プレスリリース
DNAマーカーを用いたイチゴ品種識別技術の高精度化と高い再現性の検証

情報公開日:2006年5月30日 (火曜日)

要約

野菜茶業研究所ではこのたび極めて精度の高いイチゴのDNA品種識別技術を開発しました。従来は十数品種の識別しかできなかったが、今回開発した技術では、15個のDNAマーカー※を調べることによって、そのイチゴが70種類の国内外のどの品種であるかどうかを99.7%以上の精度で識別することができます。また複数の研究機関との共同試験により、分析場所や分析者等が異なっても同じ結果が得られることを確認しました。この技術は産地のブランド化や育成権者の保護など国産イチゴ品種の優位性を確保する手段として有効に活用することができます。

※DNAマーカーとは、遺伝情報の載った地図上の特定のDNA配列を利用した目印。

1.背景・目的

近年、全国のイチゴ産地では有望新品種の育成・導入によるブランド化・差別化が進められています。その一方、新品種に関する育成者権の侵害や偽装表示が問題となっています。また、平成17年6月の種苗法改正により生果に限らず加工品も対象となり、DNA品種識別技術のニーズはますます高まっています。このため、農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所(門馬信二所長、三重県津市安濃町)では、平成14年に14品種を対象にしたDNAによるイチゴ品種識別技術を開発し、海外から輸入されるイチゴ生果に育成者権侵害の事例があることを見いだしました。今回は国内外の70品種を対象に品種名を高精度に特定できる技術の開発とその妥当性確認を目的としました。

2.成果の内容・特徴

  • イチゴ品種の高精度な同定に必要な識別用DNAマーカーの選定
    野菜茶業研究所が開発した25個のイチゴ品種識別用DNAマーカー情報から、日本品種を中心に70品種を識別できるマーカーを選定しました。その結果、15個のDNAマーカーを用いることにより、調査した70品種・系統は99.7%以上の精度で、品種名を明らかにできます(表1)。
  • 開発したDNA品種識別技術の妥当性の科学的検証
    野菜茶業研究所以外の13研究・分析機関に品種名を伏せたイチゴ葉を送付し、上記15個のDNAマーカーを用いた品種識別技術の妥当性を確認しました。その結果、試料の取り違いにより有効な回答が得られなかった1機関を除いた12機関の全てで同じ結果が得られました。これにより、この品種識別技術は分析場所・分析機械・分析者等によらず、同じ結果が得られることを検証しました。

3.今後の研究方向

イチゴでは毎年のように新品種が発表されています。このため、新品種の同定に必要なDNAマーカーの最適な組合せを更新するとともに、イチゴ加工品の識別技術についても検討します。また、詳細な操作手順を記載したマニュアルを作成し、識別・同定技術を希望する機関に対して、技術の普及に努めます。

4.実施研究事業

本研究成果は農林水産省委託プロジェクト研究「食品の安全性及び機能性に関する総合研究」で得られたものである。

表1 15種類のDNAマーカーによる主要なイチゴ品種の識別精度