プレスリリース
根こぶ病に強度抵抗性のハクサイを選抜できるDNAマーカー

情報公開日:2006年8月 2日 (水曜日)

要約

ハクサイ根こぶ病は通常の方法では防除の難しい土壌伝染性病害の一つです。これまで根こぶ病に抵抗性の品種が利用され、一定の成果を挙げてきましたが、根こぶ病菌は抵抗性のハクサイ品種を新たに加害できる新しい系統が分化しやすいため、既存の抵抗性品種が発病してしまって甚大な被害を及ぼすことがあります。

今回、野菜茶業研究所では、根こぶ病に対して強度の抵抗性を有するハクサイ個体を効率的に選抜できるDNAマーカー*を開発しました。今回開発した2個のDNAマーカーを調べることによって、ハクサイの抵抗性の程度を簡単に判断できます。この技術によって、抵抗性を検定する作業を大幅に省力化できるだけでなく、定植する前の幼苗で抵抗性の選抜を行えるので、品種改良(育種)を効率的に行うことができます。

* DNAマーカー
DNA塩基配列の品種間での違いを識別することで、ゲノム上の標識(目印)としたもの。染色体上の遺伝子内あるいはその近傍の塩基配列に違いがあり、その違いを識別できれば、DNAマーカーとして利用できる。DNAマーカーによって、特定の遺伝子を含む染色体のある領域が親から子へ受け継がれたかどうか検定できる。


詳細情報

1.背景・目的

ハクサイ根こぶ病(図1)は通常の方法では防除の難しい土壌伝染性病害の一つです。そのため、これまで根こぶ病に抵抗性の品種が利用され、一定の成果を挙げてきました。しかし根こぶ病菌は抵抗性のハクサイ品種を新たに加害できる新しい系統が分化しやすいので、既存の抵抗性品種が発病してしまって甚大な被害を及ぼすことがあります。このため、農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所(門馬信二所長、三重県津市安濃町)では、効率的な根こぶ病抵抗性育種を行うためにDNAマーカーの開発を行ってきました。今回、2個の抵抗性遺伝子について、それぞれが存在する染色体上のごく近くに位置するDNAマーカーを開発するとともに、これらのDNAマーカーを用いた抵抗性選抜の有効性について評価を行いました。

2.成果の内容・特徴

  • 根こぶ病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカーの開発
    根こぶ病に対して罹病性と抵抗性のハクサイの系統の間で、ゲノム上のDNAの配列が異なる部分を見つけ出してDNAマーカーの候補としました。その中から、両方の系統を交配しても常に抵抗性の個体で特異的に検出される(同じ染色体上で強く連鎖している)マーカーを2個の抵抗性遺伝子に対してそれぞれ1つずつ見出しました(図2)。
    根こぶ病菌は、ハクサイ品種を加害する能力が菌株によって多様であり、少数の品種しか犯さないものから多くの品種を犯すもの(多犯性)まであります。2個のDNAマーカーの中で、1つ目のDNAマーカー(BRMS-173)だけで選抜されたハクサイは、少数の品種しか犯さない菌株に対しては抵抗性を示しましたが、多犯性の菌株には効果がありませんでした。しかし2個のDNAマーカーを同時に用いて選抜されたハクサイは、多犯性の菌株に対して極めて強い抵抗性を示すことが明らかになりました(表1)。
  • DNAマーカーを用いた強度抵抗性個体の選抜
    ヨーロッパ原産の飼料用カブ由来の抵抗性素材(図3)と抵抗性遺伝子を全く持たないハクサイを交配し、その後代から、2個のDNAマーカーが同時に検出される個体を選抜し、その個体にハクサイを戻し交配する操作を何度も繰り返しました。その結果、外観はハクサイでも、飼料用カブのように多犯性の菌株に対して抵抗性を有する個体(図3)を得ることができ、DNAマーカーを用いた抵抗性選抜が有効であることを実証しました。

3.今後の研究方向

開発しましたDNAマーカーを用いて、新品種育成素材(中間母本)や民間種苗会社との共同研究により新品種の育成を目指します。

4.実施研究事業

本研究成果は農林水産省委託プロジェクト研究「有用遺伝子活用のための植物(イネ)・動物ゲノム研究―DNAマーカーによる効率的な新品種育成システムの開発」で得られたものです。

図1 ハクサイ根こぶ病 図2 根こぶ病抵抗性遺伝子に連鎖するDNAマーカーの検出例

図3 抵抗性系統G004(左)とマーカー選抜により、2個の抵抗性遺伝子を導入したハクサイ(右)

表1 検定したハクサイ個体の有するDNAマーカー(BRMS-173,BRMS-096)のタイプと多犯性の根こぶ病菌株に対する発病程度との関係