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注目の水稲直播技術

直播(ちょくはん)は田植えをせずに直接水田に種子(種籾)を播く水稲生産技術です。今、新しい直播技術が生産者の注目を集め、普及が進んでいます。苗づくりと田植えはとても労力がかかる作業ですが、直播はその工程をはぶき、省力化や労力ピークの分散を可能にします。今回は農研機構が開発した2つの直播技術を紹介します。

 

大規模水田輪作に向く!グレーンドリルを用いた水稲乾田直播

乾いた状態の大区画水田で、グレーンドリルという畑作用の大型播種機を使って水稲の種子を播き、発芽・苗立ちの後に水田に水を入れる栽培方法です。労力のかかる育苗・田植えの必要がなく、大幅な省力化・低コスト化が可能です。大型機械は麦、大豆栽培にも使用できるので、これらの作物との輪作経営に適しています。

耕起、播種は高速作業

グレーンドリルは北海道・東北地域などの大規模農家で使われている麦の高速播種機です。ケンブリッジローラ等の機械により、播種前後に土壌を踏み固める鎮圧という作業を行います。耕起作業も、スタブルカルチ等の機械によるプラウ耕(耕起)で高速作業を行います。従来の水稲栽培で使用されるロータリーの耕起作業の速度は約2~3km/hrですが、スタブルカルチは8km/hrの高速作業が可能です。


耕起

播種床造成(播種前)・鎮圧(播種後)

播種

硬い播種床造成と播種後の鎮圧がポイント

耕起した柔らかい土壌と異なり、鎮圧された硬い播種床はワゴン車が水田に入れるほどです。これが苗立ちを安定させ、漏水を防止します。稲の丈が低くて倒れにくく、収量が多い、つまり直播適性が高い品種選択も重要です。


播種床造成時

苗立ち

収穫期

労働時間は1/4に、生産コストは半減(岩手県での実証試験)

育苗・田植えがないこと、大型機械を使った高能率化で労働時間は大幅削減。直播適性の高い品種「萌えみのり」使用で収量は600kg/10a以上を維持しました。慣行の東北平均と比較して10a当たり労働時間は1/4に、60kg当たり生産コストは55%まで低減しました。

大規模でも小規模でもいける!鉄コーティング湛水直播

鉄粉でコーティングした種子を水田の表面に播種する技術です。水田の表面にまくため、様々な播種機を用いることができます。鉄粉で種子が重くなるので表面播種で問題だった浮き苗が生じにくく、鳥による食害も少ないことが特長です。育苗・田植えがないので春の作業時間が削減されます。また、収穫時期が遅くなるため、田植えを行う移植栽培との組み合わせで秋の収穫作業ピークを緩和できます。

鉄コーティング種子は農閑期に作る

鉄粉と焼石膏(しょうせっこう)でコーティングし、発芽しやすい乾燥種子をつくります。コーティングは農家が自分で行うことができ、出来上がった種子は農閑期に製造し常温で4ヶ月以上の長期保存が可能です(慣行式)。そのため、企業や農協等で大量に製造することが可能で、鉄コーティング済の種子は販売もされています。一方、保存期間が短いものの発芽が早く乾燥が不要な密封式もあります。


模式図

鉄コーティング種子(左:慣行式、右:密封式)

農家での鉄コーティング作業

無人ヘリなどで表面播種

種子を水田の表面にまくだけなので専用播種機以外でも播種が可能です。水田の大きさに応じた播種方法を選べます。直播に適した品種を用いることで移植栽培(田植えを行う栽培)並みの収量が確保できます。除草剤を散布しながらきれいに点播できる専用の点播機も市販されています。


点播機

無人ヘリコプター

背負式動力散布機

成熟期

春秋の労働ピークを下げ、生産コスト低減(実証試験)

育苗・田植えがないので春の作業時間が約1/10になりました。重い苗箱運搬作業もありません。移植に比べて収穫時期が10日程度遅れるので、秋の収穫作業のピークが軽減しました。直播適性品種「もえみのり」使用で収量600kg/10aを確保しつつ、省力化と資材費削減により水稲60kg当たり生産費用が80%に減少しました。