プレスリリース
トマトのリコペン含有量を高精度に非破壊計測できる新しい方法を開発

- 機能性成分であるリコペンの含有量をわずか1秒で簡単に計測 -

情報公開日:2010年8月27日 (金曜日)

ポイント

  • トマトのリコペン含有量を高精度かつ簡単に非破壊計測できる方法を開発しました。
  • リコペンは抗酸化能を有する機能性成分として注目されており、リコペン濃度が高い トマトの生産・販売への活用が期待できます。

概要

  • 農研機構 野菜茶業研究所【所長 望月龍也】は、トマトのリコペン含有量を簡単に計測する方法を開発しました。
  • トマトに含まれるリコペンは抗酸化能を有する機能性成分として注目されています。これまでは、トマトからリコペンを抽出し、液体クロマトグラフィーなどの分析装置により定量するという、手間と時間を要する方法によって計測してきました。
  • 新たに開発した方法では、トマト果実に可視光および近赤外光を照射し、試料に吸収された光を計測することによってリコペン含有量を計測します。本方法によりわずか1秒で高精度な非破壊計測を行うことが可能となりました。
  • 今後、生産・流通の現場で本計測法を活用してリコペン含有量を計測することにより、リコペン濃度が高いトマトの生産・販売への活用が期待されます。

予算

農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」(平成19-21年度)


詳細情報

非破壊計測法開発の背景・経緯

リコペンは桃色系および赤色系トマト果実の主要なカロテノイド系色素であり、抗酸化能を有する機能性成分として注目されています。しかしながら、これまでトマトのリコペン含有量を正確に測定するには、トマトからリコペンを抽出し、液体クロマトグラフィーなどの分析装置により定量するという、手間と時間がかかる方法によらざるを得ませんでした。

そこで、リコペンの可視光吸収特性に着目し、可視・近赤外分光法を用いたリコペン含有量の高精度かつ簡単な非破壊計測法の開発に取り組みました。

開発した非破壊計測法の特徴

  • 非破壊計測機器本体は、(株)クボタ製の可視・近赤外分光光度計(フルーツセレクター)(図1、2)です。機器本体に、トマトに含まれるリコペンを定量できるソフトウェアをインストールして使用します。
  • ソフトウェアは、赤色色素であるリコペンの可視光吸収特性と果実の温度や大きさを補正することができる近赤外光吸収特性の情報に基づき、リコペン含有量を計測できるように作成しました。
  • トマト(10~350g程度)の赤道部付近を試料台中央の受光部(図2)にセットし、2カ所(着色むらが見た目に明らかな場合は、赤色の着色の薄い部分とその反対側)を計測します。1果実に含まれるリコペンの平均濃度(mg/100g)を高精度に計測でき、本方法による計測値と化学分析値(実測値)は高い相関を示します(図3)。また、糖度や酸度も同時に計測可能です。
  • 本機器は携帯可能なので室内のみならず、ハウス等栽培現場における計測結果を栽培指導等に活用できます。

今後の予定と期待

  • トマトジュースなどの加工品では、リコペンの含有量を指標にして品質を管理しています。今後、生産・流通の現場で本計測法を活用してリコペン含有量を計測することにより、リコペン濃度が高いトマトの生産・販売への活用が期待されます。
  • 他の野菜や果物についても同様の手法を用いた品質の非破壊計測法の開発が進むものと期待されます。

図1 (株)クボタ製の可視・近赤外分光光度計

図2 試料台(遮光カバーを外してトマトをのせていない状態)

図3 トマトに含まれるリコペンの実測値と非破壊計測値との関係

用語の解説

リコペン
リコペンは赤色の色素で、β(ベータ)-カロテンと同じカロテノイド系色素の一種です。桃色系および赤色系トマトや赤肉のスイカなどに多く含まれ、熟するほど含有量が高くなります。また、β-カロテンの2倍以上の抗酸化能を有する機能性成分として注目されています。

可視光・近赤外光
ここでの可視光は波長500~800nm、近赤外光は波長800~1000nmの光のことです。本法では、測定対象(トマト)に可視光および近赤外光を照射し、試料に吸収された光を分光計測することで物質(リコペン)を定量します。