「旬」の話題

研究員のすがお【渋谷 健市】

研究員の写真

野菜花き研究部門
花き生産流通研究領域品質制御ユニット 上級研究員
渋谷 健市 ( しぶや けんいち )

研究者の写真
野菜花き研究部門では、消費者により美しい状態で花を届けるため、花の日持ちの研究が行われています。今回はアサガオから花の寿命を調節する遺伝子を発見した、渋谷健市さんにお話を伺いました。
インタビュアー

所属する花き生産流通研究領域品質制御ユニットでは、どのような研究が行われているのですか?

渋谷さん

花きの栽培方法から、収穫、栽培中の病気などについて研究する領域です 。その中でも品質制御ユニットは、花の色や香りなどの品質や流通、新規利用法など、主に収穫した後の技術を研究しています。一番のテーマは、花の「日持ち」をよくするということですね。茎や枝から切った後に、農家さんが日持ちをよくする薬剤を使ったり、流通の過程の品質管理技術を開発し、消費者の手に渡ったときにお花をできるだけ長く楽しんでもらえるように、良い状態にすることを研究しています。

インタビュアー

渋谷さんの研究対象のアサガオ は、「日持ち」とは真逆の印象がありますが...。

渋谷さん

ご存じの通り、アサガオは半日ほどであっという間にしおれます。しかし逆に言えば、私が研究している花の老化が現象として分かりやすく、結果も早く出るため解析しやすいんです。そこでアサガオをモデル植物として使い、アサガオで言えることは、バラやユリ、生産量の多い他の花にも同じことが言えるだろうと考えたんです。

インタビュアー

現状で花の日持ちはどのように延ばしているのでしょうか。

渋谷さん

花には、植物自身が作るエチレンという植物ホルモンの働きで老化が進行するものと、エチレンが老化に関与しないものがあります。前者はエチレン依存性花き、カーネーションなどのエチレンを抑えることで日持ちをよくすることができます。しかしアサガオやユリなどの非依存性の花には、1 つ 1つの花の老化を抑えるような方法がないんです。日持ちを延ばす薬剤はあるものの、根本的に老化を遅らせるということが難しい。そこで花の老化のメカニズムを解明し、日持ちを延ばす突破口にできたらと思っています。

インタビュアー

そもそも花の老化とは、どのようなものなのでしょうか?

渋谷さん

種子をつくるための器官である花がしおれることで、その老化とは細胞死のことを言います。受粉のために昆虫などを引き寄せる役割を終え、花弁(花びら)の細胞自ら進んで死んでいく現象です。そこでエチレン依存性、非依存性に関わらず、花がしおれるのにはもっと根本的かつ、共通する老化の仕組みがあるのではないかと考え、アサガオに老化を促す遺伝子があることを発見しました。

インタビュアー

この発見は今後どのような形で活用されるのでしょうか?

渋谷さん

技術としては大きく2つのアプローチがあると思っています。1つ目は、老化を促す遺伝子を抑制する品種を作ることですね。この場合は、ゲノム編集の技術も応用できるでしょう。もうひとつ、私が今メインで考えているのは、薬剤を使う方法です。花を切り取った後に使えるような薬なら使い勝手が良く、一 般にも普及しやすくなります。いろんな花に使えて、日持ちが延びる薬剤ができたらいいなと思っています。

インタビュアー

老化の仕組みについての発見は、研究の幅が広がりそうですね。

渋谷さん

そう思います。花の寿命というのは本当にいろいろなんですよ。アサガオのように数時間のものもあれば、1つの花で1~2ヶ月咲いているものもあります。寿命って何だろうと改めて考える機会になりましたし、おそらく植物の進化にも関係があるテーマなので、さらにこの研究に発展があるといいなと期待しています。

インタビュアー

現在はいろいろな花で老化の仕組みを検証する段階でしょうか。

渋谷さん

農研機構で、他の花にも同じ仕組みがあるかどうかを順次調べています。研究者同士で情報交換もしていますが、この発見をまとめた論文を参考に、他の花で研究を進めてくれている方もいます。

なろりん

反響が大きかったんだね!

渋谷さん

研究者の方以外の反響も大きかったんです。これはアサガオという歴史のある花ならではなんでしょうけど、新聞のコラムにも、この研究成果が与謝蕪村の句と並べて紹介されたんですよ。私が以前研究していたカーネーションやペチュニアは、なかなか俳句にはならないですもんね(笑)。

インタビュアー

俳句と並ぶ記事とは、なんて風流! 花の研究一筋ですが、子どもの頃から花に親しんでいたのですか?

渋谷さん

母が花の好きな人で、いつも身近に花がありましたね。また実家は果樹農家なので、モモやリンゴの花摘みもよく手伝っていましたよ。

なろりん

おうちが果樹農家なのに、花の研究者なの?

渋谷さん

周囲からも「なんで果樹茶業研究部門じゃないんだ」って、よく言われます(笑)。でも農家だったから植物に興味があり、花の咲く時期や実のなる時期、薬剤についても自然と知識が身につく環境だったんです。

なろりん

自分の家でもアサガオを育てているの?

渋谷さん

子どもが学校でアサガオの種をもらってきたので、今年は育ててみようかと思っています。

なろりん

アサガオ、きれいに咲くといいね! お休みの日は何をしているの?

渋谷さん

去年から子どもと一緒に空手を始めたんです。体を動かすのは気持ちがいいですね! まだ私と子どもとどちらが先に上達するかという感じですが、もう少しかっこよく空手をできるようになりたいです(笑)。

インタビュアー

家族と過ごす時間はやはりリフレッシュタイムになっていますね。

渋谷さん

アサガオに集中していた頃の私は、急に空中を見て動きが止まるようなことが何度もあったんです。それを見 た家族に「 今、研究のこと考えてたでしょ?」ってよく言われましたね(笑)。実際そういう状態のときに、「こういう実験をしたら、もっとこんなことが言えるんじゃないか」なんて、良い発想が浮かぶこともあったんですよ。ひょっとしたら、子どもの一言などが発想のきっかけということもあったかもしれませんね。家族と一緒に過ごす時間は、私の研究の刺激にもなっています

※摘花のこと。果実の出来を良くするために、生育の良いものを残し、余分な花を間引くこと。

研究者プロフィール

野菜花き研究部門
花き生産流通研究領域品質制御ユニット 上級研究員
渋谷 健市 ( しぶや けんいち )

1974年福島県生まれ。
1996年東北大学農学部卒業、2001年東北大学大学院農学研究科博士課程修了。同年より米国フロリダ大学博士研究員、2005年日本学術振興会特別研究員(農業生物資源研究所)を経て、2007年に農研機構花き研究所に任期付研究員として入所。2016年より現職。
大学の研究室で花を用いた植物ホルモンの研究を担当し、以降テーマは変わっても花に関する研究を続け、現在に至る。
2011年園芸学会奨 励賞、日本農学進歩賞、2015年 NARO Research Prize 2015を受賞。

なろりん

なろりん

農研機構のキャラクター。ダイバーシティ推進室所属。お仕事はダイバーシティ推進室の取り組みを紹介すること。全国を訪れてレポートすること。

なろりんブログ

広報誌「NARO」No.11 掲載記事