新品種育成の背景・経緯
アントシアニンを多く含む品種を育成することで、茶に含まれるカテキンとの同時利用が可能となり、茶の需要拡大が期待できます。既存の高アントシアニン系統である「紅花」や「茶中間母本農6号」は、収量が少なく、栽培が難しい等の欠点があったため、上記2品種よりも栽培形質が優れたアントシアニン含量の高い品種の育成に取り組みました。
「茶中間母本農6号」を育種素材とし、その実生集団の中からアントシアニン含量が高く、炭疽病・輪斑病に抵抗性があり、芽数も多く栽培しやすい「サンルージュ」を選抜しました。
新品種「サンルージュ」の特徴
- 「茶中間母本農6号」の自然交雑実生群から2001年に採種し、圃場での栽培試験、培養苗適性試験等により選抜しました(図1)。
- 「茶中間母本農6号」よりもアントシアニンを多く含み、熱湯抽出でも水色は赤くなります(図2、図3)。
- 炭疽病や輪斑病には比較的強い抵抗性を示します(表1)。また、芽数が多く、仕立てやすいのも特徴です。
- 光独立栄養培養法で発根させた後、セル育苗した苗木を定植した場合、圃場での活着、定植後の生育が優れます(図4、図5)。






品種の名前の由来
太陽の強い日差しの中で、紅色の新芽が萌え立つ様子から口紅をイメージして命名しました。また、これまでの茶品種ではカタカナ表記のものはありませんでしたが、機能性成分をターゲットにしたわが国最初の品種であることから、これまでにないカタカナ表記の品種名にしました。
種苗の配布と取り扱い
平成21年6月3日に品種登録出願(品種登録出願番号:第23800号)を行い、平成21年8月18日に品種登録出願公表されました。
平成21年10月29日から5年間は、株式会社日本製紙グループ本社(アグリ事業推進室)を通じて販売します。
用語の解説
アントシアニン
植物に含まれる紫色の色素のことでポリフェノールの一種のフラボノイド類です。ブドウや、ブルーベリー、カシス、紫芋、あずきなどに含まれています。アントシアニンには目の疲れを癒したり、目の健康を維持する働きが大きいとされています。また、他のポリフェノール同様、強い抗酸化作用により、老化防止等の作用があるとされています。
茶中間母本農6号
新芽が赤い中間母本品種です。茶の近縁種であるカメリア・タリエンシス(C.taliensis)の自然交雑実生から選抜されました。樹勢が強く葉が大きい一方で芽数が少なく茎が太いことが欠点で、茶としての栽培特性を改良する必要があります。
紅花
新芽、花、根にアントシアニンが蓄積し、紅色を呈する茶の在来種です。赤い花が咲くことから、通称「紅花(べにばな)」と呼ばれています。葉が小さく、生育が極めて劣るため、栽培種としては普及していません。
炭疽病
全国的に発生が見られる茶の重要病害で、特に山間地や南九州で多く発生します。発生部位は成葉で、新芽の生育期に雨が多いと多発します。秋に多発し、落葉が著しいと、一番茶が減収します。
輪斑病
葉や茎の傷口から感染する茶の重要病害です。気温が高くなってから成葉や枝に発生し、被害が大きいと減収します。
赤葉枯病
茶樹の生理活性が弱くなった時に発病しやすい病害で、葉
や新梢に症状が現れます。
光独立栄養培養法
植物の光合成能力を助長することにより、栄養分の糖を与えずに二酸化炭素と水と光で植物を培養する方法です。
定植後の活着
活着は、苗を圃場に定植した後、順調に生長を続ける状態になることです。一般に、定植後一定期間を過ぎて生き残った株の本数を活着率として表します。活着の善し悪しは、成園化までの期間や管理の難易に大きく影響します。苗の活着は定植時の苗の状態や定植後の管理に大きく左右されますが、品種による差も大きく、活着の良い苗や品種を植えることが重要です。