明確に示すことができます。
  • 学習データとは別に準備した検証用データで精度を検証した結果、AIによる改善対策は専門家の改善対策と比較して、13作物すべてにおいて正答率90%以上を達成しました(表1)。
    表1土壌診断AIの正答率
  • 土壌診断AIを全国に普及させるためには、多様な土壌や栽培条件への対応が不可欠です。しかし、すべてに対応するためのデータ収集には膨大な労力と時間が必要になります。そこで、既存のデータで学習した基盤AIに、特定の産地、生産法人や営農グループなどのデータを追加学習させ、地域や法人などに最適化した「特化AI」を構築できるシステムを開発しました (図2)。
    図2産地・法人等のデータを追加学習できる特化AIの概要

今後の予定・期待

開発済みの13品目に加え、現在、ハクサイ等への対応を進めており、令和7年度中には開発を完了する予定です。並行して、土壌診断AIの試用・評価・改良を、専門家である土壌医の協力を得ながら進めています。令和8年度以降は、(一財)日本土壌協会等の外部機関と協力して社会実装を推進する予定です。

AIによる土壌診断の迅速化により、より多くのほ場で診断に基づく適切な土壌管理が可能となり、収量向上と環境保全の両立を実現する持続可能な農業の普及に大きく貢献することが期待されます。

用語の解説

LightGBM
LightGBMは、浅い決定木2)を順番に作成し、それまでの予測の誤差を修正するように学習を繰り返すことで、高精度な予測を行う手法です。精度が高く、過学習を防ぎやすいのが特徴です。分類や回帰など、幅広い用途で利用されています。 [研究の内容・意義3.へ戻る]
決定木
決定木は、データを条件に従って枝分かれさせながら分類や予測を行う機械学習の手法です。木の形で構造化されており、直感的に理解しやすく、特徴の重要度も把握しやすいのが利点です。 [用語の解説1)へ戻る]