「旬」の話題

日本人と稲

米カレンダー2013年1月お正月には全国各地域で米などの五穀豊穣を願う行事や祈祷が行われます。各家庭でも、稲穂・稲ワラを使ったり米俵をかたどったりした正月飾りや鏡餅が飾られます。お正月は、穀物の神である歳神(としがみ)を迎える行事として始まったと言われており、日本人と稲の深い関係を考えさせる季節です。

稲は元々日本にあったわけではなく、約2,500年前(縄文時代後期から弥生時代前期)に大陸から伝わりました。美味しいお米を作るため、人々は新たに水田を拓き、稲を育てはじめました。8世紀の中頃(奈良時代~平安時代初期)には100万ヘクタールの水田があり、収量(10アール当たりの生産量)が約100kgだったと記録されています。この頃に書かれた古事記の中の言葉から「瑞穂(みずほ)の国」は日本の美称として使われるようになりました。その後も水田や農機具を改良し、品種を育成する日本人の努力は続けられ、約1,000年後の明治時代には収量は約200kgと2倍になりました。さらに西洋文明を取り入れて技術革新は加速化し、現在の収量は約550kgに達しています。この半世紀は、多くの人がお米を食べたいだけ食べられる時代となりました。このような日本の稲作の歴史を考える時、自然の恩恵があるにしろ「瑞穂の国」が日本人の努力によって作られてきたことを思わざるを得ません。これからも稲を育て、お米を作る努力が行われていくことでしょう。私ども農研機構も稲の品種育成、生産性の高い水田輪作体系確立などを目指して研究開発を行っています。

米カレンダー2013年2月米カレンダー2013年11月

一方、稲作は日本あるいは各地域の文化や環境にも大きな影響を与えてきました。伝統的な農林水産業が文化や環境の維持に果たしてきた役割を評価し、その保全を支援するため国際連合食糧農業機関(FAO)は世界農業遺産(GIAHS)の認定を行っています。2012年、能登(石川県)と佐渡(新潟県)が先進国の地域として初めてこれに認定されました。「能登の里山・里海」は、農林水産業と一体的に維持・保存されてきた伝統的な農村文化の姿が認められました。佐渡の「トキと暮らす郷づくり」はトキが棲める豊かな生態系を維持した里山と農業の姿が認められました。日本でも農林水産業が果たしている多面的な役割を評価しようとの考えは広がりをみせています。その先駆者である富山和子氏の「米カレンダー」は有名ですが、2013年版は両地域の写真を掲載した世界農業遺産登録記念号となりました。そのカレンダー中の富山和子氏自作の詩の中に「日本列島全体が世界遺産」との言葉があります。その言葉どおり、稲作などの農林水産業を通じて形成された美しい農村風景や特徴ある文化は日本の各所に残っており、人々の営みの中でそれが保全されていくことが期待されます。

米カレンダー展の様子

日本人は古代より稲を育て、稲と深い関わりを持つ文化を発達させてきました。茨城県つくば市にある「食と農の科学館」では、国の農林水産研究機関の研究成果に加え、古い農機具の展示などにより日本の農業技術の変遷を紹介しています。また、平成25年4月10日まで「富山和子が作る米カレンダー展」を開催しています。お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい。