「旬」の話題

今が旬の「カキ」のお話

 

今回は秋の果実の代表、カキのお話です。

カキの起源と生産

taiten2.jpg カキ(Diospyros kaki Thunb.)はカキノキ科(Ebenaceae)カキ属に属し、東アジア原産の果樹で、中国、日本、韓国に多くの在来品種があります。カキはもともと熱 帯・亜熱帯原産の植物から発達したもので、耐寒性はリンゴより弱く、北海道ではほとんど栽培されていません。本州・四国・九州で広く栽培されています。

カキの収穫量は24万4,800tで、果樹の中では、ウンシュウミカン、リンゴ、日本ナシに次いで四番目です(平成19年)。

カキの栽培面積(都道府県別)

平成20年におけるカキの栽培面積は、日本全体で24,000haであり、県別に見ると和歌山、福岡、奈良、岐阜、山形の順になっています。

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※農林水産省「平成20年果樹及び茶の栽培面積」より作成

カキの栽培面積(品種別)

甘ガキとしては「富有」、「次郎」、「西村早生」、「伊豆」が、また、渋ガキとしては「平核無(ひらたねなし)」、「刀根早生」が多く栽培されています。

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※農林水産省「特産果樹生産動態等調査 平成19年3月発行」より作成

渋ガキと甘ガキ

カキの品種には甘ガキと渋ガキがあり、秋に果実が着色して成熟した時期に果実の渋みが無いのが甘ガキ、渋くて食べられないのが渋ガキで、甘渋の性質は品種 により決まっています。甘ガキ品種も、開花後まもない幼果の時期の果実には渋みがあります。甘ガキ品種は秋の成熟期までに渋みがなくなります。

種子の有無にかかわらず自然に渋の抜けるタイプの甘ガキを完全甘ガキと呼び、「富有」、「次郎」、「伊豆」、「太秋」、「早秋」などの品種があります。こ のタイプのカキが自然に渋が抜けるには夏秋季の温度が高いことが必要で、東北地方や内陸部・高冷地では渋みが残るため、一般に栽培されません。

種子が多くできると果肉が黒くなって渋みが抜けるタイプを不完全甘ガキと呼び、「西村早生」、「禅寺丸」などの品種があります。完全甘ガキより広い地域で渋みが抜けます。種子が少ないと、黒くならない渋い部分があります。

渋ガキも、完全に軟熟させると渋みがなくなります。果皮を剥いてつるし、乾燥させても、渋みが無くなって食べられます(干し柿)。また、着色した果実を収 穫し、炭酸ガスやエチルアルコールを果実に処理すると、渋みがなくなって甘ガキと同様に食べられます。小売店で販売されている「平核無」や「会津身不知」 「愛宕」などの渋ガキ品種の果実は、炭酸ガスやエチルアルコールが処理されており、渋みがありません。

甘ガキの進化

もと もと渋ガキしかなかったところに、日本では完全甘ガキと不完全甘ガキの2種類の甘ガキが誕生しました。完全甘ガキの品種は少ないですが、歴史の中で、不完 全甘ガキは非常に多くの品種が生まれています。その遺伝子が韓国にも広がり、少数の不完全甘ガキ品種が生まれています。中国のカキはほとんどが渋ガキ品種 ですが、湖北省羅田県周辺にのみ中国原産甘ガキ「羅田甜柿」とそれに由来する少数の品種があります。中国原産の甘ガキと日本原産の2つの甘ガキは、それぞ れ渋みがなくなる仕組みが異なります。

渋くなくなる仕組み

渋みの本体は水溶性のタンニン物質で、舌のタンパク質と結合し て、渋みを感じさせます。タンニン物質はアセトアルデヒドにより凝固して水に溶けなくなります。渋ガキに炭酸ガスやエチルアルコールを与えると、果実の中 でアセトアルデヒドが発生して渋みがなくなります。また、渋ガキが軟熟すると、アセトアルデヒドが発生するのに加え、軟化に伴って水溶性ペクチンやこわれ た細胞壁とタンニン物質が結合して凝固するために渋みがなくなります。

