新品種育成の背景・経緯
メロン産地では、メロンの重要病害であるうどんこ病、つる割病や主要害虫であるワタアブラムシの発生が大きな問題となっています。また、病害虫抵抗性に加えて、高い果実品質と日持ち性を兼ね備えた品種が強く要望されています。そこで、うどんこ病、つる割病およびワタアブラムシに対する抵抗性に加え、優れた果実品質と日持ち性を有するメロン品種の育成に取り組みました。
新品種「アルシス」の特徴
- 「アルシス」は、高品質で日持ち性の高い系統HGMP-2((株)萩原農場生産研究所 育成)を種子親とし、うどんこ病・つる割病・ワタアブラムシに抵抗性があり日持ち性の高い系統AnMP-5(野菜茶業研究所育成)を花粉親とするアールス系メロンF1品種です。
- うどんこ病(レース1およびレースpxA)、つる割病(レース2)に抵抗性があり、ワタアブラムシが増殖しにくい品種です(表1)。
- 果皮はわずかに緑がかった灰色で、果実重は1,800g程度、果実の外観は良好です(図1、表2)。
- 果実の内部品質は、「雅春秋系(みやびしゅんじゅうけい)」と同程度に優れ、食味は 良好です。果肉は淡黄緑色で、果実の糖度は「雅春秋系」に比べて同等かやや高く、果実の日持ち性は「アールス輝」(野菜茶業研究所と愛知県農業総合試験場が共同で育成した複合病害虫抵抗性品種)より長く、「雅春秋系」と同等かやや優れます(表2)。
- 半促成作型及び普通作型ではネットの発現が不安定になりやすいことから、抑制作型に適する品種です。
品種の名前の由来
アルシス(Arsis)とは、ギリシャ語で「飛躍」や「高揚」を意味します。「アルシス」の特徴である病害虫抵抗性と果実の日持ち性が大きく向上したことと、実際に口にしたときの高揚感を表現しました。
種苗の配布と取り扱い
平成23年6月15日に品種登録出願(品種登録出願番号:第26036号)を行い、平成23年10月7日に品種登録出願公表されました。
今後、(株)萩原農場から種子を販売する予定です。
お問い合わせ先
農研機構 野菜茶業研究所 企画管理部 運営チーム
Tel 050-3533-3815
その他
平成23年11月3日(木曜日)に開催する野菜茶業研究所(三重県津市安濃町)の一般公開において、ご来場の方に「アルシス」をご試食いただく予定です。野菜茶業研究所一般公開に関しては、当所ホームページのイベント/セミナー一欄をご覧下さい(http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/laboratory/vegetea/index.html)。
用語の解説
アールス系メロン
温室メロンの代表品種「アールス・フェボリット」に病害抵抗性や日持ち性を付与したメロン品種で、主に加温等の設備を備えた施設で栽培されます。果梗(かこう;果実につながっている枝の部分)を残した状態で販売されます。
レース
同じ病原菌でも、品種によって病気を起こしたり、起こさなかったりします。この品種に対する病原性の違いで分けた病原菌のグループをレースと呼びます。
うどんこ病
糸状菌病でメロンにおける重要病害です。感染した植物では、葉の表面が菌に覆われて白くなります。植物の生育が悪くなり、果実品質を低下させます。日本で発生しているメロンうどんこ病菌には多くのレースが存在します。
つる割病
土壌伝染性の糸状菌病で、メロンにおける重要病害です。感染した植物は根や導管が侵され、地上部が萎れてしまいます。
地際部の茎が褐色に変色し、黒褐色のヤニをふきます。
日本で発生しているメロンつる割病菌には、レース0、1、2、1,2y、1,2wの5つのレースが報告されています。
ワタアブラムシ
多くの植物に寄生するアブラムシです。葉の萎縮、アブラムシの排泄物に発生するカビ(すす病)による果実品質の低下、ウイルスの媒介等が問題となります。
半促成作型、抑制作型
12~2月頃に播種し、4~6月頃に収穫する作型を「半促成作型」と呼びます。また、春、気温の上昇を待って播種し、以後収穫までの間、自然にまたは自然に近い気温下で行う栽培を「普通栽培」と呼び、「普通栽培」より遅い時期の収穫を目的とする作型を「抑制作型」と呼びます。盛夏から秋の生育が重要なため、「抑制作型」は夏季に冷涼な地域や晩秋に温暖な地域に適した作型です。