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「農6」ユーザーに押され普及へ

「かんきつ中間母本農6号」という名前の新品種があります。育種に使うための素材としての利用を想定して品種登録されました。しかし、本品種に関する小売・流通・加工関係者の評価は予想外に高く、それ自体の普及が始まっています。今回はこの異色の新品種、通称「農6(のうろく)」を紹介します。

予想外の展開で普及が始まる

「中間母本」とは、実用品種としては欠点があるが、優れた遺伝的特性を持つため、育種関係者が利用するための新品種や系統です。研究機関や種苗会社は中間母本を交配親として使い、その優れた特性を持つ実用品種を育成します。「かんきつ中間母本農6号」は農研機構果樹研究所が育成したもので、平成13年10月に中間母本として命名登録されました。甘く濃厚な食味、多くの機能性成分を高い濃度で含有、完全無核(種なし)、豊産性、省力生産に向く性質など特筆すべき特徴を持っています。しかしながら、小玉である、皮がむきにくい等の欠点があるため中間母本として品種登録されたのです。なお、種苗法に基づく育成者権に関しては実用品種と異なるものではありません。

ジュース用の果実

生ジュースの販売(写真はジュース用の果実)

かんきつ中間母本農6号を使用したお菓子

本品種を使用したお菓子(市販品)


この品種が紹介されると、関係者からは予想外の反応がありました。多少の欠点があるにしても、その優れた特質から、この品種をすぐに利用したいとの声があがり、熊本県、山口県、愛媛県などで生産が始まりました。小売の現場でも、大手菓子メーカーで、本品種を利用した製品が作られたり、高級果実店で本品種の生ジュースが販売されたりしています。本品種の生産はまだ少なく、通常は口にすることが難しいので、皆様がこうした製品を目にする機会がありましたら是非お試し下さい。

「かんきつ中間母本農6号」の特徴

「かんきつ中間母本農6号」は以下のような特徴を持つ新品種です。また、本品種を用いて、画期的な生産技術の研究、より優れた品種の育成が進められています。

  • ■濃厚な食味が特徴
    晩生の「キングマンダリン」に「種なし」で早生の「無核紀州」を交配して育成されました。「キングマンダリン」に似た良い食味で高糖度です。果実の成熟期は1月下旬~2月上旬です。貯蔵性が大変良く、低温貯蔵で初夏まで保存できます。

    ■完全無核(種なし)
    「無核紀州」の性質を受け継ぎ「種なし」です。この性質は後代に強く遺伝するため、本品種は、「種なし」の品種を作るための交配親(花粉親)として有用です。

    ■機能性成分を豊富に含む
    果肉や果皮に、健康に良い作用を持つとされる機能性成分のβ-クリプトキサンチン、ノビレチン、シネフリンなどを多く含みます。

    ■豊産性でジュースなど加工用に向く
    濃いだいだい色で機能性成分を豊富に含む濃厚な食味のジュースが作れます。一方、生食の場合、果実がやや小さく、果皮がやや厚く、皮がむきにくい等の多少のデメリットがあります。

    ■栽培しやすい。画期的な生産技術の研究が進む。
    収量が高く隔年結果性が弱いので、連年安定生産が可能です。かんきつの重要病害であるかいよう病には比較的強く、栽培しやすい特徴があります。さらに、本品種の果皮が締まっていて丈夫という特性を生かし、引きもぎ(ハサミを使わず手でもぐ収穫方法)による画期的な省力生産技術、加工向けの減農薬生産技術などが考えられ、技術の確立に向け研究が進められています。

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