プレスリリース
根こぶ病と黄化病に抵抗性のハクサイ新品種「あきめき」

- 栽培しやすく、結球葉が色鮮やか -

情報公開日:2011年10月 5日 (水曜日)

ポイント

  • DNAマーカーを活用した選抜により、ハクサイの主要な土壌病害である根こぶ病と黄化病に抵抗性をもつハクサイ新品種「あきめき」を育成しました。

概 要

農研機構 野菜茶業研究所【所長 望月龍也】と株式会社日本農林社【代表取締役社長 近藤宏】は、DNAマーカーを活用した選抜により、根こぶ病と黄化病に抵抗性があり、品質に優れたハクサイF1品種「あきめき」を共同で育成しました。

ハクサイ産地では、ハクサイの主要な土壌伝染性の病害である根こぶ病と黄化病の発生が大きな問題となっています。「あきめき」は、根こぶ病に強い抵抗性と黄化病に中程度の抵抗性があるため、防除におけるコスト削減及び薬剤処理に要する労力の軽減が期待されます。

予算

農林水産省プロジェクト研究「新農業展開ゲノムプロジェクト」


詳細情報

新品種育成の背景・経緯

ハクサイ産地では、土壌伝染性の微生物による根こぶ病と黄化病の発生が大きな問題となっています。根こぶ病では病気を引き起こす菌の病原性が分化し、これまで抵抗性とされた品種が罹病することが問題となっています。また、低コストで行える栽培管理上の黄化病の防除対策はありません。そこで、黄化病に抵抗性のある「秋理想」と根こぶ病に強い抵抗性をもつ「はくさい中間母本農9号」を用いて、2つの難防除病害に抵抗性をもつ品種の育成に取り組みました。特にDNAマーカーを活用することにより、これまで難しかった抵抗性遺伝子の集積を効率よく行いました。

新品種「あきめき」の特徴

  • 「あきめき」はF1品種(図1)で、その両親は、「秋理想」の各親と「はくさい中間母本農9号」(2つの根こぶ病抵抗性遺伝子Crr1Crr2を持つ)との交雑F1個体に、「秋理想」の親を4回戻し交雑し、Crr1Crr2のDNAマーカーを活用して選抜・固定した系統です。
  • 「あきめき」は、Crr1Crr2および「秋理想」の親(花粉親)に由来する別の根こぶ病抵抗性遺伝子の計3種類の抵抗性遺伝子を有します。ハクサイF1品種「CR隆徳(りゅうとく)」と「SCRひろ黄(ひろき)」が示す抵抗性の違いによりグループ化された4種類の根こぶ病菌系の全てに抵抗性を示す初めてのハクサイ品種です(表1)。
  • 「あきめき」は、黄化病汚染圃場で栽培した場合にも発病しにくい品種です(表2)。
  • 「あきめき」は、は種後約75日で収穫可能で、出荷時の球長は約30cm、重さは2.5~3kg程度であり、根こぶ病抵抗性以外の特性は「秋理想」に類似します。

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品種の名前の由来

「あきめき」とは、ハクサイが最もおいしい秋から冬に向けての季節感を表現する「秋」と、兆しやはじまりを意味する「めく」を合わせて、これからおいしいハクサイが出始めますという「期待感」を意味し、ハクサイとしての品質の良さをアピールしました。

種苗の配布と取り扱い

平成23年6月6日に品種登録出願(品種登録出願番号:第25985号)を行い、平成23年8月19日に品種登録出願公表されました。

今後、株式会社日本農林社が種子を販売する予定です。

販売に関するお問い合わせ先

株式会社日本農林社 Tel 03-3916-3341/Fax 03-3916-3344

その他

平成23年11月3日(木曜日)に開催する野菜茶業研究所(三重県津市安濃町)の一般公開において、「あきめき」を展示する予定です。

野菜茶業研究所一般公開に関しては、当所ホームページのイベント/セミナー一覧をご覧下さい(http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/laboratory/vegetea/index.html)。

用語の解説

根こぶ病
vegetea_press20111005_4土壌微生物(Plasmodiophora brassica)によって引き起こされる難防除土壌病害の一つです。発病すると根が異常に肥大し養水分の吸収が妨げられるため(写真左)、生育が著しく遅延し、ひどい場合には枯死します。
この菌の休眠胞子(写真右の多数の粒子)は数カ年にわたり土壌中に残存するため、一旦発生すると化学合成農薬による防除や土壌改良が必要となります。

根こぶ病の菌系
同じ病原菌でも、ハクサイの品種や系統によって病気を起こしたり、起こせなかったりします。品種や系統に対する病原性のこのような違いを菌系(レース)と呼んでいます。
根こぶ病の菌系は、2つのF1品種「SCRひろ黄」と「CR隆徳」の反応性の違いにより主に4つのグループに分けられます。両品種とも罹病性の場合はグループ1、「SCRひろ黄」が抵抗性で「CR隆徳」が罹病性の場合はグループ2、その逆の場合はグループ3、両品種とも抵抗性の場合はグループ4としています(表1)。

黄化病
vegetea_press20111005_5土壌微生物(Verticillium dahliae Klebahn)によって引き起こされる難防除土壌病害の一つです。
幼苗期には発病せず、生長した古い葉から次第に黄色く変色します(写真)。ひどい場合には結球が不十分になり、収穫ができなくなります。
土壌中の菌密度が上昇すると畑地全体に広がり、被害が拡大します。クロルピクリン剤による土壌消毒は有効ですが、根こぶ病に比べて使用できる農薬が限られるために防除が困難な病害です。

DNAマーカー
vegetea_press20111005_6DNAマーカーとは、遺伝情報の載った地図上の特定のDNA配列を利用した目印のことです。ここでは2つのDNAマーカーを使って根こぶ病抵抗性を持つ個体かどうかを識別することができます。例えば、抵抗性親の遺伝子を持つ個体(左図レーン1)、罹病性親の遺伝子を持つ個体(レーン3)、両親の遺伝子を持つ個体(レーン2)に識別することができ、2つのマーカーがともに抵抗性親のパターン(レーン1)を示す植物体は抵抗性になります。

秋理想
は種後約75日で収穫できる中早生タイプ、結球葉の内部は黄色での形の良い形状をもつハクサイ品種です。
黄化病に対して実用的な抵抗性をもつ初めてのF1品種であり、茨城県を中心に普及が急速に進んでいます。

はくさい中間母本農9号
vegetea_press20111005_72つの根こぶ病抵抗性遺伝子Crr1Crr2を持つ根こぶ病強度抵抗性育種素材で、特にDNAマーカーを活用して効率的に根こぶ病抵抗性個体を選抜することが可能です。
Crr1Crr2の2つの根こぶ病抵抗性遺伝子を導入することより、グループ1に属する根こぶ病菌系に対する抵抗性を付与できます。市販されているハクサイの中にはグループ2から4に属する菌に対して抵抗性を発揮する品種はありますが、グループ1に属する菌系に対して抵抗性を持つ品種はありません。
「はくさい中間母本農9号」は、ハクサイに限らず、ナバナ、カブ、チンゲンサイなど根こぶ病が深刻な問題となっているアブラナ科野菜の育種素材として活用されています。