≪背景・経緯≫
高齢化が進む中、健全な食生活による健康寿命の延伸や生活習慣病リスクの高い人を対象とした高機能性食品に対する国民の期待が高まっており、食品成分の機能性解明や機能性食品開発が大きな課題となっています。平成14年度厚労省国民栄養調査では、日常生活でストレスを感じる者は80.5%であり、非常な勢いで増加しています。連続的な疲労・ストレス状態は、血圧上昇、不眠、関節痛、頭痛、肩こり、食欲不振、免疫機能低下、消化性潰瘍、心疾患、脳血管障害、高血圧、高脂血症、心身症などの生活習慣病を引き起こします。 これまで我々は、高アントシアニン茶である紅花や茶中間母本農6号がヒト試験にて、眼精疲労、ストレス軽減効果を持っていることを明らかにし、上記2品種の交雑後代から栽培形質の優れた高アントシアニン茶系統を選抜し、苗の光独立培養技術を確立してきました。 本研究では、それらの技術シーズを活かし、安心で科学的根拠の明らかな新規抗疲労・ストレス高アントシアニン茶品種、飲食品素材の開発・提供を行い、疲労・ストレス起因生活習慣病の予防、茶産地の活性化・新興、新食品産業の振興をはかることを目的としています。
≪内容・意義≫
野菜茶業研究所が育成中の新規高アントシアニン茶系統を用いて、機能性成分の単離・同定、疲労・ストレスのバイオマーカーの解明、機能性成分の共存効果解明、機能性成分と代謝成分の安全性評価や適正摂取量の設定、作用メカニズムの解明、動物及びヒトでの臨床評価を行うとともに、短期成園化技術を確立しつつ、新規抗疲労・ストレス性高アントシアニン茶系統の栽培特性・茶葉特性の解明と品種登録申請、飲食品への応用をはかる食品素材化技術の開発を行うことで、抗疲労・ストレス効果を有する食品素材の開発をめざします。
≪今後の予定≫
平成20年度~22年度の3年間に、野菜茶業研究所では「抗疲労・ストレス効果をもつ茶品種育成と有効成分利用技術の開発」、(株)日本製紙グループ本社では「抗疲労・ストレス茶品種の短期大量生産技術の開発」、九州大学では「抗疲労・ストレス茶成分の作用機作の解明とその分子的基盤の確立」、京都大学では「抗疲労・ストレス成分の代謝吸収の解析と安全性の評価」、アサヒビール本社では「抗疲労・ストレス成分高含有茶品種を活用した新食品素材の開発」の研究課題を実施します。
≪成果、効果≫
本研究により安心で科学的根拠の明らかな抗疲労・ストレス効果のある新品種茶が育成され、消費者に提供できるようになります。そのことにより、疲労・ストレス起因生活習慣病の予防が期待され、新食品産業の創出、茶産地の活性化及び新興に大きく貢献できます。
≪用語の解説≫
- イノベーション創出基礎的研究推進事業
民間企業、大学、独立行政法人等による生物系特定産業技術に関する研究開発の支援を行うためのツールの1つとして、我が国の生物系特定産業における特定の課題の解決や新たなビジネス分野の創出等、研究成果の最終的・具体的な活用先を念頭に置きつつ、基礎及び応用段階の研究を行おうとする産学官の研究チーム又は単独の研究者に対し、提案の公募を通じて研究を委託する事業。
イノベーション【innovation】
- 新機軸。革新。
- 新製品の開発、新生産方式の導入、新市場の開拓、新原料・新資源の開発、新組織の形成などによって、経済発展や景気循環がもたらされるとする概念。シュンペーターの用語。また、狭義には技術革新の意に用いる。
- アントシアニン
植物に含まれる紫色の色素のことでポリフェノールの一種のフラボノイド系。主にワインの原料であるブドウや、ブルーベリー、カシス、紫芋、あずきなどに含まれている。 アントシアニンには目の疲れを癒したり、目の健康を維持する働きが大きいとされている。また、他のポリフェノール同様、強い抗酸化作用により、老化防止等の作用があるとされている。 アントシアニンを摂取する際はビタミンCと一緒に摂ると抗酸化作用が5倍になるとの報告もあり、ビタミンCとの同時摂取が望ましいとされる。
- 光独立培養技術
植物の光合成能力を助長することにより、栄養分の糖を与えずに二酸化炭素と水と光で植物を培養する方法
- バイオマーカー
尿や血清中に含まれる生体由来の物質で、生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標(マーカー)となるものを指す。特定の疾病や身体の状態などに相関して量的に変動するので、疾病の診断や効率的な治療法の確立等が可能となると言われている。
研究のイメージ