プレスリリース
日本初のデュラム小麦新品種「セトデュール」

情報公開日:2016年4月25日 (月曜日)

ポイント

  • 日本で初めてのデュラム小麦1)新品種「セトデュール」を育成しました。
  • 「セトデュール」のスパゲッティは、普通小麦のスパゲッティよりも黄色みが強く官能評価に優れます。
  • 国産のデュラム小麦を100%使用したスパゲッティが作れます。

概要    

  • 農研機構西日本農業研究センターは、日本製粉(株)との共同研究を行って日本で初めてのデュラム小麦品種「セトデュール」を育成しました。
  • 「セトデュール」は、稈長(かんちょう)2)が短いため倒伏に強く成熟期は普通小麦「農林61号」と同程度です。また、単位面積あたりの収量は約60kg/aで「農林61号」と同程度です。
  • 「セトデュール」で作ったスパゲッティはパン用小麦等の普通小麦で作ったものより黄色みが強く外観に優れ、また、硬さや弾力など官能評価にも優れます。このため、国産のデュラム小麦を100%使用した製品が作れます。

予算:交付金

品種登録出願:平成27年11月19日(品種登録出願番号:第30631号)

品種登録出願公表:平成28年2月26日

産地品種銘柄:平成28年度産地品種選択銘柄(兵庫県)

新品種育成の背景と経緯

デュラム小麦は、日本で栽培されている普通小麦に比べて成熟期が遅く、赤かび病3)に弱く、白粒で穂発芽4)耐性が弱いため、収穫時期が梅雨に当たる国内ではほとんど栽培されておらず、これまで本格的な品種育成は行われてきませんでした。そのため、スパゲッティを始めとしてマカロニ類のほとんどは海外産のデュラム小麦から作られており、わずかに国産のパン用小麦を使用した商品が販売されています。しかし、実需者や消費者からは、国産のデュラム小麦を使用した商品が要望されています。

そこで、当研究センターでは、温暖で、収穫時期の降雨が比較的少ない瀬戸内地域ならデュラム小麦の栽培の可能性があると考え、1998年にデュラム小麦の品種改良を開始しました。瀬戸内地域での栽培を目指して、普通小麦品種の「農林61号」並の収穫時期を目標に系統の育成を行いました。この系統を用い、2012年に開始した日本製粉(株)との共同研究において、兵庫県の生産者圃場における試験栽培、加工適性についての試験を行いました。その結果、一般の圃場で栽培ができること、加工適性にも問題がないことが確認され、十分に商業栽培が見込めることから「セトデュール」の品種登録出願を行いました。

新品種「セトデュール」の特徴

  • 普通小麦「農林61号」に比べて、成熟期はやや遅い中生の品種です(表1、写真1)。
  • 種子の特性は、粒色は黄の白粒で、「農林61号」や「ミナミノカオリ」に比べて千粒重はかなり重く、容積重も高くなっています(表1、写真2)。
  • 製粉では、普通小麦よりもセモリナ5)生成率が高く、セモリナ粉は黄色みが高く、黄色色素が多くなっています(表2)。
  • スパゲッティの色調や官能評価は、輸入されているCWAD(カナダ・ウエスタン・アンバー・デュラム)よりはやや劣りますが、普通小麦よりはかなり優れています(表2、写真3)。

生産上の留意点

赤かび病に極めて弱いため、適期防除を徹底する必要があります。収穫時期が梅雨にかかるので、穂発芽被害を避けるために、適期播種、適期収穫に努める必要があります。除草剤や殺菌剤などの薬剤は、小麦に対して登録のある薬剤が使用できます。農産物検査は小麦、ランク区分はパンおよび中華めん用小麦を適用できます。

品種の名前の由来

セトは栽培適地である瀬戸内地域を示しています。デュール(dur)はラテン語で「硬い」という意味で、デュラム(durum)の語源にもなっています。「セトデュール」は瀬戸内地域で栽培できるデュラム小麦という意味を込めて命名しました。

今後の予定・期待

日本製粉(株)と共同で行っている農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業の課題「国産のデュラム小麦品種の栽培と純国産パスタ製品の開発」において、現在、兵庫県の平坦地を中心に7haで実証栽培されています。事業終了時点(平成30年)で、兵庫県において50haまで栽培が拡大される予定です。また、これとは別にデュラム小麦の栽培から商品開発に取り組もうとしている事例があり、こうした6次産業化の取組にも貢献できることから、国産品種への期待は高いと考えられます。

日本製粉(株)では、将来的に数千トンを使用したいとの意向があり、各県や関係生産団体及び農研機構と協力して瀬戸内地域において当面500ha程度の作付けを目指した取組を行う予定です。この取組でデュラム小麦の輸入量の1%超相当が生産され、それが乾燥パスタに加工されると販売額ベースで約6.5億円になります。さらに、乾燥パスタだけでなく、調理済みパスタなど消費者ニーズの高い製品に関しては、地域ブランドの創出による経済的効果も期待できます。

用語の解説

1)デュラム小麦:スパゲッティなどのパスタに使用される小麦で、パンやうどんなどに使用されている普通小麦の祖先になる小麦です。デュラム小麦はABの2種類のゲノムをもつ小麦ですが、ここから進化した普通小麦はABDの3種類のゲノムを持つ異なる植物種です。

2)稈長:地際から穂の直下までの長さで、一般的に株の中で最も長い稈の長さをとります。標準的な品種より稈長の短い品種は倒れにくいことから、コンバインなどでの収穫がしやすくなります。

3)赤かび病:出穂期以降に湿潤な気象条件が続く場合に、フザリウム属菌に感染することによって発生します。収量の低下をもたらすほか、病原菌の産生するカビ毒、デオキシニバレノール(DON)が基準値を超えると出荷することができません。

4)穂発芽:小麦の収穫時期に降雨が続いた場合に、種子が穂についたまま発芽する現象。程度が軽い場合でも種子中のアミラーゼ活性が高まることにより、でんぷんが分解されます。穂発芽した小麦は商品価値がなくなります。小麦には穀粒が赤色の赤粒と白色の白粒の2つのタイプがあり、白粒は赤粒に比べ穂発芽しやすい傾向にあります。

5)セモリナ:粗挽きされた小麦粉を意味する。デュラム小麦は普通小麦よりも種子が硬く、製粉すると粒子の大きい粗挽き粉が多く取れます。

表1.セトデュールの特性

写真1 草姿の比較

 

表2.セトデュールの品質分析結果

 

写真3 乾燥スパゲッティの比較