不完全甘ガキ品種の種子はエチルアルコールやアセトアルデヒドを発生し、果肉のタンニン物質が凝固するため、渋みがなくなり、さらに酸化されて果肉が黒く見えます。

完全甘ガキの果実では6月頃よりタンニン物質が果実で蓄積されなくなり、その後、渋みがなくなっていきます。

DNAで甘渋性を見分ける

完全甘ガキの品種改良では、種子を播いて多くの個体を育てますが、果実を成らせて甘ガキだけを選抜し、渋ガキを捨てます。渋ガキも育てなくてはならないの で非効率ですが、農研機構では京都大学・近畿大学との共同研究により、幼苗の葉のDNAを分析するだけで、甘ガキが成るか渋ガキが成るかを識別することに 成功しました。

 

柿の機能性

カキの種は、縄文、弥生時代の遺跡からも出土していますが、今のように大きなカキは奈良時代に中国から渡来し、野生化したものと考えられています。カキは昔から日本人に親しまれた果物の一つで、山里に色鮮やかなカキが実っている景色は、深まりゆく秋を感じさせます。

そんな風景を正岡子規は、「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」と詠んでいます。カキは甘いので意外に感じるかも知れませんが、カロリーが低く、ビタミンCが多 く含まれています。甘ガキには140mg/200g、渋抜きガキには 110mg/200gも含まれています。一日に必要なビタミンCの栄養所要量は100mgなので、カキを1個食べるだけで1日の必要量を満たせます。

成分表などから検索するとビタミンCの多い食品としてあまのりやせん茶(茶葉)が上位に出てきます。グラム単位で比較すると確かに多く見えますが、これら の食品は、水分が少ないためにビタミンC含量が多くなり、また、水分が少ないことからカロリーが高くなります。そこで、カロリー単位で比較してみると意外 なことに甘ガキのビタミンC含量はこれらの食品より多くなります。

重量当たり、カロリー当たりのビタミンC含量

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ビタミンCは脳卒中などの循環器系疾患やガンなどの生活習慣病の予防効果のほかに、しみ・そばかす・しわなどにも効果があります。ビタミンCは調理によってかなり失われるので、生で食べられるカキはビタミンCの供給源として優れています。

カキの果肉が黄色いのは、カロテノイドが多く含まれているからです。カロテノイドは、黄色やオレンジ色の色素で、α-カロテン、β-カロテン、β-クリプ トキサンチン、リコペン、ルテインなどがあります。このうち、α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチンは、体内に入ると腸で吸収され、ビタミ ンAに変わることから、プロビタミンAと定義されています。

また、カロテノイドは、体の各器官が酸化するのを防ぐ抗酸化作用があるので、 ガンや心臓病の予防、コレステロール値の低減などに効果があります。ビタミンAはレチノールと呼ばれる成分ですが脂溶性なので、摂り過ぎると体に蓄積して 過剰症の心配が出てきますが、カロテンやクリプトキサンチンは体内に入ってから必要な分だけがビタミンAに変化するため、ビタミンAの過剰症のリスクを避 けることが出来ます。

カキにはプロビタミンAが多く含まれていますが、なかでもβ-クリプトキサンチンが豊富です。β-クリプトキサンチ ンは、ガンに対する予防効果が高いことでも知られています。β-クリプトキサンチンはウンシュウミカンに含まれる成分として知られていますが、カキ品種の なかには、ウンシュウミカンに匹敵する量を含む品種もあることが分かってきました。 カキには、ビタミンCやAだけでなく、ポリフェノール、食物繊維、カリウムも豊富なので生活習慣病予防に効果的な果物です。

(果樹研究所 田中敬一氏)

農研機構が育成した、さくさくとした肉質で多汁の完全甘ガキ「太秋」

日本には千以上の品種が知られているのに対し、完全甘ガキの品種は数が少なく、歴史の中で自然に交雑して生まれた品種は17しか発見されていませんでし た。農研機構果樹研究所では、美味しさを広げる品種改良を進め、軟らかく多汁でさくさくとした新食感の完全甘ガキ品種「太秋」を生み出しました。また、完 全甘ガキには、もともと早生品種がありませんでしたが、「早秋」・「伊豆」など、早生の完全甘ガキ品種も育成しています。

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太秋(たいしゅう)

平成6年8月品種登録

早秋(そうしゅう)

平成15年3月品種登録

伊豆(いず)

昭和45年10月命名登録